ナノポーラス結晶C12A7の伝導性発現が読売新聞に紹介される

当研究室とJST-ERATO「細野透明電子活性プロジェクト」が見出した典型的絶縁体12CaO・7Al2O3(C12A7)が光で電子導電体に変化できること(Nature 2002)、酸素イオンを置き換えるエレクトライドになり室温で140Scm-1という高い伝導性を示すこと(Science 2003)、そして、最近、Physical Review Lettersに報告したそのメカニズムが、11月4日の読売新聞(朝刊)の科学欄に紹介されました。とても有り難いことだと感謝しています。以下のような多彩な新現象をすべて自分たちの手で見出してきたわけですが、是非とも論文だけでなく、世の中に役立つ形にしたいと思います。





研究室OB 太田裕道氏 名古屋大学の助教授に就任!

 研究室のOBの太田裕道博士が、101日付で名古屋大学工学系大学院の助教授に就任しました。太田君は(株)ホーヤに在職中に社会人ドクターコースに入学し、JST ERATO「透明電子活性プロジェクト」に出向し、透明酸化物半導体薄膜の作製とそのデバイスへの応用に取り組んでいました。20003月に透明酸化物半導体のPN接合で初めて紫外発光ダイオードを実現し(APL, 2000)、応用物理学会から講演奨励賞を授与されました。また、透明導電体ITOの世界最高データは彼がエピ成長で作製したもので、この分野では今でもトップデータとして信頼されています(APL, 2000)。複雑な結晶構造をもつ酸化物の良質薄膜を作製することは物性研究だけでなくデバイス応用を図るためにも不可欠です。太田君は「反応性固相エピタキシャル法(R-SPE法)」という独自のエピ膜作製法を考案しました(Adv.Funct.Mater, 2002)。この方法によりホモロガス化合物などこれまで作製が困難であった興味ある物質のエピ膜を作製できるようになり、高性能透明トランジスタ(Science, 2003)などの実現につながりました。また、最近では超平坦ITO薄膜上にバナジルフタロシアニンのエピ成長に成功しています(Advanced Mater 2003)。彼は弱冠31歳の若さですが、これらの研究成果のより多くの国際会議で招待講演をおこなっています。


大学院生 学会、共同研究のため海外へ!

 今年は、4月にD3 平松君がアメリカ真空学会(サンディエゴ)に招待講演、6月にD3 野村君がスペインの電子デバイスの国際会議で講演、7月にD2 斎藤君がイタリアのPhysics of Non-Crystalline Solidsで講演を、9月にはD2の松石君がスロベニアで開催されたアンペール会議で講演、10月には平松君がイタリアのCOLAで講演をおこないました。また、3月には松石君がイギリスへ1週間、9月にはM1の大野、武田君がオレゴン州立大学のTate研究室で柳さんと一緒に2週間ほど共同研究で出かけました。これからは国内も国外もあまり区別せず、学会発表や共同研究に出かけましょう。


C12A7が新ナノ材料−打ち出の小槌−として特集される! 

本研究室+JST ERATO透明電子活性プロジェクトが、ここ4年近く取り組んできました12CaO7Al2O3C12A7)結晶の特異的構造を利用した研究成果が、103日の日刊工業新聞の先端技術欄に特集されました。
○ 「幻の化学種:O-」を大量に包接しPtさえ酸化できる超酸化力(J.Am.Chem.Soc. Rapid Commun, 2002)
○ 電場を印加で高密度O-イオンビームを発生(Appl.Phys.Lett, Electrochem.Soc.Lett., 2002 
H-を包接させることで紫外光照射で絶縁体から電子導電体に変換(Nature, 2002
プロトンのイオン注入でC12A7を透明導電性薄膜に(Advanced Material, 2003
C12A7を使い電子がアニオンとしてはたらくエレクトライドで初めて室温・空気中で安定な物質を実現(Science, 2003
C12A7の上記の機能発現の機構を第1原理計算で解明(Phys.Rev.Lett., 2003

 全く機能材料として考えられていなかったセメントの構成物質を、独自の視点からアプローチして実現してきたもので、100%オリジナルと胸をはれる成果です。研究論文だけでなく、世の中に直接的に役立つ形に仕上げたいと思っています。


C12A7の伝導性発現のメカニズムを第1原理計算で解明
Physical Review Lettersに掲載) !

 12CaO・7Al2O3C12A7)結晶は、アルミナセメントの構成成分としてよく知られている物質です。この物質は、直径4A程度の籠から構成されているナノポーラス結晶です。
本研究グループはこの籠の中にH-を包接させてこれに紫外線にさらすと、この典型的な絶縁体であると信じていた物質が、電子導電体に永久に転化することを昨年の10月に報告(Nature,419,462(2003))しました。また、電子を包接することにも成功し、これが電子がアニオンとして振舞うエレクトライドの年来の課題であった、室温・空気中で安定なエレクトライドの実現につながりました(Science,301,549(2003))。
 なぜ電子を包接すると電気が流れるようになるかということの定性的な説明は既に上記の論文中で書いていましたが、精度の高い(大きな系、励起状態での構造緩和をとりいれる)で計算でそれを裏つけることができました。時間依存密度凡関数法による埋め込み型クラスター計算によって、ケージ中にトラップされた電子の隣接する空のケージへの遷移に対応する光吸収のエネルギーが約0.6eVと算出されました。この値は電気伝導の活性化エネルギーの約2倍で、電子のホッピングによる関係とよく一致しました。すなわち、ケージ中の電子の隣接するケージへの移動で電気伝導が生じていることが定量的に明らかになったわけです。空のケージは主役を演じていたのです。 

 これらの成果は
918日発行のPhysical Review Lettersに掲載されました。




P型アモルファス酸化物を実現 !

PN接合は多彩な半導体機能のオリジンです。結晶の透明酸化物半導体では1997年に本研究グループがP型物質を発見して以来、紫外発光ダイオード、高性能透明トランジスタなどが実現し、透明酸化物半導体という世界が拓けつつあります。
 一方、アモルファスではN型物質はこれまでいくつか報告されてきましたが、結晶でP型が実現したあともアモルファスではP型は得られていませんでした。
 最近、本研究グループははじめてP型アモルファス酸化物を見出しました。ZnORh2O3をスパッタ−法で作成したアモルファス薄膜がそれです。ガラスやプラスチックの上に室温で容易に成膜することができる点が結晶よりも明らかに有利です。そして、この物質とN型のIn2O3-Ga2O3-ZnO系薄膜(本グループが2000年に報告)から室温でPN接合を形成したところ、良好な整流特性が得られた。異なる物質のPN接合では、原子オーダで良好な界面の形成が難しいが、アモルファスでは室温で薄膜を堆積しただけで、このような特性がみられる。大面積のダイオードを室温で作製するのに極めて好都合といえよう。

 この研究成果は91日発行のAdvanced Materials15, 1409(2003))に掲載された。




研究成果が科学雑誌「ニュートン」10月号(8月26日発行)に特集される !

 科学雑誌「ニュートン」に、ERATO 細野透明電子活性プロジェクトと東工大応セラ研細野・神谷研究室が取り組んでいる主なテーマの一つである透明酸化物半導体の研究成果が特集されました。以下のようなヒストリが紹介されています。川副・細野研究室のときに独力で立ち上げてきたものが、このような形で取り上げていただくまでに至ったわけで本当に隔世の感があります。如何に新しい分野を立ち上げるには孤独な作業を必要とするか実感させられます。また、小さな核を育てるのに若い力が有効かということも同時に実感いたします。これから、さらに新しいフロンティアの開拓に邁進したいと思います。 

1997年 P型透明酸化物半導体の発見(Nature

2000年 全酸化物紫外発光ダイオードの実現(APL

2000年 世界最高の導電率をもつITOを実現(APL

2001年 透明酸化物半導体で初めて両極性(PN制御)を実現(APL

2002年 CaOAl2O3からなる典型的透明絶縁体を光で透明電子導電体に変換(Nature

2003年 ポリシリコン並みの移動度をもつ透明トランジスタを実現(Science

2003年 室温で安定な電子がアニオンとして働くイオン結晶

エレクトライドの合成に成功(Science





7/31/03
室温・空気中で安定なエレクトライドを実現
〜エキゾチックマテリアルに応用の道を拓く〜

科学技術振興事業団創造科学技術推進事業(ERATO)細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)は、東工大応用セラミックス研究所と山梨大学クリスタル科学研究センターの協力を得て、室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に初めて成功した。
 結晶といえば、食塩のように陽イオンと陰イオンが結びついたイオン結晶が、その代表である。こうしたイオン結晶のなかで、陰イオンの占めるべき位置を電子が占める物質は1974年に合成され、エレクトライドと命名された。電子は負の電荷をもつという点では陰イオンと同じであるが、質量が小さく量子力学的に振舞うという点で陰イオンと異なるため、エレクトロライドはユニークな性質を示すことが、知られている。しかしながら、これまでに報告されてきたエレクトライドは、アルカリ金属をクラウンエーテルの有機分子に溶解させることによって合成されていたので、最も安定なものでも−40℃以上では分解し、また空気に曝すと反応してしまうなど、熱的にも化学的に不安定なため、応用の道が閉ざされていた。そのため、室温で容易に扱える安定なエレクトライドの実現は、その発見以来の最大の課題となっていた。
 同プロジェクトの細野リーダーと松石聡研究員(東工大細野研D2)らは、12CaO7Al2O3(C12A7)というセメントの原料になっている物質の構造が、C60と類似のケージ(籠)が充填して構成され、その中に酸素イオンが包接されていることに着目し、これらの酸素イオンの全てを化学処理によって電子に置き換えることで、空気中でも300℃程度まで安定なエレクトライドを初めて実現した。合成されたエレクトライドは、濃緑色の固体で室温100Scm-1という高い電気伝導度を示す。
 これまでエレクトロライドには、冷電子放出源、赤外線検出素子、還元試薬など興味深い応用が期待されていたが、今回の成功で応用の可能性が初めて現実的になった。また、数センチメートルの大きさの単結晶も得られているので、応用研究だけでなく、物性研究も飛躍的に加速されるものと期待される。 

 本研究成果は8月1日付けの米科学誌「サイエンス」に掲載される。  

1.エレクトライドとは?

