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報道・広報: Press Release

日経テクノロジーonline
2017年7月3日




「応用物理学会から」
絶縁、超伝導、超磁性、トポロジカル電子物質の不思議な振る舞い
応用物理「トポロジカル電子物質の開拓」

 1980年代に1次元・2次元系を対象として理論構築が始まった物質中のトポロジーが2016年のノーベル物理学賞に輝いた。トポロジー効果に相対論効果を加え、舞台も自然に存在する3次元のバルク物質に移すことにより、今世紀になって物性物理学や物質科学が既存の延長線上にない不連続な進化を起こしつつある。応用にも革新をもたらすことが期待されるトポロジカル絶縁体とトポロジカル超伝導体について、物質・物性・機能の観点から研究の現状を紹介する。

※本記事は、応用物理学会発行の機関誌『応用物理』、第86巻、第5号に掲載されたものの抜粋です。
 5ページの記事全文は 日経テクノロジーonline で読めます。

応用物理
第86巻 第5号
2017年 5月10日




トポロジカル電子物質の開拓

会員2万3千人を誇る応用物理学会の月刊誌「応用物理(第86巻 第5号)」に研究紹介記事が掲載され、表紙のことばとデザインにも採用されました。
[表紙のことば] 3次元トポロジカル絶縁体.表面に特殊な金属状態を必ずもつ.理想的な場合,左上模式図のように,運動量とエネルギーの関係がグラフェンと同様にディラック錐型になった表面電子状態が単一で現れる.スピン(青色矢印)は運動量方向で向きが決まってヘリカルに偏極している.角度分解光電子分光実験により,理想に近い表面電子状態(右上図)が,Bi2Se3単結晶試料(下写真)のへき開表面において直接観察された.(p381参照)

日刊工業新聞(23面)
2017年 3月14日




高性能黒リントランジスタ
酸化させず膜厚制御 原子数層の厚さ

 東京大学大学院総合文化研究科の佐藤洋平大学院生、上野和紀准教授らは、東京工業大学フロンティア材料研究所の笹川崇男准教授らと共同で、“ポスト・グラフェン”として注目の厚さ原子数層の黒リンを使った高性能トランジスタを開発した。黒リンは炭素物質のグラフェンよりバンドギャップ(電子が存在しない領域)が大きく、トランジスタの材料として有望。グラフェンと同様の層状構造を持つ黒リンを使った新規デバイス材料が見込める。
 共同研究チームは、酸化されやすい黒リンの表面を、電気化学的なエッチングによって薄く加工し、空気にさらさずに膜厚を制御することに成功した。これによって、良好な動作特性を持つトラジスタを作製できた。
 試作したトランジスタのスイッチング動作に必要なバンドギャップは1.5電子ボルトと、従来の厚膜の黒リントランジスタに比べて約7倍に向上した。これは単原子層の性能に相当する。トランジスタの性能指標である移動度を低下させず、バンドギャップを大きくできたことで、高性能トランジスタが実現した。
 黒リンを数原子層の厚さに薄くし、膜厚を制御すると、バンドギャップが変化することは知られている。しかし、黒リンは空気中の水分と反応すると、移動度などが劣化してしまう課題があり、これまで動作性能の高い単原子層トランジスタは報告されていない。
 リンはマッチや肥料に使われる物質で、リンの同素体の中でも黒リンは比較的安定な半導体材料。グラフェンをはじめとする厚さ数原子層の層状半導体は高い移動度を持つことから、高性能なトランジスタとしての応用が期待されている。
 14日からパシフィコ横浜(横浜市西区)で開かれる応用物理学会春季学術講演会で発表する。

記事は 日刊工業新聞電子版 にも掲載されました。

日経産業新聞(8面)
2016年11月25日




テクノトレンド
トポロジカル絶縁体
「表面だけ導電」に熱い視線

 絶縁体だが、表面だけは電気をよく通す。そんな変わった性質をもつ「トポロジカル絶縁体」の応用開発が進んでいる。かつて理論的に予測され、近年、相次いで実験で確認された。物質の探索が進み、性能も向上しつつある。これまでにない新たなカテゴリーの物質と考えられており、未知の性質もありそうだ。高速で動作し消費電力の低いメモリなどの実現につながるとみられる。
 物質には電気を通す導電体、通さない絶縁体、その中間の半導体の3種類があり、どれになるかを決めるのは物質中の電子のエネルギー状態だ。2005年、米の研究者が絶縁体の電子のエネルギー状態を数学の位相幾何学(トポロジー)を用いて表し、これまでにないタイプの絶縁体があることを予測した。それがトポロジカル絶縁体だ。
 基本的には絶縁体だが、電子の軌道が通常とは異なり、電子のエネルギー状態は変化している。その結果、普通の絶縁体と接する界面だけが導電体になる。空気は絶縁体なので、空気に触れる表面は電気が流れる。内部の不純物などの影響を受けないため、抵抗値は極めて小さい。
 07年にドイツのグループによって実際に作られ、世界の注目を集めた。日本でも10年に文部科学省が研究プロジェクトを立ち上げ、現在もその後継プロジェクトが走っている。
(中略:トポロジカル絶縁体のメモリー機能、スピン機能についての話題)
 トポロジカル絶縁体の研究の中から、表面に「マヨラナ粒子」と呼ぶ、電子ではない粒子が流れる「トポロジカル超電導体」があることもわかってきた。現在研究中の量子コンピュータの素子として有望だという。
 東京工業大学の笹川崇男准教授らは昨年、東京大学、広島大学と共同で、トポロジカル超電導体の候補物質を見つけ、確認実験に取り組んでいる。
 かつて1970〜80年代にトポロジカル絶縁体の源流となった理論を構築した米の研究者3人は、今年のノーベル物理学賞の受賞が決まった。研究は今後、ますます熱を帯びそうだ。

