正・逆光電子分光装置(IPES/PES)

著者: 高木 章宏、修士課程1年生 (2003年度)

1. どんな装置ですか? 何がわかりますか?

  固体に光を入射すると、固体表面の電子は入射光のエネルギーに励起され固体表面から放出されます。この現象は高校物理で学習する光電効果として知られています。この原理を応用した装置がX線光電子分光(XPS: X-ray Photoelectron Spectroscopyの略)装置と紫外光電子分光(UPS: Ultraviolet Photoelectron Spectroscopyの略)装置です。また、これらの装置の過程とは逆の過程をとった装置が逆光電子分光(IPES: Inverse Photoelectron Spectroscopyの略)装置です。ある固体にXPSやUPSを用いると、その固体表面の "占有状態(内殻準位や価電子帯)の電子状態"を知ることができます。またIPESを用いることで"非占有準位(伝導帯)の電子状態"を知ることができます。私たちの研究室ではこのXPS, UPS, IPESを用いることにより、その半導体材料の電子構造を明らかにし、さらにバンド理論と併用することで物性解析の手段の一つとしています。

図1 X線・紫外光光電子分光装置 

図2 光電子検出部(アナライザー、写真左)

 

2. どんな原理で測定できるのですか?

a) XPS,UPS

 光源として特性X線や紫外線を用いることで、入射光に単色光を用いることができます。このエネルギーhνの光子を固体に入射すると、物質内で"ある結合エネルギー"を持っている電子は光子からもらったエネルギー"hν"から"結合エネルギーEB"分と"仕事関数W"分だけエネルギーを失って伝導帯の真空準位より上の準位にたたき上げられ、固体表面から放出されます。したがって入射光として、高エネルギーのX線を用いれば、固体内の原子核付近で深い内殻準位に束縛されている電子までたたき出すことができますし、また、紫外光を用いれば、"価電子帯"や浅い"内殻準位"の電子をたたき出すことが出来ます。そして一定のエネルギーの入射光によって外部にたたき出された光電子のもつ運動エネルギー分布を測定すれば、光電子スペクトルとして占有準位(内殻準位や価電子帯)の状態密度を得ることができるのです。

図1 光電子分光法の原理

b) IPES

 固体にエネルギーが一定の電子ビームを照射して、その電子が固体の非占有状態に遷移する過程で発する光子のエネルギーを観測することにより、固体表面の非占有状態の電子構造を知ることができます。逆光電子分光の名前の由来は、その過程が光電子分光の逆であることにあります。このIPESには光子検出機構が二通りあり、放出光のエネルギー分布を測定するTPE ( Tunable Photon Energy ) モードとある入射電子ビームのエネルギーを操作して特定のエネルギーだけを検出する BIS ( Bremsstrahlung Isochromat Spectroscopy ) モードがそれらにあたります。本研究室のIPESは後者の光学系の明るいBISモードを採用しています。

図2 逆光電子分光装置部

図2 逆光電子分光法の原理