食塩NaClはNa+イオンとCl-イオンが結びついてできている結晶である。このように陽イオンと陰イオンがクーロン力で結合して規則的な配列をつくっている固体をイオン結晶という。電子はマイナスの電荷をもつので、究極のイオンともみなすことができる。1974年に米国ミシガン州立大学のJames L.Dyeは、アルカリ金属をクラウンエーテルの有機溶媒に溶解し溶媒を蒸発させると深青色の結晶が得た。そして、その結晶は図1のように、アルカリ原子が陽イオンと電子に解離して、陽イオンがクラウンエーテル分子によって包接されてしまい、電子と再結合できなくなり、電子が陰イオンとはたらき、イオン結晶となっていることを発見した。このように、電子が陰イオンとなって構成される形成されるイオン結晶を“エレクトライド”と命名した。

図1.これまでのエレクトライドの代表的な例。緑:セシウムイオン、ピンク:電子、赤:炭素、白:酸素。セシウムイオンはクラウンエーテル分子に囲まれ、大きな陽イオンになり、電子が陰イオンになって、イオン結晶を形成している。


2.これまでのエレクトライドの研究

  エレクトライドは、究極に陰イオンとみなすことができる電子が、陽イオンとともに結晶を形成する。液体アンモニアにアルカリ金属を溶解させると、アルカリ金属の陽イオンと溶媒和された電子が生成するが、エレクトライドは、固体に溶媒和した電子が陰イオンとしてはたらくという極めてエキゾチックな物質なため、多くの研究者の関心を呼び、1974年の発見以来、多種の物質の合成、構造解析、電子状態の計算、そして物性の研究がおこなわれてきた。そして、最近では大学の無機化学の代表的な教科書類にも記載されよほどになっている。
 しかしながら、有機分子と活性なアルカリ金属の組み合わせから成るこれまでのエレクトライドが、−40℃以下の低温、かつ空気を遮断した雰囲気下でのみ安定なため、その取り扱いは容易ではなく、物性研究は遅れがちで、興味深い性質をもつにも関わらす、応用の道は全く開けていなかった。そのため、室温付近で通常の雰囲気下でも安定なエレクトラドを合成しようという試みは、20年来続いていた。最近では、有機分子の代わりの無機物質を使って、これにアルカリ金属を溶解させることで、この課題を克服しようという研究が米国を中心に行なれていた。


3。     本研究グループのアプローチ

アルミナセメントの構成成分の一つである12CaO7Al2O3C12A7)の構造は、直径約4オングストロームのプラスの電荷を帯びたケージ(籠)が立体的に積み重なって構成されている。そして、ケージの中にはそのプラス電荷を中和するために、酸素イオン(O2-)が包接されている。このような緩く束縛された酸素イオンは、“フリー酸素イオン”と呼ばれている。研究グループは、このフリー酸素イオンの存在に着目し、これを通常の条件下では不安定な活性マイナスイオンで置き換えることで、新しい機能の発現を狙ってきた。その結果、O-イオン(通常の酸素イオンはO2-)で置き換えた物質は、酸化しにくい金属の代表である白金さえ酸化してしまう超酸化力を示し、H-イオン(通常の水素イオンはH+)を包接した物質は、紫外線を照射すると、光の当たった部位だけが電気が流れる状態に変わるなどの新しい機能を発見(昨年10Nature誌に)してきた。

 

図2.C12A7の結晶構造を構成するケージ。直径が約0.4nmC60のような球状をしており、プラスの電荷を帯びているので、ケージの中には酸素イオンが包接されている。

今回は、フリー酸素イオンを究極の陰イオンともいうべき電子で100%置き換えることを試みた。具体的にはC12A7の単結晶を金属カルシウムの小片ともに、ガラス管に封入し加熱することで、ケージからフリー酸素イオンを100%引き抜き、代わりに電子をケージ中に包接することに成功した。得られたエレクトライドの構造を図3に示す。

 

図3.合成された室温・空気中で安定なエレクトライドの構造の模式図。

ナノサイズの籠の中に、フリー酸素イオンが包接されていたが、電子(緑色の球)に100%置き換わっている。黄色の部分が繰り返しの最小単位である単位胞で、一辺の長さは1.2nm

 処理前のC12A7の単結晶は、無色透明でガラスのような外観をしており、電気を全く流さない絶縁体であるが、処理によってケージ中に電子が包接されはじめると、緑色を帯びてきて、最終的には濃緑色(試料が厚いと外観は黒色)になり、良く電気を流す状態(100Scm-1)に変わる。つまり、電気をよく通すセメントができたことになる。このような状態になっても試料は、空気中で室温はもとより300℃程度まで安定で、素手で扱っても変質するようなことはない。

  図4.ケージ中のフリー酸素イオンを順次、電子に置き換えていく時のC12A7単結晶の色の変化。左端が未処理のもので電気を全く通さない。右に行くにつれて酸素イオンと電子が置き換わっていき、100%置き変わったものが右端でかなり良く電気を通す。

4.本研究成果のインパクト

 本研究の成果は、室温・空気中で安定なエレクトライドを初めて、しかも単結晶の形で合成できたことである。
 この成功には、以下のインパクトがある。
(1)   エレクトライドのユニークな物性を活かした応用の可能性が初めて現実のものとなった。すぐに考えられる具体的応用としては、電子がナノケージに高濃度に緩く束縛されているので、冷電子放出源、赤外線検出素子、還元試薬などがある。
(2)   物質本来の性質の研究に必須の安定な単結晶が得られたことにより、未知の物性を秘めているエレクトライドの研究は飛躍的に進展する。
(3)   古くから知られていたセメントの構成成分12CaO7Al2O3結晶の構造中のナノケージから酸素イオンを引き抜くことで、絶縁体が電子良導電体に永久的に変換することができた。環境調和性が高く、資源的にも無尽蔵な物質だけからなる物質で、初めての電子導電性物質が発見されたことになる

用語解説

「冷電子放出源」 テレビのブラウン管に使われている電子銃は、高温に加熱して、かつ電界を印加することで電子を真空中に放出している。これに対して、試料を加熱することなく、電場をかけるだけで電子を放出できる物質をいう。熱電子放出に比べ、エネルギー消費が少なく、きれいなビームが得られるため、ディスプレイなどいろいろな応用が期待されている。電子を放出し易く安定な物質が不可欠。



6/05/03
シリカ中のダングリングボンドの異常性を初めて解明

−超共役の概念を導入−

 アモルファスシリカ(SiO2)は、光ファイバーや半導体の酸化膜の材料で、シリコンとともに現代のハイテク社会を支える最も重要な物質です。シリカはSiO4の4面体を基本構成単位として、これが頂点を共有することで出来上がっています。しかしながら、放射線やレーザーなどを照射するとSi-O-Si結合が切断されて、Si-O・というダングリングボンドが生成します。このダングリングボンドは、赤色の蛍光を発するのですが、ストークスシフトが極めて小さく、殆ど共鳴蛍光とみなせます。また、驚いたことに蛍光にゼロフォノン線が観測されます。電子−格子相互作用が極めて小さいということです。このように
よく知られた欠陥なのですが、上記のように光学的特異性をもち、それが謎のまま残っていました。
  本研究室とERATO細野透明電子活性プロジェクトは、真空紫外レーザーとシリカの相互作用を明らかにしつつ、深紫外用光ファイバーの開発を行っています。上記のダングリングボンドは、リソグラフィーで重要な6〜7eV付近に振動子強度の大きな吸収を与えることを見出し、その起源の解明を計算からアプローチしていました。その結果、励起状態が超共役(Hyperconjugation)という概念を導入することで、大きく安定化されることがわかりました。これにより、長い間puzzlingであったダングリングボンドの特異的性質が電子状態から理解できるようになりました。
 この成果は5月にPhysical Review Lettersに掲載されました。鈴木健伸博士(研究室OB,現 豊田工大)とLinards Skuja博士(Latvia大学&ERATO)らの精進の賜物です。 
この論文は、本研究Gからの6報めのPRL論文になります。


5/27/03
米科学誌「サイエンス」5月23日号に掲載

科学技術振興事業団 創造科学推進事業(ERATO)細野透明電子活性プロジェクトと,東工大応用セラミックス研究所 細野研究室は、透明酸化物半導体の薄膜単結晶を独自に考案した「反応性固相エピタキシャル成長法」を応用することで、InGaO3(ZnO)5という透明酸化物の薄膜単結晶を作製し、これを電子チャンネル、HfO2をゲート酸化膜とすることで、電界を印加しないときは電流が流れないノーマリーオフで、移動度は~80 cm2/V/sという高性能の透明電界効果型トランジスタ(TFET)を実現した。
 この成功には3つのキーがあった。一つは、InGaO3(ZnO)3の結晶構造。すなわち、ZnOにGa3+をドープしたものは、Ga3+がZn2+サイトを置換するので、電子キャリアが生成することはよく知られているが、この物質中では結晶構造から考えて、きちんとした試料ではこのようなことは生じないで絶縁体が得られるだろうと予想した。よって、これまでSnO2やZnOなどの汎用の透明酸化物半導体を使ったTFET作製で困難であったnormally-off特性を実現できると考えた。第2はこんな複雑な物質の薄膜単結晶を簡単につくるかというプロセス。Layer-by-layerで手間をかけて細心の注意を払ってつくる方法は、デバイス化には不向きである。先に本グループが報告した反応エピ法を適用することで、極めて移動度は、3程度であったが、HfO2を採用することで一挙に〜80cm2/V/sまで向上し,有機ELなど高速が要求されるデバイスに応用できるレベルになった。
このデバイスの作製は主に、博士課程3年(ERATO研究員も兼任)の野村研二君が行った。数々の失敗にもめげず、工夫と改良を重ねた賜物です。反応エピはERATO プロジェクトの太田裕道Gリーダー(当研究室OB)が、2年前に考案したものです。
透明酸化物半導体は当研究室の主なテーマにひとつです。透明P型伝導性酸化物の発見(Nature 1997),透明酸化物半導体のPN接合による初めての紫外発光ダイオード(Appl.Phys.Lett.,2000),典型的絶縁性酸化物(C12A7)の光による透明導電体への変換(Nature,2002)に続いて、高性能透明薄膜トランジスタ(Science,2003)が実現したことになります。