日経産業新聞(8面)
2016年3月31日




次世代の先導者
東京工業大学准教授 笹川崇男氏
大型単結晶を合成 次世代素子に
電子の謎 解明に迫る

 これまでの電子機器は大量の電子が川のように流れる電流を利用してきた。東京工業大学准教授の笹川崇男は「個々の電子が持つ潜在的能力はまだたくさん隠れている」と電子の未知の性質解明に挑んでいる。
 笹川研究室では昨年、独自の技術でバラのように咲く物質の合成に成功した。花びら一枚一枚は1〜2ミリメートル角の黒リンの大きな単結晶だ。黒リンはシリコンよりも正孔(電子が空いた穴)が2倍以上速く動く。次世代の半導体素子として期待されるが、微量しか作れず純度も低いことから応用は進んでいない。
 「電子の性質を調べるにはまず単結晶作りから始める必要がある」と笹川は言う。低純度で微量の試料では、電子の正確な特性はわからない。2007年以降、高純度な電子材料の大型単結晶作りにこだわってきた。
 棒状で長さが7センチメートル以上ある銅酸化物高温超電導体を皮切りに、09年にダイヤモンド構造をした1ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の分子が立体的で規則的に並んだ1〜3ミリメートルの単結晶を作った。
 翌10年には電子が表面だけ速く動く「トポロジカル絶縁体」の単結晶合成に成功した。この絶縁体の発見者はノーベル物理学賞候補と言われる。次世代の素子に役立つと期待されており、笹川は産業応用に向けた基礎研究を進めている。
 原子数個分の層が積み重なった「遷移金属カルコゲナイド」の単結晶合成にも成功した。トポロジカル絶縁体と同様にシリコンよりも電子が速く動くため次世代素子の候補物質になっている。次々と作り出す単結晶を提供してほしいと、国内外の研究機関から共同研究の申し込みが相次ぐ。
 「最先端の研究は一研究室だけでできない」と世界中と共同研究を推進する。これまで国内外の50機関と組んだ。過去に在籍したスタンフォード大学で築いた人脈が現在に生きる。「同じ建物にノーベル賞受賞者が何人もいた。世界の中核でたくさんの科学者と絆が生まれた」と振り返る。
 中学生だった1989年にスイスの科学者が銅酸化物の超電導体を発見した。比較的高い温度で電気抵抗がゼロになるこの物質はテレビでも紹介され、興味を持った。長岡工業高等専門学校に進んだが、途中で東大に進む道があると知った。超電導の研究をしたいと東大進学を決意した。
 当時、東大教授の北沢宏一(故人)が超電導研究者として日本で特に有名だった。「北沢研に入りたい」と笹川は思った。大学院で念願がかない、同じグループの助教授だった岸尾光二の指導を受けて単結晶合成の研究に取り組んだ。
 大学院のとき、国際会議の機会に海外の研究室を訪問しては議論をした。その結果、40日も日本に戻らないことがあった。北沢から「君はお金がかかってしょうがない。一度、海外で武者修行しなさい」と言われ、博士課程の途中からスタンフォード大に常駐した。
 東工大から准教授の募集があり帰国を考えた。しかし面接官の1人で教授の細野秀雄から「君は高温超電導研究しかやってこなかったのか」と詰問された。その言葉が超電導以外の様々な物質研究に取り組む刺激となり、今に至っている。
 ただ科学者への道を開いた高温超電導研究は引き続き1本の柱として残している。物理学の中で特に難解な超電導の研究から、これまでに複数のノーベル賞が誕生している。「室温超電導体の発見もあきらめていない」と笹川は意欲を燃やす。

化学工業日報(7面)
2016年3月4日




ディラック電子 磁気モーメント測定
理研・東工大など 制御法確立に期待

 理化学研究所、東京工業大学の研究グループは、ディラック電子が持つ磁気モーメントを精密測定する新手法を開発した。トポロジカル絶縁体表面に走査型トンネル顕微鏡法/分光法を適用。ディラック電子の磁気的性質の選択的制御が可能なことを見出した。ディラック電子制御法の確立や、スピントロにクス素子、低消費電力素子などの開発につながる。
 トポロジカル絶縁体は内部電子は動かないが、表面に自由に動く質量ゼロのディラック電子が自然生成される物質。ディラック電子の応用には質量を与える磁気モーメントの制御が重要で、その正確な評価が求められていた。しかし従来測て法では内部電子の寄与が大きく測定が困難だった。
 そこで研究グループは電子の磁気モーメントが磁場の方向に揃えられる「ゼーマン効果」に着目。トポロジカル絶縁体のビスマスセレン、アンチモンテルルセレンに理研が開発した新顕微鏡による走査型トンネル顕微鏡法/分光法を適用した。12テスラの強磁場中で試料表面エネルギー準位の磁場依存性、磁気モーメント値を正確に測定し、磁気モーメントに物質依存性があることを見出した。
 基礎物理学やディラック電子の制御への応用を推進する。低消費電力素子として期待されるトポロジカル絶縁体素子の実用化などに寄与する。
セラミックス Vol.51
トピックス(p.143)
2016年 3月 1日



光で電気の流れを止める
‐ オンオフ自在の高速双方向光スイッチに応用

 東京工業大学の深谷亮研究員(現 高エネルギー加速器研究機構特任助教)、沖本洋一准教授、腰原伸也教授、笹川崇男准教授らの研究グループは、東北大学の石原純夫教授らの研究グループと共同で、金属への光照射で電流が流れにくくなる現象を発見し、この現象を利用した電流特性の高速光スイッチング動作に成功した。
 光を利用して物質の性質を変えたり、電子の動きを自在に制御する技術は、高速で動作する光スイッチの実現につながる技術として注目されている。 物質に照射された光のエネルギーは、電子の数や運動エネルギーを増やす方向に変換されるため、電気伝導度は増加する、つまり電気が流れやすくなるのが一般的である。 これはスイッチ動作でたとえると、オフからオンに相当するが、逆の動作の「オンからオフ」を光で実現できれば、双方向に動作する光スイッチとして、用途は飛躍的に増大する。
 今回、金属の性質を持つストロンチウム・カルシウム・銅から成る酸化物への光照射による電気特性の変化を調べた。 この物質は梯子状の結晶構造を有しており、電気伝導を担う正孔が対を成して、二人三脚のように足並みをそろえて周期的に動いていると推測されている。
 研究グループは、この性質を持つ金属状態の試料に0.1 ピコ(ピコは1兆分の1) 秒のパルス幅を持つ近赤外光(波長800nm) を照射すると、瞬時に電流の流れが抑制されることをポンプ・プローブ分光法と呼ぶ技術で確認した。理論モデルから、光で生成した正孔が正孔対の足並み(周期的性質)を乱すことにより、電気の流れが抑制されることを明らかにした。 さらに、光パルスを同一試料に1 ピコ秒間隔で連続的に照射すると、それに応答して電気が流れやすい金属と、電気が流れにくい絶縁体の性質を繰り返すことがわかり、電流オンオフの双方向光スイッチングに成功した。
 この双方向光スイッチングは、低温から室温にわたる温度領域で動作することも確かめられ、室温で動作する高速双方向光スイッチとして、次世代のコンピューターや通信システムなどの基幹部品などに利用できると期待している。

