再生増幅フェムト秒レーザー

著者: 大塚 拓一、修士課程1年生 (2003年度)

1. どんな装置ですか? 何がわかりますか?

 ミリは10-3、マイクロは10−6、ナノは10−9、ピコは10-12と表されるが、このピコよりもさらに1/1000小さいのがフェムト(10−15)です。このフェムト秒という非常に短い時間は、どのようなものなのでしょうか。
 この世で一番速く動くものといえば、光(約3.0×108 m/s)です。光は、1秒間に地球を7周半回る速さで進みますが,100fs(10−13s)という時間では、わずか30μm (おおよそ、髪の毛の太さの1/3)しか進めません。いかに、100 fsという時間が短い時間かがわかります。
 この100fsという短い時間幅をもつパルス光を作り出せるレーザーが、フェムト秒レーザーです。レーザー強度はI E / S で表されます。Eはパルスエネルギー、Sはビームスポットの面積、はレーザーパルスの時間幅です。この式からもわかるように、フェムト秒レーザーは、エネルギー総量はさほど大きくなくとも、そのエネルギーを100fsという時間に圧縮しているので、100TW/cm2という、凄まじいレーザー強度を持つことになります。
 このような、時間幅が短く、非常に高いレーザー強度を持つという、2つの特徴をいかして、フェムト秒レーザーは、物質中で非常に高速に起こる緩和現象の研究や、非線形光学現象の研究、さらに光通信技術への応用などに活かされています。さらに、フェムト秒レーザーでは、コヒーレンスの程度は、フーリエ変換限界として表現されます。すなわちコヒーレンシイがもっとも高い状態は、不確定性原理で示される時間 t とエネルギー(周波数ω)の不確定さの積Δt・Δωの最小状態として与えられます。フェムト秒レーザーでは、コヒーレンシイが高く、ほぼフーリエ変換限界状態にあり、フェムト秒パルス持続時間全体に亘って可干渉性があります。本研究室では、この超短時間性、高エネルギー密度性、超可干渉性の3つの特徴を最大限にいかしてフェムト秒シングルパルス干渉露光法による、マイクログレーティングの作製とその応用を研究しています。

2. どんな原理で測定できるのですか?

 本研究室で使用しているフェムト秒レーザーは、再生増幅モードロック Ti:Sapphire レーザーです。このフェムト秒レーザーでは、中心波長 800nm、パルス時間幅〜100fs、繰り返し周波数10Hz であり、パルスエネルギー最大3mJ/pulse(空間エネルギー密度100TW/cm2) の高エネルギー超短レーザーパルスを得ることができます。このような高エネルギー超短レーザーパルスを得るためのシステム(再生増幅モードロック Ti:Sapphire レーザー)を下図に示します。

 再生増幅モードロック Ti:Sapphireレーザーは,4つの大きなシステムから出来ています。 始めに、モード同期発振器で100fsのパルスを発生させます。次に、その光をパルス伸長器に導きます。フェムト秒レーザーでは、上で述べたように高いピークエネルギーをもつので、そのまま増幅しようとすると、ミラーやエネルギーを増幅させるための結晶を破壊してしまいます。それを回避するため、パルス伸長器で数百psほどにパルスの時間幅を伸ばし、ピークエネルギーを下げます。そして、その光を再生増幅器、マルチパス増幅器でエネルギーを増幅させた後、最後にパルス圧縮器で100fsに戻し、中心波長 800nm パルス時間幅〜100fs  繰り返し周波数10Hz パルスエネルギー最大3mJ/pulse(空間エネルギー密度100TW/cm2) の高エネルギー超短パルスレーザーを得ています。


マルチパス増幅器