「高性能透明トランジスターを実現」

――透明酸化物半導体:InGaO3(ZnO)5膜を用いて――

科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業 細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)は、「反応性固相エピタキシャル法」により育成した「InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜」を電子移動層に用い、また「酸化ハフニューム(HfO2)」をゲート絶縁層に用いた「透明電界効果型トランジスター(FET)」の作製に成功した。このFETは、酸化物半導体でありながら、現在実用化されているポリシリコン並みの特性を持ち、また素子自体が透明であるという特徴がある。FETは、電子回路を構成する基本的な素子であり、この成果は、透明酸化物光・電子回路実現への大きなステップとなることが期待される。
従来の良く知られているZnOやSnO2のような酸化物半導体では、酸素が容易に結晶から抜けるため、電圧を加えない状態でも電流が流れてしまい、電子の移動度も他の化合物半導体に比べ1桁以上低かった。
同プロジェクトは、透明酸化物半導体であるIn2O3、Ga2O3とZnOから構成されるInGaO3(ZnO)5という層状構造をもつ化合物が、構造的に酸素の欠損が生じ難いことに注目し、同プロジェクトが独自に開発した「反応性固相エピタキシャル法」を用いることにより、緻密で平滑な単結晶薄膜を効率的に作成することに成功した。こうして作成された薄膜上に、HfO2をゲート酸化膜として使ってFETを作製することで、オンオフ比が約106、チャンネル内電子の移動度が80cm2/Vsという、従来の酸化物半導体FETのトランジスター特性を1〜3桁向上し、現在使用されているポリシリコン並みの特性を実現した。本材料は、ポリシリコンと違い透明であることから、次世代の表示素子として期待される有機ELの駆動などへの応用のみならず、光・電子回路等の全く新しい用途展開が期待される。本研究成果は、平成15年5月23日付の米国科学誌「サイエンス」に掲載される。

高品質のInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜は、細野プロジェクトが独自に開発した「反応性固相エピタキシャル法(R−SPE)」により育成した。R−SPE法では、まず、イットリア安定化ジルコニヤ(YSZ)単結晶基板上に、極薄のZnOエピタキシャル膜を育成する。その上に、InGaO3(ZnO)5アモルファス膜を室温で堆積する。次に、膜の成分の蒸発を防ぐために上部にYSZ基板を被せ、1400Cで温度アニールする。温度アニールにより、ZnO単結晶層とInGaO3(ZnO)5アモルファス膜が固相反応し、基板上にInGaO3(ZnO)5極薄膜が成長する。成長した膜は、約2nmの高さでInO2 層とGaO/ZnO合金ブロックの層が繰り返しの構造となっていることがわかる。(図1参照)




図1.InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜のA:結晶構造、B:Cの一部の拡大TEM写真、
C:YSZ基板上に育成したもののTEM写真及び電子線回折像

得られたInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜上にアモルファスHfO2薄膜を堆積し、リフトオフ法を用いたリソグラフィー手法により、ソース、ドレイン、及びゲート電極を作製した。なお、HfO2膜は、ゲート絶縁膜として機能する。また、電極材料として、ITO膜を用いて、透明FETを実現している。(図2、図3参照)

図2.透明酸化物電界効果型トランジスターの構造

図3.透明酸化物電界効果型トランジスターの写真と光透過スペクトル

開発したトランジスターは、ゲートに電圧を加えない時は、ソース・ドレイン間には、電流(ドレイン電流)がほとんど流れず、トランジスターのオフ電流がナノアンペア(10-9A)オーダーである。しかし、ゲートに電圧を印可すると電流が流れ始め、ソース・ドレイン間電圧(ドレイン電圧)8V程度以上で電流が飽和する典型的なトランジスター素子特性を示す。その飽和電流は、20ミリアンペア(10-3A)に達し、トランジスターの特性を示す「オン・オフ比」(ゲート電圧の印加によるソース・ドレイン間の電流増幅率)は、約106であり、従来の素子に比較して3桁以上改善された。また、ドレイン電流―ドレイン電圧カーブから得られるチャンネル内電子の移動度も、約80cm2(v・秒)-1という大きな値を示す。この値は、従来の酸化物FETに比べて、1桁以上大きな値である。(図4参照)

図4.透明酸化物電界効果型トランジスターの特性

一般的に酸化物は、酸素欠陥が出来やすく、酸素欠陥は電子ドナーとして作用するために、キャリヤー電子を少なくする事が難しい。このために、ZnOなどの酸化物を用いたFETでは、オフ電流が大きくなってしまう。
これに対して、今回実現した高品質のInGaO3(ZnO)5単結晶薄膜は、層状構造であるために酸素欠陥を除く事が可能で、その結果、キャリヤー電子の少ない固有絶縁体を得ることができ、トランジスターのオフ電流を小さくできた。また、結晶が緻密で欠陥が少ないこと及び層状構造による電子の二次元性により、チャンネル内電子移動度が大きくなり、トランジスターの飽和電流を大きくする事ができた。
更に、高誘電率のHfO2をゲート絶縁膜として用いた事により、チャンネル表面欠陥を減少する事ができ、FETの高性能化に寄与している。



4/07/03
河村賢一氏 平成14年度光科学技術研究振興財団から研究表彰 !


本表彰は光科学に関する基礎的研究または光化学技術の向上に役立つ研究で、その内容が独創的であることが選考基準で、35歳以下の研究者2名以内が毎年選ばれます。河村氏の業績は、「フェムト秒レーザーシングルパルス干渉法の考案とその透明物質でのナノ加工への応用」です。以下が業績の説明です。
  下の写真はこの方法で、シリカガラスの内部に書き込んだ回折格子です。






研究の独創性とインパクト

オリジナリティ

ガラス、サファイアやダイヤモンドなど透明物質は、光学的応用に極めて重要である。もし、これらの物質にレーザーパルスで微細な加工ができれば、回折素子などへの展開が可能となる。しかしながら、透明なため従来のCWやナノ秒レーザーでは微細な加工は不可能であった。フェムト秒レーザーパルスは、尖塔値が極めて高いので、透明物質に対しても非線形光学効果を利用した、熱的要素の少ない綺麗な加工が可能であることが、近年の先駆的研究で明らかになっていた。しかしながら、これまでのfsレーザー加工では、その大きなピークパワーと短いパルス幅のみを利用し、もう一つの特徴である高い可干渉性を積極的に使っていなかった。

河村賢一氏は、再生増幅モードロックチタンサファイヤレーザーの一発のパルスを2つに分け、試料表面付近で時間的・空間的にぴったり重ねることで、過渡的干渉パターンを物質に転写し加工する方法を着想した。そして、独自の加工装置を組み上げた。透明な無機物質の加工には高いレーザーパワーが必要なため、再生増幅したfsレーザーは10Hzのような低繰り返しになる。このような高いピークパワーで、低繰り返しのfsパルスを時間的・空間的にぴったり重ねあわす方法が不可欠である。非線形結晶を用いた和周波発生を用いる方法では、結晶にダメージが入りやすく、また位相整合条件のため、2つのパルスの衝突角度に制限が生じてしまう。氏は2つの強いfsパルスが衝突すると、第3高調波が発生することを見出し、これを応用しタイミングを調整する方法を考案することで、これを解決した。

この装置によって、サファイヤ、シリカ、シリコン、プラスチック、金属など検討した全ての物質の表面に一発のfsパルスで、微小な回折格子を書き込めることを2000年8〜9月に報告した。これはfsパルスの干渉を利用した初のレーザー加工となった。しかしながら、fsレーザーでなければ不可能な物質内部への干渉を利用した加工は、わずかに表面から1ミクロンの領域に限られていた。河村氏は、尖塔値の極めて大きなfsパルスが物質内部に伝播すると、非線形効果により波面が乱れることによる干渉パターンの乱れと、高密度の自由キャリア生成によるレーザー波長での吸収係数の急激な増大が、その原因として考えた。そして、その対策として100fsのパルスの全パワーを変えずにパルス幅を長くしたチャープパルスを用いることで、見事に 1cm-3の立方体のど真ん中に一発のパルスで微小な回折格子を、シリカガラスやサファイヤなどに書き込むことに成功した。

インパクト
  fsレーザーシングルパルス干渉露光法の論文をAppl.Phys.BとJJAPの速報として発表すると、Wiley社のInside R&D Journalは直ちにNewsとしてこれを取り上げた。また、内部に回折格子を書き込める方法はAppl. Phys.Lett.8月5日号に掲載されたが、Photonics Spectrum誌はこれを9月号に最新newsとして取り上げられている。
 
対象論文
1.オリジナル論文
○K.Kawamura, M.Hirano,T.Kamiya, and H.Hosono,"Holographic writing of volume-type microgratings in silica glass by a single chirped laser pulse," Applied Physics Letters, 81, 1137(2002).
 感光性のない透明物質の内部に、たった一発のレーザパルスでマイクログレーティングを書き込むことができることを示した初めての報告。再生増幅したフェムト秒レーザーパルスを500fsから1psまでチャープすることがキーである。業績の中心となる論文。 

○K.Kawamura, N.Itoh, N.Sarukura, M.Hirano, and H.Hosono,"New adjustment technique for time coincidence of femtosecond laser pulses using third harmonic generation in air and its application to hologram encoding system," Review of Scientific Instrument 73, 1711(2002).
 2つのfsパルスを時間的・空間的にぴったり重ねること手法の開発がこの方法のキーとなる。空気からの第3高調波発生が顕著に増大する現象を見出し、これを利用することで、位相整合や結晶のダメージという束縛がない、自由度の大きい方法を提案し、透明物質のfsシングルパルス干渉露光による微細加工用の装置を作成。

○K.Kawamura, E.Motomitsu, M.Hirano, and H.Hosono,"Formation of microstructure in SiO2 thin film by a femtosecond laser pulse," Jpn.J.Appl.Phys.41, 4400(2002)
シングルパルス干渉露光法のより、シリコン酸化膜上に微小回折格子や2次元のナノドットアレイを書き込むことができることを報告。.

