電子線蒸着・抵抗加熱蒸着装置

著者: 渡辺 匠、学部4年生 (2005年度)

どんな装置ですか?

 基板、薄膜試料の表面に電極として金属を製膜する時や、絶縁のために酸化物の膜を形成する時に用いられるのが蒸着装置です。下図の写真に移っているのが本研究室で導入した装置(サンユー電子製 SVC-700 LEB)です。左側の銀色の容器がチャンバーで、この内部で蒸着させたい金属や酸化物を加熱して蒸発させ、その蒸気を試料表面に堆積させて製膜を行います。

 真空蒸着法は、蒸着材料の加熱の仕方によって、抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法などに分けられます。抵抗加熱蒸着では、蒸発源材料の入った容器(フィラメント型やボート型、るつぼ型などがあります)に電流を流すことで抵抗熱を発生させ、その熱で蒸着源材料を加熱します。この方法は装置が簡便にできるという利点がある一方、比較的低い温度(〜1000℃)で十分な蒸気圧が得られる材料に限られます。

 これに対し、電子線蒸着では、加速・集束した電子線を蒸発源材料にあて、電子線の持つエネルギーを用いて加熱します。この方法を用いると、3000℃以上の融点をもつタングステンを含め、酸化物なども含むほとんどの物質(絶縁体の場合、電子線照射による帯電効果を軽減する工夫が必要です)を蒸着することができます。

蒸着の手順(電子線蒸着)

 蒸着は次の手順(下図中の番号と対応)で行われます。下図はチャンバー内を模式的に表したものです。

@ チャンバー内の真空引き
  成膜時には、チャンバー内は1×10-3 Pa以下の高真空にしておく必要があります。これは、大気が残っていると、蒸発した粒子の軌道が大きく乱されて基板に到達しない、あるいは、蒸発材料が酸化などによって変質してしまう可能性があるからです。
 一般に、1×10-4 Pa程度の高真空が必要なため、真空引きには拡散ポンプやターボ分子ポンプが使われます。私たちの装置では、拡散油による汚染を避けるため、ターボ分子ポンプを用い、補助ポンプとして油回転ポンプを使っています。

A 電子線の出力
 電子線の放出は、熱フィラメントに電流を通して加熱することによって行います。熱フィラメントにより放出された電子線は、4〜10kV程度の高電圧によって加速され、磁場によって集束されます。これにより、エネルギーの高い電子線を得ることができます。

B 磁場をかけて電子線を偏向させる
 電子線源は、蒸発源材料が蒸着しないように、蒸着源の下部に設置されています。したがって、蒸発源材料に電子線をあてるには、磁場や電場等の作用により、電子線を偏向する必要があります。

C 電子線のエネルギーによって金属材料・絶縁材料を蒸発させる
 加速・集束された電子線が照射された部分は局所的に高温になり、蒸発します。さらに、電子線の当る領域を縦横に走査することで、蒸発源材料全体を均一に蒸発させることができます。

D 蒸気を試料表面に堆積させる
 蒸着法によってできる薄膜は一般に多結晶膜であり、10nm程度の膜厚では、島状に分離された膜になることが多く、連続膜を得るにはさらに膜厚を厚くする必要があります。

 本装置には、水晶振動子の共振周波数の変化を測定することにより、膜厚を精密測定できる膜圧モニター取り付けられており、蒸着された膜厚をリアルタイムで知ることができます。