東京工業大学
プレスリリース
2016年2月25日


   http://www.titech.ac.jp/news/


質量のないディラック電子の磁気モーメントを精密測定
−トポロジカル絶縁体の隠れた個性を発見−

 理化学研究所創発物性科学研究センター創発物性計測研究チームの付英双(フ・インシュアン)国際特別研究員(研究当時)(中国・華中科技大学教授)、花栗哲郎チームリーダー、強相関量子伝導研究チームの川村稔専任研究員、創発計算物理研究ユニットのモハマド・サイード・バハラミーユニットリーダー、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授らの共同研究グループは、「トポロジカル絶縁体」表面に形成される質量ゼロの「ディラック電子」が持つ磁気モーメント(磁力の大きさと向きを表すベクトル量)を精密に測定する新しい手法を開発しました。
 トポロジカル絶縁体は、固体内部の電子は動くことができませんが、その表面には自由に動く電子が自然に現れる物質です。また、この表面の電子には質量がありません。このような質量ゼロの電子はディラック電子と呼ばれ、通常の電子とは異なる性質を示します。特にトポロジカル絶縁体表面のディラック電子は、電気伝導と磁性の間の強いつながりが特徴で、スピントロニクスなどへの応用が期待されています。表面のディラック電子を制御するためには、磁性を特徴づける基本的な量である電子の磁気モーメントの情報が必要です。しかし、表面ディラック電子の磁気モーメントを測定できる手法はこれまで存在しませんでした。
 今回、共同研究グループは、「走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)」を用いた磁気モーメントの新しい評価法を開発し、2 種類のトポロジカル絶縁体に適用しました。その結果、2 つの物質でディラック電子の運動速度がほとんど同じであるのに対し、磁気モーメントは大きさも方向も全く異なることが分かりました。
 これは、トポロジカル絶縁体の隠れた個性を明らかにしたもので、磁気モーメントを通したディラック電子の新しい制御法の開発へつながる成果です。
 本研究は、国際科学雑誌「Nature Communications」(2 月24 日付:日本時間2月24 日)に掲載されました。
[論文情報] "Observation of Zeeman Effect in Topological Surface State with Distinct Material Dependence(トポロジカル表面状態における際立った物質依存性をもったゼーマン効果の観測)", Y.-S. Fu, T. Hanaguri, K. Igarashi, M. Kawamura, M. S. Bahramy, and T. Sasagawa, Nature Commun. 7, 10829 (2016); doi:10.1038/ncomms10829.

日経産業新聞(8面)
2016年2月17日




電子の移動10倍速い材料:グラフェンなど続々発見
高速次世代素子に応用

 まるで質量を持たないかのように、物質中を高速で動く「ディラック電子」を持つ材料が注目されている。2010年にノーベル物理学賞の受賞対象となったグラフェン(層状炭素分子)で普通の10倍以上速く電子が移動することがわかり、その後も新たな材料が続々と見つかった。今までにない高速で動作する次世代素子の開発につながると期待されている。
 グラフェンは黒鉛の表面を薄くはがしたもので、炭素が6角形の網の目のようにつながったシート状になっている。こうした特殊な構造のために、内部の電子が高速の300分の1という高速で動く。
 こうした電子は、英国の物理学者ボール・ディラックが理論的に振る舞いを予測したことから「ディラック電子」と呼ばれる。ディラック電子は、電子がシリコン半導体の10倍以上素早く移動する。このため電気や熱の伝導度が極めて高いなど、電子材料として有望な性質を持つ。08年にそれが判明すると、世界中で研究に火がついた。
 欧州連合(EU)は13年、23ケ国142機関が参加し、10年間のグラフェンの研究プロジェクトを始動した。米国ではインテルやIBMが、韓国ではサムスン電子が精力的に研究に取り組んでいる。
 日本では大学を中心に研究が進む。
(中略:国内でのグラフェン研究の話題)
 グラフェンの欠点は、電流のオン・オフが制御できないことだ。このままでは電子素子になりにくい。電圧をかけた時だけ電気が流れる半導体にすれば、応用がひろがる。
 東京工業大学の笹川崇男准教授は米スタンフォード大などと共同で、物質の表面だけにディラック電子が流れる「トポロジカル絶縁体」の研究を推進している。鉄などの磁性元素を添加すると、電子機能を更に付加できることも見出した。
 新たな材料も次々と見つかっている。
(中略:シリセン、層状ビスマス化合物の話題)
 この分野の研究で、日本の存在感は大きい。だが日本の電機メーカーの多くはすでに半導体素子からは撤退しており、大学発の技術の受け皿にはなれないのが現状だ。日本初の有望な成果が出ても、実用化は海外が先行することになるだろうと懸念する声も出ている。