○K.Kawamura, N.Sarukura, M.Hirano, N.Itoh, and H.Hosono, "Periodic naanostructure array in crossed holographic gratings on silica glass by two interfered infrared-femtosecond laser pulse," Applied Physics Letters, 79, 1228(2002).
  2発のfsレーザーパルスによりクロスグレーティングをシリカガラスの書き込んだ。微小爆発を利用することで、光の回折限界を超えた微小なホールやアイランドの2次元配列構造を書き込むことができることを示した。

○K.Kawamura, N.Sarukura, M.Hirano, and H.Hosono, "Holographic encoding of fine-pitched micrograting structures in amorphous SiO2 thin films on silicon by a single femtosecond laser pulse," Applied Physics Letters, 78, 1038(2002).
波長800nmのTi:sサファイヤレーザーを使って、シングルパルス干渉露光法でシリコン酸化膜に、最小ピッチ430nmの微小回折格子を書き込んだ。書き込みは電子励起効果によるシリカの構造変化による密度変化に起因することを報告。

○K.Kawamura, N.Sarukura, M.Hirano and H.Hosono,"Holographic encoding of permanent gratings in diamond by two beam interference of a single femtosecond near-infrared laser pulse," Jpn.J.Appl.Phys.39, L767(2002) [Express Letter]
 フェムト秒レーザーのシングルパルス干渉露光法で、透明なダイヤモンドの表面から1μm程度の内部に、微小回折格子を書き込むことができることを報告。ダイヤモンドが構造変化を起こし、屈折率変調が誘起されることが原因。

○K.Kawamura, T.Ogawa, N.Sarukura, M.Hirano, and H.Hosono,"Farbrication of surface relief gratings on transparent dielectric materials by two-beam holographic method using infrared femtosecond laser pulses," Appl.Phys.B71, 119(2000) [Rapid Communication].
 再生増幅したfsレーザーのシングルパルスを干渉露光で、従来はレーザー加工が困難であった透明な無機物質に、微小な回折格子を書き込めることを初めて報告。

2.総説
○河村賢一、平野正浩、細野秀雄, フェムト秒レーザーのシングルパルス干渉露光による無機材料の微細加工とその応用、レーザー研究30,244(2002).
 
3.解説
○河村賢一、平野正浩、細野秀雄、1枚の写真:チャープさせたフェムト秒パルスによる非感光性透明材料への体積ホログラムの書き込み、O plus E, 2002年7月号、p.682

○細野秀雄、河村賢一、平野正浩、1枚の写真:たった2発のフェムト秒パルスでつくる周期的ナノ構造, O plus E, 2001年9月号、p.1011.

○河村賢一、細野秀雄、1枚の写真:フェムト秒レーザーシングルパルスによる非感光性材料への回折格子の書き込み、O plus E, 2000年8月号、p.964.

4.特許
○WO01/44879(国際公開番号)     00/12/14
ホログラムの製造方法および装置
細野秀雄、河村賢一、猿倉信彦、平野正浩

○特願 2001-248433
フェムト秒レーザー照射による周期微細構造の作成方法
細野秀雄、河村賢一、平野正浩

その他3件の国内特許出願済み


4/07/03
河村賢一氏 平成14年度日本セラミックス協会の進歩賞を受賞 !

「イオン注入およびフェムト秒レーザを用いた透明酸化物への機能性付与とナノ加工」
本表彰は、セラミックスの科学に顕著な貢献をした35歳以下の若手研究者4名に対しておこなわれる。以下にその受賞説明を添付します。




12/15/02
野村研二君、応用物理学会の講演奨励賞に決定

D2の野村君が秋の応用物理学会での講演、ホモロガス化合物InGa(ZnO)5の単結晶薄膜を用いた透明トランジスタの試作、が標記に選ばれました。ゲート電圧がゼロではチャンネルがoffで、正の電圧にするとonにスイッチする特性をもつ初めての透明FETです。この化合物の特徴と独自のエピ成長法を駆使した結果です。


12/15/02
光誘起による透明酸化物の絶縁体−電子導電体変換の論文がアメリカ化学会の2002年のハイライトに選ばれる


 10月3日付のNature誌に掲載された我々の"Light-induced conversion of a refractory oxide into persistent electronic conductor,"が、アメリカ化学会から2002年の研究のハイライト(分子エレクトロニクス部門)に選ばれました。同学会の機関誌 Chemical & Engineering Newsの12月16日号に掲載。


10/07/02
典型的な絶縁体セラミックスを半導体に変えることに成功


科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の創造科学技術推進事業 「細野透明電子活性プロジェクト」(総括責任者:細野秀雄,東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)は、代表的な絶縁体であるセラミックスを半導体に変えることに成功した。アルミナ(Al2O3)と酸化カルシウム(CaO:生石灰)は、私たちの身の周りにあふれ、環境にも極めて優しい物質であり、陶磁器やセメントなどのセラミックス材料として広く使われている。今回、これら材料から構成される物質、12CaO・7Al2O3に、その特徴的なナノ構造を利用して、水素マイナスイオンを含有させ、光照射により、同セラミックスを、永久的に、電気伝導性をもつ透明半導体に変えることに成功した。この性質を利用して、透明電気配線を光で書きこむことが初めて可能となった。さらに、同プロジェクトがこれまでに実現した透明酸化物PN接合と組み合わせることで、透明電子回路が実現できると期待される。この研究成果は、材料をナノ構造から見直し工夫することで、古い材料であるセラミックスに新機能を出現させたものであり、セラミック材料の新しい可能性を拓くものである。本成果は、細野秀雄リーダ、林克郎研究員、D1の松石聡らによって得られたもので、平成14年10月3日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表

透明な半導体は、液晶ディスプレイ、有機ELや太陽電池などの透明電極材料として広く使われている。また、紫外発光ダイオードや光センサーなどのデバイスへの展開も期待されている。これまで、透明で半導体の性質を示す酸化物は、遷移金属や重金属イオンから成るものに限られていた。それ以外の酸化カルシウム(生石灰)や酸化アルミニウム(アルミナ)などの典型的なセラミックスの成分のみから構成される物質は、電気絶縁体で、決して半導体にはならないというのが、この分野での常識であった。
本研究では、セメントの原料にも使われている12CaO・7Al2O3の結晶構造が、ナノメートルサイズの籠(ケージ)からできており、その中に、通常では不安定なマイナスイオンを高濃度に包接できる特性に着目した。その性質を利用して、水素のマイナスイオン(通常の水素はプラスイオン)をこの物質に包接させた。この材料に紫外線を照射することで、水素アニオンから電子が放出され、その電子はケージ中にトラップされる。ケージ中にトラップされた電子は、動き易い性質をもっているので、同材料が、光照射により電気伝導性をもつ半導体になる訳だ。照射する紫外線の強度によって、生じる電気伝導度を制御する事ができ、また、室温付近では、半導体としての性質は、半永久的に保たれる。400度C付近に加熱するともとの絶縁体に戻すことができる。さらに、この物質は、半導体状態に変化しても可視域に強い光吸収は生じず、透明のままである。こうした性質を利用して、光で微細なパターンを、三次元的に書き込むことができるので、透明な電子回路や光メモリーなどへの応用が期待できる。
今回の成果で最大のインパクトは、私たちの身の周りにありふれた物質で、古くからよく知られた材料であるセラミックスのもつナノ構造を巧く活用することにより、透明半導体のような機能材料を創ることができることを示したことで、セラミックスの新しい可能性を拓いたことであろう。なお、同プロジェクトは、この物質に、最強の酸化力をもつ「幻の化学種」であるO-を高濃度で包接させることにも成功しており、環境浄化触媒や化学反応プロセスなどへの応用も検討している。



図1 水素アニオンの包接と電子伝導性の発現 (1)結晶格子中のナノメートルサイズのケージに水素アニオンが包接される。これに紫外線が作用すると、(2)電子を放出して、ケージに電子が捕獲される。(3)この電子は、他のケージ間を移動するため、電子伝導性が生じる。



図2 絶縁状態の水素アニオン包接12CaO×7Al2O3に紫外線を照射することで、直接透明な電子回路を形成することができる。

今回の成果は、Nature誌と並ぶScience誌もすぐにNewsとして取り上げ、そのweb Science Nowで紹介している(http://sciencenow.sciencemag.org/)。以下にその紹介を示します。

