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Oba Research Group

Tokyo Institute of Technology

研究テーマRESEARCH

はじめに ― 最先端のコンピュータシミュレーションを駆使した次世代の電子・エネルギー材料の設計と探索

 昨今の計算科学の進展とスーパーコンピュータの演算能力の向上は目覚ましく、量子力学に基づく第一原理計算から既知の材料を原子・電子レベルで深く理解するだけでなく、全く新しい材料の存在やその機能を高い信頼性で予測することも可能になってきました。計算科学が材料の研究・開発において真に役立てる時代になり、今後その役割はますます重要になるはずです。当研究室では、このような「計算材料科学」に基づいて材料を探究するとともに、これまでにない高機能材料を見出すことを目指しています。

 卓越した機能だけでなく、豊富に存在する元素から構成され、安価、無毒で高い環境調和性を有することなど、材料開発における要望はますます厳しくなってきています。このやりがいのある課題に、最先端のコンピュータシミュレーションを駆使して取り組んでいます。

 当研究室の研究テーマの概要は以下の通りです。計算手法の開発から電子デバイスや太陽電池などに使われる半導体材料やエネルギー材料への応用まで、幅広く研究を展開しています。このような研究に少しでも興味をお持ちでしたら、ぜひ一度見学にお越しください。


図1.東京工業大学スーパーコンピュータ TSUBAME
http://www.gsic.titech.ac.jp/tsubame

他に京都大学スーパーコンピュータACCMSや自作のクラスタも使っています。




図2.コンピュータシミュレーションによる新物質探索の具体例
希少元素を含まず、赤色発光を示す新しい窒化物半導体CaZn2N2の存在を予測し、実験により実証しました。
(Nature Commun., 2016; プレスリリース)

東工大の平松先生、細野先生、京大(現 千葉大)の日沼先生、京大の田中先生らとの共同研究の成果で、日経産業新聞、化学工業日報、日刊工業新聞、産経新聞、共同通信、京都新聞、南日本新聞、科学新聞、日刊産業新聞、毎日新聞、マイナビニュースなど、様々なメディアで取り上げられました。


マテリアルズ・インフォマティクスのための基盤技術の開発と応用

 計算科学手法、データ科学手法や合成・評価実験により効率的に物質・材料のハイスループット・スクリーニングを実行し、同時に巨大なデータを活かすことで設計・探索指針の構築に繋げようとする試みが世界各国で近年盛んになってきました。いわゆる「マテリアルズ・インフォマティクス」によるアプローチです。

 当研究室では、膨大な第一原理計算のデータを蓄積し、そこから効率的かつ自動的に有望な物質を選び出すin silico(インシリコ、計算機中)スクリーニングの基盤技術の開発を進めています(図3)。高いポテンシャルを有する新物質を的確に選出し、連携している実験グループに提案することで、材料開発を加速することが目標です。このシナリオを実現するため、計算手法の開発に取り組んでいます。


図3.先進計算科学に立脚した候補物質のin silicoスクリーニングの概念図



 例えば図4に示す半導体のバンドアライメントは、半導体材料やデバイスを設計する上で最も基本的かつ重要な情報になります。最近になって、第一原理計算の手法・近似を突き詰めることで、バンドギャップだけでなく、バンドの絶対的な位置の実験値をよく再現できるようになってきました。これにより実験値が報告されていない物質についても高精度な予測が可能であり、半導体材料としてのポテンシャルを評価できます。また半導体ヘテロ界面におけるバンドオフセットも同様に予測できます。その他、点欠陥の高精度計算のための手法(図5)など、基礎物性や格子欠陥の特性の高精度かつ系統的な予測のための計算手法の開発と新物質・新材料の探索への応用を進めています。


図4.半導体表面のバンドアライメントの高精度理論予測
高精度な第一原理計算により、バンドギャップだけでなく、バンド位置の実験値がよく再現されています。この計算手法を使えば、実験値が報告されていない物質についても信頼性の高い理論予測が可能と言えます。
(Phys. Rev. Lett., 2014; Phys. Rev. B, 2014; Phys. Rev. B, 2017)



