高出力 粉末・薄膜X線回折装置 (XRD、RIGAKU RINT-2000)

著者: 本光 英治、博士後期課程1年生 (2003年度)

1. どんな装置ですか? 何がわかりますか?

 結晶内の原子は並進対称性を持つため(これが結晶の定義です)、3次元のすべての結晶の原子の配列パターンは、立方晶、正方晶、斜方晶、六法晶、三方(菱面)晶、単斜晶、三斜晶の7つの晶系に分類されます。また、これらの晶系がとり得るブラベー格子、対称操作の種類を考えると、あらゆる結晶は230種類の空間群のいずれかに属する事が知られています。
 X線回折法は、サンプルに対してX線を照射することによっておこる回折という現象を利用し、結晶の構造−格子定数、原子配置、原子振動、電荷分布など−を解析する手法です。 X線回折図形は結晶構造特有の形をとることから、サンプルの構造解析や相の同定に利用されています。

 現在、当研究室で使用している装置はRIGAKUのRINT-2000であり、X線源として、よく使われている封入管式ではなく、回転陰極型の高出力源を利用しています。そのため、数十nmと薄い薄膜でも、SN比の高い測定、あるいは、サブパーセントの異相の検出が可能です。また、この装置には2つの測定系があります。一つは通常使われている粉末測定用の回折系であり、もう一つは薄膜試料専用の平行X線源と低入射角用ゴニオメーターです。自分の用途に合わせて使用しています。
 RINT-2000は、現在すでに20000時間近い稼働時間に達しており、細野‐神谷研究室であげられた数々の業績に立ち会ってきた長老格の装置であります。合成のプロセスを重んじる当研究室においては無くてはならない重要な装置の一つです。これからもバージョンアップや修理を繰り返しながら、数多くのドラマの誕生に大きく貢献していくことでしょう。

2. どんな原理で測定できるのですか?

 装置本体内部は大きく分けて、「X線発生部」、「サンプルステージ」、「受光部」に分けられます。 X線発生部は、回転陰極式のターゲット(通常はCu)、電子線発生の為のフィラメントと、発生した電子線を集光するためのウェルネルトからなります。ターゲットにフィラメントから発生して高電圧で加速された電子線を照射することでターゲット金属の特性X線(ここではCu Kα1、Kα2、Kβなど)を取り出します。通常の封入管式では、電子線があたる部分は固定されているため、冷却水で冷却していても、高電力の電子線をあてる事はできません。本装置ではターゲットが回転していて、常に電子線が当たる面積が大きくなっています。そのため高電力の電子線をあてて高出力のX線を取り出すことができます。この時得られる銅の特性X線の波長は、1.5406Åです。


 サンプルに照射されるX線の波長は、先述したように数Åオーダーであり、結晶の周期と同じオーダーです。そのため、結晶の周期格子面においてX線が回折されます。
 サンプルに入射されたX線は、結晶内に存在する格子面で反射されます。このときそれぞれの格子面で反射されるX線同士の光路差Dは、格子面間隔を、X線の入射角をθ、とすると、下図のように

     D = 2d sin θ

であらわされます。この光路差が丁度X線の1波長分をぴったり収める大きさのとき、反射されたX線同士が干渉して互いに強めあいます。この現象を回折と言います。X線回折法は、θの大きさを変えながら粉末サンプルに対して単色X線を照射し、回折ピークのθの値からの値を求めることによって、結晶内での原子の配列を解析していく方法です。現在では多くの先人達の努力によって、10万種類を超える化合物の結晶構造が解析され、その結果がまとめられたJCPDSカード、ICSDデータベースを検索することにより、自分たちの合成した物質の相の同定を容易に行うことが可能となっております。また新しい化合物を合成した時などは、リートベルト解析を行い、より厳密で詳細な構造解析を行うこともあります。当研究室では、粉末X線回折による構造解析には、物質・材料研究機構の泉富士夫先生の開発されているRietan2000を使っています(泉先生に感謝)。