3 October 2002

The Unbearable Lightness of Conducting

TOKYO--Much as material scientists dream about it, convincing an insulator to conduct electricity is no easy feat. It typically requires doping the insulator with conductive impurities, a finicky process that works with only a limited number of materials. Now researchers have stumbled onto an easier approach that could be put to use in solar panels, liquid crystal displays (LCDs), and other applications where conventional opaque wiring affects transparency or the transmission of light.
The new conductor is a calcium-aluminum oxide known as C12A7. Like many ceramic oxides, including glass, C12A7 is optically transparent but electrically insulating. C12A7 crystals consist of a latticework of molecular cages, each defined by six positively charged calcium ions. Some of these cages contain so-called free oxygen ions. These negatively charged oxygen ions balance the positive charges of the calcium ions.
Partly by chance, a team led by Hideo Hosono and colleagues at an Exploratory Research for Advanced Technology (ERATO) project of the governmental Japan Science and Technology Corp. in Kawasaki discovered a process that could make C12A7 conduct electricity. Hosono heated C12A7 crystals at 1300°C for 2 hours in a hydrogen atmosphere, so that hydrogen ions replaced the free oxygen ions in the cages. Hydrogen ions are particularly photosensitive, and the team found that shining ultraviolet light on the annealed material transforms it from an insulator into a reasonably efficient conductor. Hosono theorizes that the UV light causes the caged hydrogen ions to emit an electron, which jumps to a nearby empty cage. The hydrogen atoms then combine to form stable H2 molecules, leaving the electrons free to migrate through the crystal as an electric current. In a further twist, the team reports in the 3 October issue of Nature, the crystals could be turned back into insulators. All the researchers had to do was heat them to above 320°C, then the H2 molecules split and recaptured the electrons.
Turning such a highly insulating material into a conducting material "is quite an accomplishment," says Thomas Mason, a materials scientist at Northwestern University in Evanston, Illinois. He adds that the process opens up the possibility of imprinting a microelectronic circuit on a thin, transparent film with a single flash of UV light through a patterned mask: The lines and points exposed to the light would become conducting wires and junctions, all separated by the insulating regions. Such circuits are currently used to control the pixels of liquid crystal displays; but forming them requires a time-consuming multistep photolithographic process. Hosono says that "invisible electronic circuits" could allow windows to double as solar panels and be put to use in other yet-to-be-imagined applications.
--DENNIS NORMILE


09/24/02
自然超格子構造の単結晶薄膜を自己整合プロセスにより作製―――独自の反応型固相エピタキシャル法を用いて―――

科学技術振興事業団 ERATO細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者 東京工業大学応用セラミックス研究所 細野秀雄教授)の太田裕道研究員らは、層状化合物であるLaCuOS(同グループが見出した透明p型半導体の一つ。励起子が室温で安定)およびホモロガス化合物[InGaO3(ZnO)m m:任意の整数]の単結晶薄膜を、独自に開発した反応型固相エピタキシャル法を用いて、自己整合的に作製する事に成功した。
層状化合物は、例えば、LaCuOSでは、LaO層とCuS層が交互に積層する構造を取っており、GaAs/AlGaAsなどの人工超格子になぞられて、自然超格子と呼ばれる。人工超格子は、原子層エピタキシャル法などの複雑な手法で、各層を、一層一層、積み上げて作製されている。これに対して、太田裕道研究員らが開発した反応型固相エピタキシャル法では、単結晶基板の上に、適切な組成の薄い配向結晶膜を成膜、その上に、アモルファスの層状化合物を堆積する。この二層膜を高温でアニールし、固相反応を利用して、単結晶エピタキシャル膜を得る手法。最初の配向結晶膜がエピタキシャル成長の開始剤の役割を果たし、自己整合的に超格子構造が形成される。また、アモルファス膜を低温で堆積させるので、組成の制御が容易。このため複雑な組成をもつ層状化合物でも成膜できる。(LaCuOSおよびホモロガス化合物は、金属イオンないし陰イオンが異なる一連の化合物群があり、これら化合物の成膜も可能。)
自然超格子では、mの値(アモルファス膜の組成)で井戸層の厚さを制御する事ができるし、また、金属イオンないし陰イオンにより、障壁高さ、波動関数の広がりを制御し、いろいろなエネルギー構造をもつ超格子を形成でき、人工超格子と類似した量子効果を発現する事ができる。(LaCuOSでは、エネルギーバンドギャップ(Eg)が大きなLaOがバリヤー層、Egが小さなCuSが井戸層の役割を果たしている。GaAs/AlGaAs人工超格子では、AlGaAsがバリヤー層、GaAsが井戸層となっており、適切な井戸層幅、バリヤー高さおよび波動関数の広がりの条件下で、電子は、井戸層内に閉じ込められて2次元電子となり、量子効果が発現する。)
自然超格子は人工超格子に比べて、本来的に、層構造の規則性に優れている、酸化物など多様な材料を用いて多様な電子・光特性を示す超格子構造を、自己整合によるプロセスで簡単に作製できる特徴がある。また、超格子構造を自己整合的に形成するプロセス開発は、ナノテク・ボトムアップの主要な目標でもある。本研究の成果は、ナノテクにおける量子デバイスの高性能化、多様化をもたらすものと期待できる。
 図1と2には本方法で作成したInGaO2(ZnO)5の単結晶薄膜の断面TEM写真と表面のAFM像を締示す。
図1 反応型固相エピタキシャル成長法により作製した自然超格子InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜の高分解能透過型電子顕微鏡写真。YSZ(イットリア安定化ジルコニア)(111)面の基板表面に対して平行な超格子コントラストが薄膜表面まで明瞭に観察され、最表面はInO2層で終端されている。挿入図はIんGaO3(ZnO)5の結晶格子像であり、図中の矢印はInO2層を示している。超格子(InO2)/(GaO(ZnO)5+)の周期は1.9nmである。


図1 反応型固相エピタキシャル成長法により作製した自然超格子InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜の高分解能透過型電子顕微鏡写真。YSZ(イットリア安定化ジルコニア)(111)面の基板表面に対して平行な超格子コントラストが薄膜表面まで明瞭に観察され、最表面はInO2層で終端されている。挿入図はIんGaO3(ZnO)5の結晶格子像であり、図中の矢印はInO2層を示している。超格子(InO2)/(GaO(ZnO)5+)の周期は1.9nmである。


図2 InGaO3(ZnO)5単結晶薄膜表面の原子間顕微鏡像(下)断面プロファイル(上)。
原子レベルで平坦なテラスと超格子の周期に対応する1.9nmステップが観察されている。

      
     
9/19/02
シリカガラス、サファイヤなどの内部に一発のフェムト秒レーザーパルスで微小回折格子の書き込みに成功


科学技術振興事業団の創造科学技術推進事業(ERATO)の細野透明電子活性プロジェクト(河村賢一君がこのテーマの推進者)と当研究室は、この分野でひとつの懸案であったシリカやサファイヤなどの感光性をもたない透明物質の内部に一発のレーザーパルスで、直径50~100ミクロンのサイズの回折格子を書き込むことに成功しました。フェムト秒レーザーのパルス幅を広げること(チャ−プ)が今回の成功に鍵でした。Applied Physics Letter 8月5日号に掲載されています。
また、光関係の月刊誌photonics SpectraのNews欄にいち早く取り上げられました。
以下のweb siteをご覧ください。
http://www.photonics.com/Spectra/News/sep02/newsInside.asp
4/21/02
アルミナセメントから最強の活性酸素O- イオンのビームを生成  細野秀雄
          
燃焼や呼吸など酸素の反応は我々の生活に極めて密接に関係している。人類が酸素を20%含む空気中で生活ができるのは、通常の状態の酸素は活性が比較的低いからである。逆に、化学反応などに酸素を積極的に活用するためには、酸素分子の反応性をいろいろな方法(熱、光など)で高める必要がある。活性酸素とは何らかの方法で活性化され、反応性が高まったものをいう。活性酸素には、O-, O2-、O3-などの化学種が知られているが、その中でもO-は際立って活性が高く、室温以下で不活性なメタンさえ、低温でメタノールに酸化してしまう。 しかしながら、その活性の高さゆえに不安定で、これまで特殊な処理をした固体の表面でしか生成が確認されていなかった。
 応用セラミックス研究所の細野秀雄グループは、酸化カルシウムと酸化アルミニウムというありふれた酸化物からなる化合物12CaO・7Al2O3(C12A7)という中に、3x1020cm-3という極めて高い濃度のO-を生成させることに成功した。この結晶はアルミナセメントの成分の1つで、ナノサイズの連続したケージをもっている。予想通り、安定なことで知られている白金さえ酸化してしまうことがわかった。
 酸素マイナスイオンのイオンビームを生成できれば、化学反応プロセスなどに利用できるため、
東大の定方正毅グループは、酸化物固体からO-の電場による引出しの研究を行ってきた。その結果、1997年に安定化ジルコニアからO-イオンを真空中に連続的に引き出すことに成功した。そして、引き出せるO-の量を増大させることが、応用のための最大の課題となっていた。
今回、両研究グループは、O-を大量に含むC12A7結晶を安定化ジルコニアの代わりに用いることで、従来の1000倍のO-イオンを真空中に引き出すことに成功した。引き出されたイオンは、O-以外のイオンを殆ど含まず、放出は持続的に継続する。このO-イオンの量は、今回初めて実用レベルである1平方センチメートル当りマイクロアンペアーに達した。このように高い密度のO-イオンビームが得られたのは、安定化ジルコニア中にはO2-しか存在しないのに対して、C12A7結晶にはO-が存在し、かつ結晶中に連続した酸素イオンが通れるパスがあるために、固体中のO-が電場で直接 外に引き出せたためと考えている。
イオンビームは電界で微小領域に絞ることができるため、半導体プロセスなどに使われている。酸素イオンのビームは、酸化のために使われているが、これまでO+、O2+のようなプラスのイオンに限られていた。今回、O-という極めて高い酸化力をもったマイナスイオンのビームが高い密度で初めて得られたことで、有害化学物質の分解や不活性な炭化水素の酸化、半導体プロセスやバイオ分野など広範な応用が期待できるようになった。


図.強力な酸化力をもつO-イオンをケージ中に大量に包接する結晶の構造。
 赤:Al, 黄:カルシウム、青:酸素

 本研究は読売新聞 3月15日 夕刊(社会面)などで取り上げられ、
東工大のホームページの最近の成果にも紹介されています。
3/05/02
環境浄化に有用な新物質(活性酸素O-を高濃度に含有する結晶)を発見


