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JSTと東工大、新しい酸化物超電導体LaOFePを発見

2006-07-18 (黒川 卓)
素材  測定  IT 

 科学技術振興機構(JST)は東京工業大学と協同で、層状構造の新しい酸化物超電導体を発見した。酸化物超電導体としては遷移金属の銅(Cu)を含む物質がよく知られ、すでに産業界で実用化が始まっている。今回発見されたのは、Cuの代わりに遷移金属の鉄(Fe)を含む酸化超電導体。超電導転移する温度(Tc)は4Kと今のところ低いが、今後、構成元素の種類と組成比を変えることによってTcをさらに高められる可能性がある。

 今回発見された超電導体の化学組成はLaOFeP(ランタン・鉄・リン酸化物)。JSTが進める「透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開」プロジェクトで発見された。結晶構造は、LnOMPh(Ln=希土類元素、O=酸素、M=遷移金属、Ph=15族のP・As・Sbなど)で表記される物質群に属している。同プロジェクトの細野秀雄研究総括(東工大教授)らは、 (FeP)層と(LaO)層が交互に積層したこの物質(Fig1)の超電導は(FeP)層が担っており、キャリアはFe2+イオンの3d電子だと推定している。


Fig1  LaOFePの層状構造

 超電導特性は、電気抵抗と磁化率で測定された(Fig2)。電気抵抗は約4Kで急激に減少(a)、外部磁界を印加することでTcが低下(b)、磁化の温度カーブで超電導特有のマイスナー効果を示した(c)。


Fig2 超電導特性の測定データ

 今回の研究では、新しい酸化物超電導体が発見された以外に興味深い物性データが得られた。例えばFe2+イオンより3d電子が1つ少ないMn2+イオン(Mn=マンガン)を含むLaOMnPは半導体で反強磁性体、Fe2+イオンより3d電子が1つ多いCo2+イオン(Co=コバルト)を含むLaOCoPは金属で強磁性体であることがわかった。

 これらの結果から、3d電子の数をコントロールすることで物性を大きく変化させられる知見が得られた。そのため、LaOFePのTcは今のところ約4Kと低いものの、3d電子の数を最適化することでTcをさらに高められると研究チームは期待している。ちなみに、銅酸化物系のTcも発見当時は低かったが、その後の研究によって140K近い値まで上がっている。なお今回の成果は、米国化学会(ACS)が発行する『Journal of American Chemical Society(JACS)』の7月15日付オンライン版で公開された。





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