日本経済新聞(電子版)
2016年1月25日




超高速コンピュータへ 「血の巡りが良い」新素材

 人間の肌は血の巡りが悪いとトラブルにつながるため、血行の促進が大切だ。実は物質の表面でも、肌に例えると血行の代わりとなる電子が動きやすく、「血の巡りが良い」種類が次々と登場している。物質科学者や電子工学者はこうした血の巡りが良い表面を持った物質に注目、従来をはるかに超える速さで演算できるコンピューターなどの実現に期待を寄せている。
■電子が光の速さで動くグラフェン
 2010年、原子1個分の厚さしかないグラフェン(シート状炭素分子)がノーベル物理学賞の受賞対象になった。このグラフェンの特徴のひとつが、電子の見かけ上の重さ(有効質量)がゼロであることだ。電子の重さがゼロだと電子が光速に近い速さで流れるため、大規模集積回路(LSI)の配線などに使うと超高速コンピューターなどの実現につながる。この発見をきっかけに、「グラフェンに続け」と同様の性質を持つ新物質の探索が盛んになっている。
(中略:タングステン、遷移金属ダイカルコゲナイドの話題)
■黒リンは合成法の開発で研究加速
 黒リンというニューフェースも現れた。マッチの芯でこすると燃えるリンは赤いので、赤リンと呼ぶ。これに対し、超高圧で合成されるリンは層状構造をしており黒いため、黒リンと呼ばれている。15年、物理関係の学会で、突然、黒リンに関する論文が急増した。08年にドイツのミュンスター大学の研究チームが大気圧で合成できる新技術を開発。他の研究機関が追試してようやくつくれるようになり、様々な特性がわかってきたからだ。
 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、ドイツが発表した技術を改良し、より効率よく合成できる技術を開発した。真空容器の中に赤リンと、赤リンを黒リンに変化させる触媒となる化合物を入れ、花ビラのような黒リンを作った。「市販品は数ミリメートル角のシート1枚で5万〜10万円する。我々の方法を使えば価格は10〜100分の1にでき、研究も盛んになるだろう」と笹川准教授は話す。黒リンはシリコンより優れた電子特性を持つことが分かっており、黒リンを使った高速LSIの開発が、笹川准教授の目標だ。
■政府も後押し 事業化を目指す
(後略:関連する研究助成の話題)

日経産業新聞(8面)
2016年1月21日




東工大、次世代の半導体素材候補 黒リン高純度に
大気圧で合成 LEDなどに

 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、次世代の半導体素材の候補になる黒リンを高純度で合成する技術を開発した。黒リンは電気が速く動くため、半導体素材に向いている。従来は合成に超高圧が必要だったが、大気圧で作れるようにした。発光ダイオード(LED)や高速コンピュータに使えるとみて実用化を目指す。
 リンは結晶構造と見た目の色で白、赤、黒などの種類がある。発火性の赤リンはマッチに使われる。黒リンは電子が開いた穴(正孔)が速く動く性質がこれまでの研究でわかっている。しかし合成には1万気圧以上の圧力が必要で、応用研究に進められなかった。
 2008年にドイツの研究チームが地中で鉱床の成長を促す鉱化剤を使い、大気圧で赤リンから黒リンを作る技術を開発した。しかし結晶の質が低く、一度に作れる量も少なかった。
 今回、赤リンと鉱化剤の配合比、鉱化剤の成分を変えながら石英管に真空封入。2個のヒーターで温度差をつけるなどの独自技術を使い、顕微鏡で観察しながら結晶の最適な成長条件を探した。
 その結果、1〜2ミリ角の単結晶のシートが集まった花に似た黒リンが成長した。純度は99.9%以上と高い。シートはリン原子1個分の厚さの膜が数百枚重なっている。粘着テープで剥がしながら薄くできるという。
 黒リンは正孔が動くp型半導体で、正功の動きやすさを示す移動度はシリコンの2倍以上と高い。電子構造はLEDや光センサーに向いた直接遷移型という。現在、電子が動くn型半導体の開発も進めている。p型とn型がそろえば様々な応用に展開できるとみられる。
 これらは修士1年・高橋敬成君が行っている研究の成果であり、2015年秋と2016年春(予定)の応用物理学における発表内容です。

日経産業新聞(8面)
2015年10月30日




金属、光照射で電流流れず
光スイッチに応用

 東京工業大学は東北大学と共同で、電気を通す金属に光を当てると、電流が流れなくなる現象を発見した。金属の中の電気の流れが、光によって乱されるために流れなくなるとみている。光を高速で点滅させると、電流が流れたり、流れなくなったりすることも確認した。次世代のコンピュータや通信システムなどの基幹部品の一つである「光スイッチ」に利用できると期待している。詳細は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表した。
 一般に金属は電子や正孔(電子の抜けた穴)が個別に動いて電流になる。今回は金属の性質をもつストロンチウム・カルシウム・銅酸化物の性質を調べた。この化合物は2個の正孔が対になり、二人三脚のように足並みをそろえて動いているという。
 研究チームはこの化合物に赤外光を当てると、電気が流れなくなることを分光法と呼ぶ技術で確認した。光が当たると正孔対の足並みが乱れるためだとみている。また、発光時間が0.1ピコ(ピコは1兆分の1)秒のパルス状の赤外光を連続的に当てると、それに応答して電気が流れる金属と、電気が流れない絶縁体の性質を繰り返すことも分かった。

 これらは共同研究の成果で、卒業した由井君・諌山君が参画していました。

東京工業大学
プレスリリース
2015年10月23日


   http://www.titech.ac.jp/news/


常識を覆し、光で電気の流れを止める
−10兆分の1秒の高速光スイッチングデバイスに道−

 東京工業大学大学院理工学研究科の深谷亮産学官連携研究員(現高エネルギー加速器研究機構特任助教)、沖本洋一准教授、腰原伸也教授、同応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、東北大学大学院理学研究科の石原純夫教授らの研究グループは、銅酸化物超伝導体中の電気の流れをレーザー光でオフ・オンする方法を発見しました。
 光を使って金属的物質(導体)を絶縁体にする(電気の流れを止める)ことは困難とされていましたが、梯子(はしご)構造を有する材料の特異なホールペアの動きを利用して、光励起による電気の流れのオフ・オンを初めて実現しました(「隠れた絶縁体状態」と呼ばれます)。
 さらに光パルス列を対象試料に照射することで、室温を含む広い温度域で1ピコ(1ピコは1兆分の1)秒以内に絶縁体-金属の変化を双方向で切り替えることにも成功しました。これにより、室温かつ10兆分の1秒以下で超高速動作する次世代光スイッチングデバイス開発へ道を拓くことが期待されます。
 本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」(10月20日電子版)に掲載されました。
[論文情報] "Ultrafast Electronic State Conversion at Room Temperature utilizing Hidden State in Cuprate Ladder System(梯子型銅酸化物の隠れた秩序を利用して室温で電子状態の超高速変換)", R. Fukaya, Y. Okimoto, M. Kunitomo, K. Onda, T. Ishikawa, S. Koshihara, H. Hashimoto, S. Ishihara, A. Isayama, H. Yui, and T. Sasagawa, Nature Commun. 6, 8519 (2015); doi: 10.1038/ncomms9519.