酸化物結晶には高温超伝導や巨大磁気抵抗効果など1985年以降多くの新しい物性が発見され、その興奮は今に続いている。これらの物性の発現には銅やマンガンなど遷移金属イオンが中心的役割を演じている。筆者は、これらの研究とは逆に酸素イオンの状態を操ることで、新奇の機能発現を狙ってきた。酸化物結晶中の酸素イオンの電荷はふつう−2であるが、世の中には活性酸素とよばれる、電荷が−2ではない一連の酸素イオンが知られている。O-, O2- ,O3-などがそれである。これらの活性酸素は酸化反応などで極めて重要な役割を演じる。特にO-はフッ素原子と等電子構造をもち活性が極めて高く、固体表面に生成したO-はメタンを室温以下の温度でメタノールにまで酸化できるという。しかしながら、その活性の高さゆえにこれまで高濃度のO-を安定に得ることはできなかった。最近、我々はは酸化カルシウムと酸化アルミニウムという極めてありふれた酸化物からなるマイクロポーラス結晶12CaO・7Al2O3を制御して作製すると、O-とO2-が1:1の比率で6x1021cm-3という極めて高濃度に含有することを見出した( J.Am.Chem.Soc.124, 738(2002))。予想どおり、極めて酸化力が高く、金属の中で最も安定である白金さえぼろぼろ(酸化)にしてしまうことが確認された。この結晶自体は古くから知られていたが、空気中の水分との反応で本来の特性がマスクされていたのである。このような身の周りにありふれた酸化物が、白金さえ酸化できるパワーを持った材料に変換できることに驚くと同時に、久しぶりに化学の醍醐味を満喫している。何とか、この物質を使って、ディーゼルエンジンの排ガスに代表される深刻化している環境問題や、活性酸素を利用した化学反応プロセス開拓に本質的寄与をしたいと思っている。この研究成果はERATO「透明電子活性プロジェクト」の林克郎研究員と研究室の松石 聡君の努力の賜物です。

3/05/02
細野がアメリカセラミックス学会のフェローに!

同学会のガラス・フォトニクス材料部会から推薦されました。ありがたいことです。


3/05/02
植田和茂氏に日本セラミックス協会から進歩賞

研究室の植田先生がこの5月に上記の賞を受賞することが決まりました。CaTiO3結晶の電子物性の解明と新透明P型半導体LaCuOSの発見が対象となっています。おめでとう。


3/05/02
柳 博君 手島記念博士論文賞 受賞

2001年3月に修了した柳 博君(現 オレゴン州立大)の博士論文が今年の同賞に選ばれました。
 透明酸化物半導体ではこれまで、Siのように同一物質でP,N型のどちらにも伝導性が制御できる物質は見出されていませんでした。柳君はCuInO(Appl.Phys.Lett. 2001)という物質でこれを初めて実現しました。また、ERATO 「透明電子活性プロジェクト」と協力して、この物質を使って、全酸化物透明PNダイオードも初めて作製しました(solid state commun. 2002)。
これらの成果はこの分野では反響をよび、昨年春のアメリカ材料学会(MRS(のトピックスの一つに選ばれています。柳君はこれまでにも MRS Student Award(silver), 応用物理学会講演奨励賞も受賞しています。


9/15/01
第32回光学材料のレーザー損傷に関する国際会議の最優秀論文賞を受賞 

表記の会議(通称ボールダーダメージコンファレンス)は毎年秋にアメリカのコロラド州ボールダーで開催され今年で33回を数えます。毎年 全発表論文の中から1件が最優秀論文賞として組織委員会から表彰されます。昨年度の最優秀論文賞に下記の論文が選ばれました。表彰式は10月3日の会議の席上おこなわれます。

   H. HOSONO, T. KINOSHITA, Y. IKUTA, K. KAJIHARA and M. HIRANO : Optical transparency of SiO2 glass in vacuum ultraviolet and defect formation by F2 laser ; Proc. SPIE 4347, 195-206(2001).



Professor Hideo Hosono of the Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology, receives the Best Paper Award at the Symposium on Optical Materials for High Power Lasers. Prof. Hosono is Director of the JST ERATO project, "Transparent Electro-Active Material." The award was presented to him at the Optics Japan 2001 meeting (above) by colleague Art Guenther, Professor, University of NM, and President, International Commission for Optics (ICO).


9/15/01
合成シリカガラスの真空紫外吸収端とF2レーザーによる欠陥生成機構を解明


 高純度の合成シリカガラスは200nmまでの紫外域には吸収がありませんが、それ以下の短い波長域で真空紫外域には吸収端が存在します。その吸収端がなんで決まっているかということは科学的にも応用上も大きな関心がもたれていました。Si−Si結合などのSi−O−Si結合からの化学的秩序の乱れがこれまでのプロセスの改良でかなり制御できるフェーズに至っています。そこで、ガラスを特徴付けているSi−O−Siの結合角との関係を検討した結果、SiO4の4面体を単位として3および4員環構造の存在が吸収端を支配していることがわかりました。これらの小さな環状構造は水晶やクリストバライトなどの結晶には存在しないもので、結合角は最安定な145度から大きくずれており、大きな歪をもっています。これらの構造はガラスの生成が急冷で生じるほどその濃度が高いので、低温でアニールすると吸収端は短波長まで伸びます。FをドープするとSi-F結合が生成され、粘度が大幅に低下するために構造の凍結温度が下がります。これがFをドープしたModified SiO2ガラスがこれまでのシリカガラスよりも短波長まで透明で、波長157nmのF2レーザー用の光学材料として期待されるゆえんです。また、レーザー照射による欠陥の生成機構もこれまでとは異なり、歪んだSi-O-Si結合の解離によって生じることが明らかになりました。これらの研究成果は Physical Review Lettersの11月号に掲載される予定です。


7/16/01
河村賢一君、2001年度のJJAP論文賞を受賞


当研究室のOBでERATO細野透明電子活性プロジェクトの研究員である河村君が応用物理学会の論文誌JJAPに過去2年間に発表された論文の中で優れた内容のもの5編以内に授与される上記の論文賞を受賞することが決まりました。対象となった論文は以下のとおりです。"Holographic Encoding of Permanent Gratings Embedded in Diamond by Two Beam Interference of a Single Femtosecond Near Infrared Laser Pulse" JJAP (Express Letter) 39(2000)L767.H.Kawamura, N.Sarukura, M.Hirano and H.Hosono。
フェムト秒レーザーパルスを空間的&時間的にぴったり重ねあわすことで、たった一発のレーザーパルスで物質の感光性に関係なく広範な材料に微小な回折格子を書き込む方法を初めて実現した。受賞講演は秋の応用物理学会で予定されています。


5/24/01
柳 博君 応用物理学会講演賞 受賞


去る3月末に開催された応用物理学会で一般講演の3%以下の優れた内容の講演をおこなった若手に贈られる講演賞を博士課程をを修了したばかりの柳君が受賞しました。
講演題目を以下に示します
「デラフォサイト型構造酸化物CulnO2を用いた透明p-nホモ接合の試製」
東工大応セラ研,細野PJERATO JST* 
○柳  博,植田和茂,細野秀雄,太田裕道*,折田政寛*,平野正浩*
 内容はニュース欄に記したように初めて透明酸化物半導体でホモPN接合を実現しダイオードを試作したものです。柳君は昨年の春にはアメリカ材料学会(MRS)のStudent Award(siliver)も透明P型酸化物の電子構造の仕事で受賞しています。アメリカ(オレゴン州立大学)での更なる活躍を期待しています。


5/16/01
新規透明p型半導体LaCuOSにおいて室温エキシトン吸収・発光を発見


透明p型伝導性酸化物であるCuMO2(M=Al, Ga, In)やSrCu2O2の発見に続き、そこで培った材料設計指針を拡張して、LaCuOSというオキシ硫化物において初めて透明p型伝導性を見出しました。また、正・逆光電子分光法やバンド計算による電子構造解析から、LaCuOSが直接許容遷移型のバンドギャップを持つ半導体であることが明確になりました。さらに、最近の研究では、室温でエキシトン吸収・発光を観察し、ZnOなどと同程度のエキシトンエネルギーを持つことが示されました。これらの報告は、Applied physics Letters (77, 2701 (2000), 78, 2333 (2001) )に掲載されていまして、今後、本物質の光機能性材料としての応用が期待されます。


5/16/01
河村賢一氏 応用物理学会の講演奨励賞を受賞


研究室のOBでERATO「細野透明電子活性プロジェクト」機能設計グループの河村賢一氏が今年の春の応用物理学会で発表した"フェムト秒レーザーのシングルパルス干渉露光法によるニオブ酸リチウム導波路へのマイクログレーティングの書き込み"という講演で上記の賞を授与されることが決まりました。この手法は河村氏をはじめとする同グループが開発したもので、これまで光によるホログラム形成には基板材料に感光性が必須であったが、この方法ではダイヤモンド、純粋シリカ、シリコン、プラスチックス、金属などどんな材料にもたった一発のレーザーパルスで直径50~100ミクロンのサイズの微小な回折格子を書き込むことができます。導波路での光のadd/dropがこの素子で可能になり、WDM用のキーデバイスとして期待されます。


5/16/01
透明酸化物半導体でホモPN接合を実現!