図5.半導体および絶縁体の点欠陥計算の高精度化
計算モデルにおける荷電した点欠陥間並びに点欠陥と補償電荷間の静電相互作用を補正することで、希薄な点欠陥のエネルギーを高精度に理論予測できるようになりました。
(Phys. Rev. B, 2014, Editors' Suggestions)


材料機能の起源の探究

 材料の機能の多くは完全な結晶ではなく、点欠陥、表面、界面等の格子欠陥に由来します。「欠陥」と聞くとネガティブな印象があるかもしれませんが、実は格子欠陥をうまく活かすことで新しい機能を付与している実用材料がたくさんあるのです。当研究室では材料機能の起源となる格子欠陥について、計算科学からの原子・電子レベルでの詳細な理解を進めています。

 例えば図6に示す新しい青色蛍光材料では、窒化ホウ素に添加したセリウム原子(点欠陥)が発光の中心になっています。窒化ホウ素を構成するホウ素と窒素のサイズに対して、セリウムは非常に大きく、一見添加することは困難です。そこで第一原理計算により検討すると、セリウムの周りのホウ素が複数抜けた特殊な欠陥構造になることで、サイズのミスマッチをうまく補償できることが予測されました。この理論予測の結果は走査透過型電子顕微鏡観察により確認されています。

 この例の他に酸化物半導体(図7)や太陽電池用化合物半導体(図8, 9)の格子欠陥についても、その特徴を原子・電子レベルで明らかにしています。材料の機能の起源を正確に理解することで、新しい機能の創出につなげます。

図6.Ce添加窒化ホウ素(BN)単結晶における青色発光中心の解明
(左)結晶のカソードルミネッセンス像と(右)第一原理計算により予測された複合点欠陥の構造。Ceが4つのB空孔を伴う特殊な欠陥構造をとることでBやNとの巨大なサイズミスマッチが緩和され、Ceが結晶内に取り込まれることを解明しました。
(Phys. Rev. Lett., 2013)



図7.酸化物半導体SrTiO3における点欠陥の新しい理解
(左)新しい欠陥種「Tiオフセンター・アンチサイト」の提案。中央のSrサイトにアンチサイトとして導入されたTiが大きく変位し、局在電子状態を形成します。(Phys. Rev. Lett., 2009
(右)酸素空孔の特異な原子・電子構造の提案。中性の酸素空孔の二つの電子のうち、一つが図のように大きな格子緩和を伴って局在し、もう一つは空間的に拡がった浅いドナー状態をとります。(Adv. Mater., 2013
このような点欠陥の特異な原子・電子構造により、観測されている電気・光学特性が説明されます。




図8.新規太陽電池光吸収層材料ZnSnP2における点欠陥の形成挙動とキャリア生成機構の提案
欠陥形成エネルギーを化学ポテンシャル(合成雰囲気)とフェルミレベルの関数として評価した結果、この物質ではZnおよびSnのアンチサイト欠陥が優勢であり、これらがそれぞれアクセプタ、ドナーとして働くことが示唆されました。またドーパント添加・無添加系でのキャリア濃度の上限を予測しました。(Phys. Rev. B, 2014



図9.新規太陽電池光吸収層材料Sn2S3p型ドーピング法の提案
様々な点欠陥の理論的検討から、Snや陽イオンドーパントが格子間サイトに挿入されてドナーとして働くことにより、Sn2S3n型の指向性を示すことが予測されました。ドーパントとしてサイズの大きなKを選択すると、格子間サイトへの挿入が抑えられてSnサイトを置換し、アクセプタとして有効に働くことがわかりました。(Phys. Rev. Applied, 2016


バナースペース

東京工業大学 大場研究室

科学技術創成研究院フロンティア材料研究所/
物質理工学院材料系

すずかけ台キャンパスR3棟