日経産業新聞(9面)
2015年10月21日




超電導材料の表面
特殊な電子状態に

 東京大学の石坂香子准教授と東京工業大学の笹川崇男准教授らは、特定の超電導材料の表面が通常と異なる電子状態を示すことを見つけた。存在が予言されている特殊な性質の素粒子「マヨラナ粒子」が存在する可能性があるという。今回は電気抵抗がある常電導での電子状態を調べたが、超電導状態にすればマヨラナ粒子が見つかると期待している。
 広島大学の奥田太一准教授らも研究に参加し、詳細を英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に発表した。
 電子状態を調べたのはセ氏零下268度以下で電気抵抗ゼロの超電導状態になるパラジウム・ビスマス化合物。光電子分光法と呼ぶ技術で常電導での材料内部と表面の電子状態を調べた。その結果、内部は従来から知られている超電導材料の電子状態だったが、表面は異なる性質を示した。
 これまで内部が絶縁体、表面が金属の「トポロジカル絶縁体」が見つかっている。パラジウム・ビスマス化合物の電子状態は、この絶縁体表面に似ていた。研究チームはまだ存在の確証が得られていないトポロジカル超電導体ではないかとみている。その場合、超電導状態で表面に存在する電子はマヨラナ粒子だと期待されている。
 今後はセ氏272度まで冷却できる光電子分光装置を使い、今回の材料を超電導にして電子状態を調べる考えだ。
マヨラナ粒子 イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナが1937年に理論で存在を予言した素粒子。プラスやマイナスの電気の性質(電荷)などをもたない状態の素粒子を意味している。今年のノーベル物理学賞の対象となった素粒子ニュートリノや、超電導材料の表面の電子がその候補との見方もある
 宇宙には、身の回りの物質を構成する粒子と、性質が正反対の反粒子が存在する。電子の反粒子は陽電子で、正反対の電荷を持つ。電荷を持たないマヨラナ粒子は反粒子と区別できず、まだ発見されていない。
 これらは共同研究の成果で、博士2年・大川顕次郎君と卒業した加納学君が参画しています。

東京工業大学
プレスリリース
2015年10月19日


   http://www.titech.ac.jp/news/


トポロジカルな電子構造をもつ新しい超伝導物質の発見
−トポロジカル新物質の探索に新たな指針−

 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の坂野昌人大学院生、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 物理工学専攻の石坂香子准教授らの研究グループは、東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一准教授らと共同で、新しい超伝導物質PdBi2がもつトポロジカルな電子構造を実験的に検出するとともに理論的に証明し、トポロジカル超伝導の研究やさらなるトポロジカル新物質の探索にむけて大きく貢献しました。
 私たちの身の回りの物質はこれまで電気的性質により金属、半導体、絶縁体、超伝導体などに分類されてきました。ところが近年トポロジーという数学的概念を電子状態に対して考慮することにより、真空と異なるトポロジカルな性質をもつ「トポロジカル物質」というそれまでにない分類が出現し、物理学、数学だけでなく化学、工学の広い分野にわたり注目を集めています。トポロジカル物質のもつ本質的な特徴として、固体内部とは異なる特殊な電子が表面に存在し、それらが新しい電気的・磁気的機能の担い手となる可能性があるからです。その中でもトポロジカル超伝導体では表面にマヨラナ粒子と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており、その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています。
 今回研究グループは、パラジウム(Pd)とビスマス(Bi)で構成される新規超伝導体PdBi2がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにしました。先端的なスピン分解・角度分解光電子分光法を用いて特異な表面の電子状態を実験的に直接検出するとともに、その表面状態がPdBi2のもつトポロジカルな性質により出現するものであることを第一原理電子構造計算により証明しました。本研究成果をもとに、新たな指針に基づくトポロジカル超伝導体の研究やトポロジカル新物質の探索が大きく進展することが期待されます。
 本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」(10月13日電子版)に掲載されました。
[論文情報] "Topologically Protected Surface States in a Centrosymmetric Superconductor β-PdBi2(空間反転対称な超伝導体β-PdBi2におけるトポロジカルに保護された表面状態)", M. Sakano, K. Okawa, M. Kanou, H. Sanjo, T. Okuda, T. Sasagawa, and K. Ishizaka, Nature Commun. 6, 8595 (2015); doi: 10.1038/ncomms9595.

日経産業新聞(7面)
2015年10月12日




新半導体 作りやすく
グラフェンと比べ

 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、高機能が期待される新たな半導体を開発した。タングステン・セレン化合物の結晶。作製法と電子制御は半導体の次世代素材として期待されるグラフェン(シート状炭素分子)よりも優れているという。
 英セント・アンドルーズ大学との共同研究の成果で、英科学誌ネイチャー・ナノテクノロジー(電子版)に掲載された。
 開発したのはタングステン1原子層をセレンで上下から挟んだ3原子層が積み重なったWSe2の組成で表される結晶。3層膜が1組だけのナノ・シートだと電子の磁石の性質(スピン)を制御できることが知られており、基礎研究が進んでいる。ただ、実用面で単体の3層膜はつくりにくく、逆に何組も重なった結晶はスピン機能が失われるという課題があった。
 研究チームは結晶表面に金属のルビジウムを希薄に蒸着すると、単結晶の表面が単体の3層膜に近い性質に変わる性質を見つけた。単結晶の作製はそれほど難しくないため、従来より容易に3層膜の性質が得られるようになった。
 炭素原子1層のグラフェンを使って次世代素子を開発する研究も国内外で進められている。素子に利用できる広い面積に作ることや、電子の動きをオン・オフさせるための改良が課題になっている。
(以上、記事の抜粋と補足)