半導体のアクティブな機能の殆どはPN接合に起因しています。透明酸化物半導体ではこれまでP型伝導性の物質が知られていなかったため、透明半導体としての展開が出来ませんでした。当研究室では1997年にCuAlO2という物質がP型伝導性を示すことをNature誌に発表して依頼、一連の透明P型半導体を報告してきました。そして、昨年の初めにはそのうちの一つであるSrCu2O2とZnOのヘテロエピタキシャル薄膜を形成し、世界初の酸化物からなる紫外発光ダイオードを実現しました。当面するもう一つのターゲットは一つの物質でP/N型制御をおこない、PN接合を形成することでした。この程、CuInO2という物質がCa2+ドープ、Sn4+ドープでP型,N型になることを見出し(Appl.Phys.Lett.3月12号,2001)、それを利用してホモPN接合を実現しました。この結果は春のMRSで発表し、経緯を知っている内外の研究者から"遂に出来ましたね"いわれました。この発表が契機になってアメリカの国立研究所との共同研究が始まりました。柳君(現 オレゴン州立大)はじめ 関係者の努力の賜物です。


5/16/01
細野教授  平成12年度の井上学術賞を受賞


井上学術賞は自然科学の基礎的研究の分野で優れた研究業績を挙げた50歳未満の研究者に授与されるもので、「ガラス中の点欠陥の解明とそれを利用した光・電子機能の発現」が対象となりました。選考委員長の井口洋夫先生は選考結果の経緯の説明で「細野氏の受賞は、工学分野での基礎研究を対象としたもので、この賞のウイングを広げるものである。」と述べられました。目指してきた方向の研究が評価されて嬉しい限りです。これも共同研究者の人たちのお陰です。厚く感謝申し上げます。


10/12/00
フェムト秒レーザーのシングルパルス干渉露光によるマイクロクレーティング形成法が注目技術として Wiley発行「Inside R&D」誌に紹介される!

 研究室OBでERATO「細野透明電子活性プロジェクト」研究員の河村賢一氏らが開発したった1発のフェムト秒レーザーパルスを2つの分割し、試料表面や内部で重ね合わせて、干渉パターンを作り、アブレーションや構造変化を起し、微小な回折格子を形成する方法が上記の雑誌に取り上げられました。これまでのフェムト秒レーザー加工では利用されていなかった高いコヒーレンシを巧みに利用したもので、世界初の成功です。材料の感光性はもはや必要ではなく、ダイヤ、サファイヤ、ガラスなども透明材料、プラスチックや金属などこれまで試してきた全ての物質に書き込むことができます。
  既に昨年特許申請は済んでおり、論文としてもAppl.Phys.B(rapid commun)、JJAP(Express Letters)6月、7月号に掲載されています。また、OプラスE誌 8月号にはサファイヤ上に形成したマイクロクレーティングの写真が掲載されています。
 以下の紹介記事を転載します。
Inside R&D, OCTOBER 6, 2000 issue (John Wiley)

FEMTOSECOND LASER ENCODES HOLOGRAMS IN RANGE OF MATERIALS

  When two coherent laser beams collide or overlap each other spatially and temporally, in the case of pulsed beams,high-contrast interference occurs. This phenomenon is widely exploited in laser hologram recording, where the interference pattern is transferred or reproduced in recording materials as the photo-induced refractive index modulation or the absorption intensity modulation.
  Hideo Hosono and his team at Japan Science and Technology Corp. (JST) are now exploiting this phenomenon using a femtosecond laser to encode holograms in materials that are difficult to machine by other methods. Building on their pioneering work in this area, in which they were able to fabricate surface relief gratings, they have encoded permanent index-modulated volume holograms in materials that are not necessarily photosensitive, including dielectrics, semiconductors, and plastics. To do this, they had to overcome the technical difficulty of spatially and temporally overlapping the two beams using extremely short laser pulses of 100 fs. When the overlapping area is set to be inside the recording materials the holographic grating is encoded at the colliding position in what the researchers call an "embedded process."
  The energy density of the femtosecond laser light is so high that it can ablate the material surface or transform the material structure, leading to the formation of a relief-type hologram or volume hologram through refractive index modulation.
   "We have succeeded in encoding the gratings in all the materials we have investigated, including metals, semiconductors, team member Masahiro Hirano. He notes that the embedded structure is limited to transparent materials, which include sapphire, zirconia, lithium niobate, calcium fluoride, silicon carbide, zinc selenide, silica glasses, and plastics. Conventional laser holograms, such as continuous-wave Ar+ or ns-ruby lasers, are limited to photosensitive materials, typically photopolymers.
  Currently, computer-generated holograms (CGHs) are more commonly used than holograms fabricated by laser exposure in diffractive optics such as optical pick-ups for optical disks and fiber optics. Compared to CGHs, the JST technique offers the advantages of a simple fabrication process, versatility in recording materials, and the ability to form an embedded structure. Hirano notes that one disadvantage is the difficulty in recording holograms having complicated functionality, but says that replication from a hologram made by CGH will likely overcome this difficulty. Hosono's team can fabricate very smallholograms, with embedded structures if needed, which are well suited for fiber-optic and micro-optic applications.
  In addition, the hologram is recorded in one pulse shot, and encoded within 100fs. Thus, if the femtosecond laser is operated at 10 Hz, 10 holograms can be produced in a second.
  The technique has the potential to form very precise gratings with narrow spacing between the fringes. Hosono's team uses a Ti:sapphire laser, which oscillates at 800 nm with minimum spacing limited to 400 nm. However, they can further reduce the spacing using a shorter wavelength of light. Considering the rapid progress made in femtosecond laser oscillators in recent years, Hirano thinks the laser could be used in industrial environments within a few years if good applications are found. So far, they have a micrograting used for fiber optics or a de-multiplexer for wavelength division multiplexing systems in mind.
  If the gratings fabricated by this method become cost competitive due to the simple process and potential good throughput compared to conventional CGH, Hirano predicts that they will be widely used in diffractive optics including optical disks and point-of-sale scanners. They could be also used as security holograms, such as those used to prevent counterfeit credit cards.
  The team has applied for a Japanese patent. The project is sponsored by JST's Exploratory Research for Advanced Technology program and the researchers would be open to development partners and licensing opportunities under certain terms and conditions.
In future research, the team plans on fabricating fiber-optic devices to verify that the technology is practical and they will also use a femtosecond laser emitting a shorter wavelength of light in the hope to achieve fine patterning.

Details: Masahiro Hirano, Research Manager,
Hosono Transparent ElectroActive Materials, ERATO, Japan Science and Technology Corp. (JST), KSP C-1232 3-2-1 Sakado, Takatsu, Kawasaki, 213-0012, Japan.
Phone: +81-44-850-9757. E-mail: m-hirano@ksp.or.jp. URL: www.jst.go.jp.
R0002452101100
Copyright 2000, John Wiley & Sons, Inc., New York,
NY 10158


8/12 2000
フェムト秒レーザーシングルパルスによるダイアモンドやサファイヤなどの透明な非感光性材料への回折格子の書き込みに成功


フェムト秒パルスレーザーは、極短時間にエネルギーが集中するので、1パルスが数TW/cm2という超高密度エネルギーを持つ光パルスを作り出すことができます。従来のレーザー加工ではレーザー光が透過してしまうので、苦手とされている透明な材料の加工や金属の微細加工への応用が期待されています。実際、フェムト秒レーザーを用い透明材料の微細な穴あけ加工や切断、レーザー照射によって生じる損傷を利用したガラス試料内部の微小領域の改質などが行われています。
フェムト秒レーザーパルスは、超高エネルギー密度というだけでなく、フーリエ限界にちかいのでコヒーレンス性が極めて高いという特徴も有しています。しかし、この高いコヒーレンス性を意図的に加工に利用した例はこれまでありませんでした。
科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業(ERATO)「細野透明電子活性PJ」の河村賢一研究員(研究室OB)らは、再生増幅モードロックチタンサファイヤレーザーからのパルス幅100フェムト、波長800nm、周波数10Hzのパルスレーザー光の干渉を利用し、たった1発のパルスでサファイア、ダイヤモンドやガラスなどの透明な物質に微小な回折格子を書き込むことに成功しました。1つのフェムト秒パルスを2つに分け、光路長を全く同じにした別の光路を経由し、試料表面に集光して干渉させます。2つのパルスが時間的にも空間的にも一致したときのみに干渉が生じ、その干渉縞が試料に永久的に書き込まれます。既に金属、酸化物、プラスチックなど殆どの物質において同様な書き込みが可能であることを確かめています。これまでホログラムの形成には材料の感光性が必須でしたが、本方法ではこの制限が無くなります。光学部品だけでなく金属金型の微細細工などへの応用が期待されます。
本研究成果は特許申請は昨年12月になされ、論文は7&8月にApplied Physics B(rapid communications)やJJAP(Express Letters)に発表されています。9月の応用物理学会では最近の結果も合わせて発表する予定です.


5/20 2000
太田裕道君 応用物理学会講演賞 受賞


研究室の社会人ドクターの学生でERATO 「細野透明電子活性プロジェクト」の研究員でもある太田君が3月末の応用物理学会の講演賞を受賞することになりました。透明酸化物半導体のヘテロエピでPN接合を形成し紫外発光ダイオードを世界で初めて実現したことを発表した講演でした。キーとなったのは当研究室が独自の探索指針に基き発見した(2年前の工藤君の仕事)SrCu22という透明P型伝導性酸化物とヘテロエピによる素子作製でした。光計測での河村賢一君(研究室OB,ERATO研究員)の貢献は絶大でした。
  シリカガラス中の格子間オゾン分子を発見
成層圏では酸素分子が太陽からの短い紫外線を吸収してオゾン分子を生成したり、逆に生成したオゾン分子が酸素分子に分解したりしています。これと同様に光反応が合成シリカガラス中で生じることを明かにしました。F2レーザーとFT-Raman分光計を組み合わせることでO2RO3, O3RO2の反応を直接 捉えることができました。Physical Review Lettersに掲載されました。光解離した酸素原子の拡散はシリコン半導体の酸化プロセスで重要で、基礎研究が応用のフロントにつながるかもしれません。


5/1 2000
柳君、MRS Student Award (Silver)受賞!


