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新しい強誘電体・圧電体の設計指針を提案
 我々の研究室の符 徳勝博士(科学技術振興機構腰原非平衡ダイナミクスプロジェクト研究員)は東京大学理学部教授常行真司博士と共同で、古典的な強誘電体であるBaTiO3のBaをCaにより置換した(Ba, Ca)TiO3単結晶の電気的性質を調べることにより、Caが非中心位置を占有して本系の強誘電性と圧電性に決定的な影響を与えることを明らかにしました。
 理想的な強誘電体と考えられているBaTiO3は発見されて60年以上経過するにもかかわらず、その相転移のメカニズムは完全に解明されておらず、現在もなお多くの研究者が研究に取り組んでいます。そこで符博士は、Baよりもかなり小さなCaを置換して結晶のどの性質が変化するかを、実験と計算により系統的に調べました。
 電気測定はマクロな性質のみならず、原子変位に関係するようなミクロな情報を取り出すことができます。符博士は世界で初めて系統的に組成を変えた単結晶を作成し、この結晶に対して行った電気測定の結果を第一原理計算による結果と共有することにより、酸化物でマトリクスの原子を異なる原子で置き換える意味を定量的に理解し、強誘電体・圧電体に対する新しい材料設計指針を得ることに成功しました。
図1 ペロブスカイト型構造(a), 誘電率の温度依存性(b), Ba1-xCaxTiO3系の状態図(c), 臨界指数(d), 2.5 Kでの誘電率(e), 誘電率の周波数依存性(x=0.03)(f), 誘電率の周波数依存性(x=0.23)(g).

図1はBa1-xCaxTiO3系の構造、誘電率、および状態図を示します。本実験結果は、1961年に発表された三井のグループによる多結晶データと基本的に一致します。Ca置換量が増えるにしたがって正方晶が安定化されx=0.23以上でjは絶対零度でも正方晶しか現れないことが明らかです。また、いわゆる構造の乱れた系で観測される誘電率の周波数依存性も見られません
図2 Ca置換による体積変化の実測値(赤)とBaTiO3の静水圧下での体積の実測値

図2はBaTiO3のBaを小さなCaによって置換した場合とBaTiO3を静水圧下で測定した体積の変化を示します。この図から明らかなようにCa置換によって通常の固溶体系の体積変化と異なりBa1-xCaxTiO3系はxの変化にほとんど対応せず変化が小さいことがわかります。
図3 (001)面に投影したBa, Ca, Ti, Oの原子位置. Ba位置を置換した相対的に小さなCaは結晶学的な中心位置からずれて局所的に電気双極子モーメントを持つ(a). 結晶学的な中心位置からCaを[001], [111], [113]方向に変位させた場合の全エネルギー変化(b).

図3はCa置換で想定されるCaの正規の格子点からのずれ(左)と第一原理計算によるCaの[001], [111], [113]方向へのずれによる全エネルギー変化を示します。Caが一定量[113]方向にずれた場合、系は最も安定化することがわかります。
図4 電場下での歪みと電機分極, 分極処理後(a), 分極処理なし(b), (c)

図4は大きな歪みが、通常の分極反転に対応する抗電界Ecs依存することも明らかです。これは図2のように格子点位置からずれた位置にあるCaが電場下で協同的に移動し、これがTiの変位も誘起して、結果として結晶が大きな歪みを示すと考えることもできます。従来の変位型の強誘電体設計では、変位空間を広げるべくひたすら格子を大きくする元素置換が試みられていました。本研究をきっかけとして、化学結合と局所構造を意識した設計法が強誘電体・圧電体に新たな物質群を加えていく可能性を示唆しています。
 本研究結果は、米国物理学会速報誌Physical Review Letters, vol.100 (2008)に掲載されました。