 この国際共同研究には、卒業生の浅川瑞生君が参画していました。

東京工業大学
プレスリリース
2015年 9月24日


   http://www.titech.ac.jp/news/


結晶でもグラフェン凌ぐ2次元電子機能を実現
−電子のスピンも調整でき次世代デバイス実現に威力−

 東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、英セント・アンドルーズ大学のフィリップ・キング(Philip King)講師らの国際共同研究チームは、二セレン化タングステン(WSe2)の単結晶表面にルビジウム(Rb)を希薄に蒸着することで、電子のもつ磁気的性質(スピン)を巨大に変化できる単原子層の電子ガスが生成することを発見しました。これにより、グラフェンを超える2次元電子機能を簡便に実現することができます。
 電界効果トランジスタの根幹部分(ゲート)で行っている静電ドーピングを化学的に模倣して、通常のゲート電圧効果より2桁大きなスピン変化を自在に調整できることを実証しました。静電ドーピング効果で誘起される2次元電子ガスは、"水を注ぐと水位が下がる"ことに相当するような「負の圧縮率」と呼ばれる特異な状態をもつことも解明しました。本成果は、次世代半導体の基礎学理に重要な知見を与えるとともに、室温で動作するスピントロニクス・デバイスの実現などに向けて大きな弾みとなります。
 以上の成果は、英国の科学誌「Nature Nanotechnology(ネイチャー・ナノテクノロジー)」においてオンラインで先行出版(9月21日発行:日本時間9月22日)されました。
[論文情報] "Negative Electronic Compressibility and Tunable Spin Splitting in WSe2(二セレン化タングステンにおける負の電子圧縮率と調整可能なスピン分裂)", J. M. Riley, W. Meevasana, L. Bawden, M. Asakawa, T. Takayama, T. Eknapakul, T. K. Kim, M. Hoesch, S.-K. Mo, H. Takagi, T. Sasagawa, M. S. Bahramy, and P. D. C. King, Nature Nanotechnology, Published Online (21 Sep. 2015); doi: 10.1038/NNANO.2015.217.

日経産業新聞(8面)
2015年 7月16日




超電導 利用温度上昇も

 東京大学などは、電気抵抗ゼロの超伝導がより高い温度で起こる可能性を示す電子状態を発見した。物質を冷やすと最初に部分的に点在した場所から超電導が始まり、さらに低温で全体に広がることが分かった。全体に広がった温度が超電導の開始と誤認されていたという。点在した場所をうまく連結できれば、超電導を利用できる温度が高まると期待している。
 近藤猛准教授と辛埴教授らの研究成果。東京工業大学の笹川准教授なども研究に加わった。詳しい内容は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(電子版)に掲載された。
 代表的な超電導物質であるビスマス系銅酸化物の電子状態を「レーザー誘起型光電子分光法」と呼ぶ最先端技術で測定した。セ氏零下138度まで冷却したところ、超電導に特有の電子状態が現れた。これまでは同181度以下で超伝導になると考えられてきた。
 実際は43度高い温度で超電導が始まっていた。物質内で部分的に超電導電子が発生しても、全体に広がらないため測定されなかったという。他の物質でも既知の温度より高温で超伝導が始まっている可能性がある。

東京工業大学
プレスリリース
2015年 7月 9日


   http://www.titech.ac.jp/news/


超伝導できない超伝導電子
−超伝導温度より遙か高温から存在する超伝導電子の発見−

 東京大学物性研究所の近藤猛准教授、辛埴教授らとの共同研究により、銅酸化物高温超伝導体では、通常の超伝導体とは異なり、抵抗がゼロになる超伝導転移温度よりも遥かに高温から超伝導電子が生成されていることを発見しました。
 今回、先端的なレーザー技術と分光技術とを組み合わせて実現した高性能角度分解光電子分光装置を用いて、従来とは一線を画すエネルギー分解能で、高温超伝導体 Bi2Sr2CaCu2Oy における超伝導電子を観測しました。一般的な超伝導体とは全く異なって、高温超伝導体では超伝導転移温度の約1.5倍もの遥かに高い温度から超伝導電子が形成されていることを発見しました。超伝導電子の形成温度と超伝導転移温度が大きく食い違う物質例はこれまでになく、銅酸化物高温超伝導体に固有の特性といえます。従って今回の発見は、高温超伝導メカニズムの解明や超伝導転移温度を更に向上させる指針を与えるものとして期待されます。
 この成果は、英国の科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」オンライン先行版(現地時間7月9日発行)に掲載されました。
[論文情報] "Point nodes persisting far beyond Tc in Bi2212(高温超伝導体Bi2212において転移温度よりも遥かに高温まで生き残るポイントノード)", T. Kondo, W. Malaeb, Y. Ishida, T. Sasagawa, H. Sakamoto, T. Takeuchi, T. Tohyama, and S. Shin, Nature Communications 6, 7699 (2015); doi:10.1038/ncomms8699.
応用セラミックス研究所
ニュースレター(No.34 p.6)
2015年 5月10日



グラフェンを超える新世代デバイス技術の創出を目指して

 重さゼロのディラック電子と呼ばれる2次元電子状態をもつグラフェン(炭素の単原子層薄膜)は、シリコンの限界を超える次世代電子材料として注目されています。しかし、大面積で高品質に合成することの困難さや、デバイス構造を作ったときの性質の変化などが問題になっています。そこで我々は、応セラ研の共同利用研究を最大限に活用して、これらの課題を克服でき、更にこれまでにない電子機能の実現も期待される「相対論効果が顕著な電子系物質」の研究に取り組んでいます。
 その代表例が“トポロジカル絶縁体”です。物質の理論予言(2007年)から時をおかずに、良質大型単結晶の育成技術を確立し、トポロジカル絶縁体の表面にグラフェンに類似した2次元ディラック電子が存在することを世界に先駆けて実証しました。また、グラフェンと違ってトポロジカル絶縁体の表面電子状態は乱れに強いこと、異常量子ホール効果を生み出す新奇な電子状態が強磁性により生じることなど、種々の特性を明らかにしました。更に、外部電圧で表面状態をナノスケールで制御・記録できることや、電荷ポテンシャルと外部磁場でスピン磁化のナノ空間分布を創製・制御できることなど、新機能の芽も見出しました。最近は、新しい種類のトポロジカル絶縁体に加えて、グラフェン類似の電子状態をバルクで持つ3次元ディラック物質や、新原理の量子計算を可能にするといわれるトポロジカル超伝導体など、相対論効果で創発する様々な新奇電子状態をもつ物質の開拓にも力を注いでいます。