D3の柳博君が4月末にサンフランシスコで開催されたMaterials Research SocietyのSpring Meetingにおいて"P- and N-type Transparent Conductive Oxides with Delafossite Structure"という内容の講演でStudent Award(Silver)を授与されました。今回は日本人ではただ一人でした。初めての国際会議で30分の招待講演+15分のStudent Award講演をこなしたことになります。悪戦苦闘した末の結果です。おめでとう。


紫外発光透明酸化物ダイオードをついに実現!!
本研究室と密接な関係にある科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業 「細野透明電子活性プロジェクト」は p−SrCu2O2とn−ZnOの組み合わせにより、380nmの紫外光を発する透明ダイオードを実現しました。初めての電流注入により紫外線を発するLEDです。この結果は春の応用物理学会(東京)とMaterials Research Society(サンフランシスコ)で太田裕道研究員によって発表されました。Invisible Circuitsがついに実現したわけです。関係者の皆様,ご苦労さまでした。


11/16 '99
透明酸化物PN接合を実現

半導体の多様な機能はPN接合に根ざしています。透明な酸化物でPN接合が実現すれば"透明な電子回路"(Invisible Circuit)につながるために大きな期待が持たれていました。
当研究室では1997年にNature誌にP型酸化物導電体の材料設計指針を提示し、その例としてCuAlO2を発表しました。その後、1998年にApplied Physics Lettersに第2のP型透明酸化物SrCu2O2(SCO)を報告しました。今回はこのSCOの薄膜とN型透明導電体としてよく知られているZnOの薄膜から透明酸化物PN接合を形成し、ダイオード特性を確認しました。初めての透明酸化物PN接合でしょう。この報告はApplied Physics Letters Vol.75, No,18(Nov.1 issue)2851(1999)に掲載されています。工藤君と柳君の集中の賜物です。


11/04 '99
細野先生、教授に昇進!


11月1日をもって我らが親分、細野先生が教授になりました。。
細野親分の体制は既に始まっていたので、我々子分の働きにはあまり影響はありませんが、これでやっと名実ともに新たなスタートとなります。
10月1日から発足したプロジェクトのリーダーでもあって大変お忙しくなられますが、活発な研究活動がこれからさらに期待されます。
我ら子分も頑張らなければ。
(文責 一子分)


10/06 '99
科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業「細野透明電子活性プロジェクト」発

この10月1日から5年の研究期間のプロジェクトです。内容はワイドバンドギャップ物質中の電子を巧みに利用し新しい光・電子および化学機能、およびそれを示す物質を探索するものです。人類が最初に手にした材料であるセラミックスは長い歴史をもちますが、それだけでなくその技術革新は世の中を大きく変えてきました。例えば、光学ガラスの発明は顕微鏡に応用され細菌学が、望遠鏡に使われ天文学が飛躍的に進歩しました。近年では光ファーバーの誕生が今日のネット時代の根幹を築きました。ファインセラミックス、ニューガラスを基礎として、周辺分野の最近の進歩を貪欲にとり入れ、独自の構想でこの分野の新機軸を拓く世紀末PJです。場所は実験室、事務所とも溝の口の神奈川サイエンスパーク(KSP)RD−C棟12Fに設けました。目下、内部の改装工事中(11月中旬完成予定)で、4Fのshared officeに仮事務所を置いています。電話番号は044-819-2204、FAX 044-819-2205 です。


09/19 '99
GeO2-SiO2ガラス薄膜で光誘起ミクロ相分離と最大の屈折率変化を発見!


 光ファイバーにArレーザーと通すと光誘起屈折率変化が生じ、グレーティングが書きこめることが発見されて20年になります。このファイバーグレーティングは波長多重通信時代を担う重要な光部品として大きな市場になりつつあります。この現象はGeに関係した2種類の酸素欠陥の光反応に起因することは1992年の当研究グループにより明らかになりました。これからの応用を睨むと薄膜形状の平面導波路への展開が重要となりますが、この場合は屈折率変化(Δn)として従来のそれよりも桁違いに大きな値が必要となります。最近、当研究室と工業技術院大阪工業技術研究所との共同研究により、3〜8%というこれまでに報告されたなかでレコードとなる材料(GeO2を20%〜50%を含有する薄膜)を発見しました。また、この薄膜に紫外レーザー照射をするとナノメートルスケールの相分離が生じることも見出しました。この系は光ファイバーの組成なのでこれまで多くの研究がなされています。それによりますと単純な加熱では相分離は生じないことになっています。ここで発見した相分離はTEM観察中にも明瞭にみられ、紫外レーザーだけでなく電子線照射でも誘起されます。したがって、電子励起効果が不可欠なようです。 これまで アモルファス物質の電子励起効果では点欠陥の生成というオングストロームオーダの変化が観測されていましたが、この例はナノスケールの相分離という大きな空間領域で構造変化を誘発できることを示しています。 上記の大きなΔnと相分離は密接に関連しています。これらの研究成果は Optics Lettersの10月1日号に掲載されます。
   長残光蛍光と輝尽発光を示す蓄光ガラス
昨年、当研究室と住田光学ガラスは光照射後も数時間にわたって蛍光を発し続けるガラスを還元CaO-Al2O3系とZnO-B2O3-SiO2系で実現しました。今回、前者の系で長残光蛍光だけでなく、輝尽発光(光照射後、違う波長の光を照射したときのみ蛍光を発する現象)も示すことを見出しました。ガラス中に存在するCa2+イオンの配位されたO2-イオンの空孔に一つ電子が捕獲されたF+中心が後者に、2つ捕獲されたF中心が前者に主に寄与していることが明らかになりました。酸素イオンの空孔が電子を1or2個トラップできることが利用したものといえるでしょう。この研究はJ.Appl.Phys. October 1 issueに掲載予定です。


08/10 '99
植田和茂氏、手島記念賞(博士論文賞)を受賞


植田さんの博士論文 "Donor Doping Effects on Electronic Structure and Electroconductive Properties of CaTiO3"が平成10年度の上記の賞に選ばれました。自前で作製した単結晶について、正・逆光電子分光、SOR,ESR、EELSなどの分光測定とバンド計算から電子構造を明らかにし、電気的特性との対応を探ったものです。3年間集中した賜物です。
     F2エキシマーレーザー用シリカガラス、”modified silica”として広くみとめられる
半導体のリソグラフィは1997年よりKrF(波長 248nm)レーザーを光源とする生産が開始されています。次世代は波長193nmのArFレーザーが光源であり、CaF2単結晶と合成シリカ(含水)が光学材料としてOKであることは昨年はじめには研究のフロントでは共通の認識でした。問題は次次世代のVUVリソでした。波長157nmのF2レーザでの可能性が1997年にMIT リンカーン研究所のグループにより報告されました。100nm以下の微細加工(16GBDRAMができる)ができることが示されたわけです。ところがフォトマスク材料(低膨張で大型試料が容易にできることが必要)として必須なシリカガラスがこの波長では殆ど透過しないため、これが一つの技術的ネックになっていました。当研究室と半導体先端テクノロジーズは、KrF&ArF用に用いられてきた含水シリカではなく無水シリカにフッ素のドーピングによる真空紫外域の吸収端を短波長にシフトさせることで耐性の飛躍的向上に成功しました。これによって産業界の感心がF2レーザーリソに向いてきました。このガラスは最近では専ら”modified silica”の名称で国際的に通用するようになっています。また、特性向上だけでなく吸収端の光ブリーチなど新しい光誘起現象も発見しました。これからの進展が基礎科学面でも応用面でも楽しみです。なお、これらの仕事は以下の論文に載っています。
(1)Appl.Phys.Lett. 74, 2755(1999), (2)Opt.Lett. 24, 863(1999), (3)J.Vac.Sci.Techol. accepted, (4) Opt.Lett. to be published,(5) Nucl.Instr.Meth.B to be published.


05/19'99
鳴島君、春の応用物理学会の講演賞に内定!


アモルファス透明伝導性酸化物 2CdO・GeO2の電子構造を正・逆光電子分光によるフェルミレベルと伝導帯と価電子帯の状態密度の実測と薄膜X線構造解析、MD計算と分子軌道計算を組み合わせバンド構造を計算し電子状態の特徴を明らかにしたものです。物質設計指針の提案、それに基づいた物質の発見、そして自作した装置でなけれな得られなかったキーとなるデータがこの内容を支えています。
100%当研究室のオリジナルとどこでもいえる成果で、卒業生の菊池君(金沢工大)とD2の柳君の貢献があったからこそです。


04/28'99
”ERATOの総括責任者に内定” 

今年10月発足する科学技術振興事業団の創造科学推進事業(ERATO)の総括責任者の一人に細野が内定しました。主題は「透明電子活性」で、酸化物など透明な固体物質のバンド構造や欠陥を制御して新しい光・電子機能を探索しようという内容です。プロジェクト発足は平成11年10月1日で、研究期間は5年間です。


04/16'99
1.春の学会で研究室の発表のうち、下記の研究が新聞でとりあげられました。
 (1)次々世代露光装置(16Gbit)の有力候補
     F2レーザー用フォトマスク材料の発見
    (日経産業新聞 1999年4月8日)
      D3の水口君が頑張った成果で応用物理学会での発表がとりあげられました。
 (2)液晶タッチパネル用透明電極を室温下で微細加工
    −ITOアモルファス成膜にパルスレーザー照射−
    (日本工業新聞 1999年4月7日)
      M2の栗田君の修士論文の発表でした。セラミックス協会年会の注目発表に選ばれました。
2.日本セラミックス協会の表彰関係
 ○研究室の下記の論文が1998年の論文賞にきまりました。
    「CaTiO3の伝導帯電子構造の観察」(英文)
     植田 和茂、柳  博、能代 龍一、溝口 拓、小俣 孝久、植田 尚之、細野 秀雄、川副 博司
    
 ○研究室OBの小俣 孝久氏(阪大)が進歩賞を、細野が学術賞を受賞しました。
3.パルス(FT)ESR−ENDORが研究室に設置される!
長年の念願であったブルカー社の装置が3月末に納入されました。これまでのCW法では不可能な時間領域の情報と5〜10Aの空間領域の情報を引き出すことが工夫し次第できるようになります。NMRがCWからFTでは全く違う世界が拓けました。ESRにも全く同様な展開が期待されます。