<研究トピックス1>
究極の固溶体SrTi(16O1-x18Ox)3における強誘電ソフトモードの臨界挙動
および量子相転移の観測に成功
 我々の研究室の助教谷口博基博士は、北海道大学名誉教授八木駿郎博士と共同で理想的な酸化物固溶体SrTi(16O1-x18Ox)3の強誘電ソフトモードの完全なソフト化の様子と、電子臨界組成近傍における原子の不均一配列に起因するナノレベルの相分離を初めて光学的に検出することに成功しました。
 理想的な変位型強誘電体と考えられているBaTiO3やPbTiO3は発見されて60年以上経過するにもかかわらず、その相転移のメカニズムは完全に解明されておらず、現在もなお多くの研究者が研究に取り組んでいます。そこで我々は、酸素同位体置換の手法を用いて量子常誘電体SrTiO3を強誘電体化し、また、様々な置換率の試料の強誘電性を調べました。
 ラマン散乱法は本系のような極めて小さな構造変化を検出するのに威力を発揮します。本手法により我々はSrTi(16O1-x18Ox)3の変位型強誘電体と、混合原子系において避けることのできない原子の不均一分布の様子を世界で初めて捉えることができました。
図1 試料の方向と光学配置(A), SrTi18O3での強誘電ソフトモードの転移点近傍でのソフト化の様子(B), ソフトA1モードの2乗周波数の組成依存性

図1BはAの光学配置で測定したSTO18-96のスペクトルの温度依存性を示します。また、図1CはA1モードの2乗振動数の温度依存性を組成xを変化させて測定した結果を示します。STO18-23は量子常誘電体、STO18-50, 66, 96は強誘電体であることがわかります。
図2 一般化した量子的Curie-Weis則(1)式で解析した量子ゆらぎの大きさT1の組成依存性(A), 臨界指数γの組成依存性(B)

図2Aは一般化した量子的Curie-Weis則(1)式で解析した量子ゆらぎの大きさT1の組成依存性、図2Bは臨界指数のγの組成依存性を示します。重同位体置換で量子ゆらぎT1は低下し、臨界指数γは臨界組成近傍で2となり、これは量子強誘電性相転移に関する理論から予測される値と一致します。
図3 量子臨界組成近傍STO18-32(A)のEgモードの温度依存性, STO18-96のEgモードの温度依存性(B), STO18-xのEgモードの温度依存性まとめ(C)

図3A, Bはそれぞれ臨界組成近傍のSTO18-32およびSTO18-96のB1(Eg)とB1(A2u)モードの温度変化を示します。臨界組成近傍のSTO18-32では↓で示すとおり常誘電相のEgモードが観測され、Cに示すようにこれは同位体置換しないSrTiO3のピークと重なります。この結果は臨界組成近傍では統計的に分布する同位体組成の濃淡を反映する2つの領域に対応するラマンスペクトルを観測したことになり、原子レベルでの不均一領域の分布を捉えたことになります。
 本研究結果は、米国物理学会速報誌Physical Review Letters, vol.99, No.1 (2007) p017602に掲載されました。