日経産業新聞(10面)
2014年11月 7日




テクノトレンド
原子1個分の薄膜から材料
LEDや超電導体に活用

 最先端の電子材料研究で、原子1個分の極めて薄い膜(原子層膜)への関心が高まっている。良質な単結晶の成長を促す効果があるほか、電子の重さや電気抵抗がゼロになるなど、分厚い材料では示さない特異な振る舞いをすることが分かってきたからだ。研究の多くは基礎研究段階だが、様々な応用につながる可能性もある。電子顕微鏡でも見えないうすい膜に、研究者の熱い視線が集まる。
(中略:グラフェン上窒化ガリウム膜でのLEDの話題)
 東京工業大学の笹川崇男准教授は米スタンフォード大学などと共同で、4年前から表面の1原子層(注)だけ電気が流れ、中身は流れない「トポロジカル絶縁体」の研究に取り組んでいる。この性質を示すのはビスマス・セレンなどの化合物だ。表面を流れる電子は重さがゼロで、極めて定電圧で動かせることから、究極の低消費電力素子を実現できる可能性があるとみる。
 最近は絶縁体を改良した「トポロジカル超電導体」と呼ぶ新材料の開発も進行中だ。###中略###・・と笹川准教授は話すが、極めて高速で演算をこなす「量子コンピューターに利用できるのではないか」と期待する。
(後略:単層鉄系超伝導体の高い転移温度、
硫化モリブデンなどにおけるバレートロニクス関連の話題)

(注)正しくは「数〜数十原子層」になります。

日経産業新聞(10面)
2014年 9月22日




重さゼロ電子の金属
外部から磁気制御

 理化学研究所の花栗哲郎チームリーダーと川村稔専任研究員らは、重さゼロの電子の特異な現象を確認した。特殊な顕微鏡で調べたところ、理論計算で予測した状態と一致することを示した。電子が持つ磁気(スピン)の分布を制御でき、情報処理に使うエネルギーが現在の電子素子より桁違いに少ない磁気素子を開発できると期待している。
 東京工業大学の笹川崇男准教授らとの共同研究の成果。詳しい内容は英科学誌ネイチャー・フィジックス(電子版)に掲載した。
 電子の見かけ上の重さ(有効質量)がゼロになる物質はこれまでに何種類か発見されている。これらの物質でスピンを制御するには、スピンが物質中でどのように振る舞うかを直接観察する必要があった。
 研究チームは今回、表面だけ電子の重さゼロの金属で内側が絶縁体のビスマス・セレン化合物単結晶を使い、電子の状態を詳しく調べた。
 物質をセ氏マイナス272度に冷やし外部から11テスラ(テスラは磁場の単位)の磁力を与えたところ、電子がリング状に集まってスピンが放射状に並ぶことが分かった。
 外部から与える磁力によって、スピンの分布を制御できる可能性が分かった。
 この共同研究には、卒業生の五十嵐九四郎君が参画していました。

東京工業大学
プレスリリース
2014年 9月12日


   http://www.titech.ac.jp/news/


質量のないディラック電子の空間分布の観測に成功
−ディラック電子の空間分布が特異であることを発見−

 理化学研究所の付英双特別研究員、川村稔専任研究員、花栗哲郎チームリーダーらとの共同研究により、トポロジカル絶縁体表面に形成される質量のない電子(ディラック電子)の空間分布の観測に成功し、特異な空間分布であることを解明しました。
 今回、トポロジカル絶縁体 Bi2Se3 の表面ディラック電子状態をナノスケールに閉じ込め、「走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)」を用いて、その空間分布を直接観測しました。理論解析との比較により、ディラック電子の波動関数の2成分(電子スピンに対応)が、それぞれ異なる空間分布を持つことが分かりました。この2成分の空間分布の違いを利用することで、電子を閉じ込めるポテンシャルの工夫と磁場印加によって、様々なスピン磁化のナノスケールにおける空間分布を作り出せる可能性を見出しました。従って本成果は、トポロジカル絶縁体表面におけるディラック電子の新しい制御法につながると期待されます。
 この成果は、英国の科学誌「Nature Physics(ネイチャー・フィジックス)」オンライン先行版(現地時間9月14日発行)に掲載されました。
[論文情報] "Imaging the two-component nature of Dirac-Landau levels in the topological surface state of Bi2Se3(トポロジカル絶縁体 Bi2Se3 表面のディラック・ランダウ準位における2成分の画像化)", Y.-S. Fu, M. Kawamura, K. Igarashi, H. Takagi, T. Hanaguri and T. Sasagawa, Nature Physics, Published Online (14 Sep. 2014); doi:10.1038/nphys3084.

科学新聞(2面)
2014年 5月30日




「磁場中の高温超伝導現象」全体像解明
絶対零度まで包括、量子臨界点が2つ

 東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と米フロリダ州立大学との日米研究チームは、これまで謎とされてきた、高温超伝導体において磁場が起こす状態変化について、絶対零度まで包括する全体像を明らかにすることに成功した。
 磁場を強めていくと電気抵抗ゼロの超伝導状態になる温度は低下していく。これまでは、超伝導になる温度が絶対零度まで低下する磁場が唯一の量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)で、それ以上の磁場中には超伝導状態は存在しないと考えられていた。
 笹川准教授によると「固体中の電子が起こす現象の中で、超伝導ほど面白いものはありません。ただ、様々な分野への応用が切望されている高温超伝導ですが、そのメカニズムは解明されていません」という。
(以下、省略)


日刊工業新聞(19面)
2014年 5月23日




銅酸化物の高温超電導体
状態変化の全体観測

 東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と米フロリダ州立大学との日米研究チームは、100 K(絶対温度)前後で電気抵抗がゼロになる銅酸化物の高温超電導体での磁場が起こす状態変化について、絶対零度までを含む全体を観測することに成功した。18テスラの高磁場までと、0.09 K の極低温までという磁場と温度環境を変化させて電気抵抗を観測することで実証した。高温超電導体のメカニズムを知るうえで欠かせない手がかりになると期待される。
 研究ではランタン・ストロンチウム・銅の酸化物からなる高温超電導体を試料として、4 - 6 K で電気抵抗がゼロになる超電導状態にした。さらに高磁場をかけ、極低温にして電気抵抗を測定した結果、絶対零度で状態変化を起こす「量子臨界点」が二つ存在することを見つけた。
 具体的には約3.8倍の13.5テスラの高磁場まで、絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることが分かった。
 これまでは一つ目の量子臨界点の磁場(今回の実験では3.6テスラ)によって完全に超電導状態が破壊されると考えられていた。
 成果は英科学誌ネイチャー・フィジックス電子版に掲載された。

Tokyo Institute of Technology
PRESS RELEASE
2014年 5月20日


   http://www.titech.ac.jp/english/news/


Insights into the stages of high-temperature superconductivity

 Researchers at Tokyo Institute of Technology uncover the complexities of quantum phase fluctuations during the superconductor-insulator transition in high-temperature superconductors.
 The superconductor-insulator transition (SIT) in high-temperature copper-oxide ('cuprate') superconductors is commonly triggered by the application of a magnetic field. However, due to the complexities of superconductivity, many questions are still to be answered about the exact process which underpins the SIT and the associated quantum phases the material undergoes.
 Scientists had thought that high-temperature superconductors had a single quantum critical point at which the material switches from a superconductor to an insulator when a particular strength of magnetic field was applied. Now, an international team of researchers from the USA and Japan, including Takao Sasagawa at Tokyo Institute of Technology, have uncovered a two-stage transition in lanthanum-strontium-copper-oxide high-temperature superconductors (LSCOs), leading to the first complex phase diagram of the behavior of LSCOs.
 "The delicate interplay of thermal fluctuations, quantum fluctuations and disorder leads to a complex H-T [magnetic field-temperature] phase diagram of vortex matter," the authors state in their paper published in Nature Physics.
 The researchers measured electrical resistivity of the material in magnetic fields up to 18 T at various temperatures down to 0.09 K, revealing the complete picture of the SIT. They deliberately used a variety of LSCOs that had been created using different techniques, so as to separate out the effects of sample preparation from more general superconductive behavior.
 Sasagawa's team discovered that the LSCOs showed a two-stage magnetic-field-induced transition at T = 0 K before they become insulators. Firstly, the material forms a superconducting vortex lattice state known as ‘Bragg glass’. In this phase, the material shows zero resistivity at finite temperature. After a first critical point is reached it passes into a disordered superconducting phase, or ‘Vortex glass’, wherein the arrangement of vortices becomes amorphous. In this phase, zero resistivity is only realized at absolute zero. After a second critical point is reached, superconductivity is lost and the LSCOs become insulating.
 The researchers conclude; "Our results provide important insight into the interplay of vortex line physics and quantum criticality in high-temperature superconductors, bridging the gap between their behavior in the high-T 'classical' region and the less-explored low-T 'quantum' region"

東京工業大学
プレスリリース
2014年 5月14日


   http://www.titech.ac.jp/news/


磁場中の高温超伝導現象、全貌を解明
−メカニズムや応用への重要な指針−

 米フロリダ州立大学Popovic教授との共同研究により、これまで謎とされてきた、高温超伝導体において磁場が起こす状態変化について、絶対零度まで包括する全体像を明らかにしました。
 磁場を強めていくと電気抵抗ゼロの超伝導状態になる温度は低下していきます。これまでは、超伝導になる温度が絶対零度まで低下する磁場が唯一の量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)で、それ以上の磁場中には超伝導状態は存在しないと考えられていました。ところが、約4倍の高磁場まで、絶対零度でのみ超伝導状態になる領域が広く存在していることを実験で突き止めました。この予想を覆す今回の発見により、高温超伝導メカニズムの理解に弾みがつくとともに、応用に関しても重要な指針が得られるものと期待されます。
 この成果は、英国の科学誌「Nature Physics(ネイチャー・フィジックス)」オンライン先行版(現地時間5月4日発行)に掲載されました。
[論文情報] "Two-stage Magnetic-field-tuned Superconductor-insulator Transition in Underdoped La2-xSrxCuO4(不足ドープLa2-xSrxCuO4における磁場による2段階の超伝導−絶縁体転移)", X. Shi, P. V. Lin, T. Sasagawa, V. Dobrosavljevic, D. Popovic, Nature Physics, Published Online (4 Apr. 2014); doi:10.1038/nphys2961.

東工大ホームページ
2013年11月26日



   http://www.titech.ac.jp


東京工業大学 ホームページ

トップバーナーを飾る写真に研究室風景が採用されました。
東工大の5つの SPECIAL TOPICS の1つとして、
Tokyo Institute of Technology Bulletin への記事掲載が選ばれたためです。
約1か月間掲載されます。
Tokyo Institute of Technology
Bulletin No.32
(Topics)
2013年11月発行


   http://www.titech.ac.jp/english/

Topological insulators: Breaking symmetry for faster computers

 A new compound developed at Tokyo Tech shows highly unusual conducting properties that could be used in future electronic components.
 Ordinary insulating solids, such as diamond, have energy bands that are fully occupied by electrons. The conducting band is so far away from the valence band in diamond that electrons do not have sufficient energy to move - the 'band gap' is large - therefore no electric current can be carried.
 In recent years, researchers have become interested in materials called topological insulators (TIs), which act as insulators on the inside, but are highly conductive on their surfaces. In TIs, an exceptionally strong spin-orbit interaction inverts the energy gap between occupied and empty states, so that electrons at the surface can flow across the gap. These properties are intrinsic to the material, meaning a TI remains conductive even if its surface is not perfect.
 Now, an international team of scientists from Japan, the UK and the USA, led by Takao Sasagawa at Tokyo Institute of Technology, have successfully developed a new TI from bismuth, tellurium and chlorine (BiTeCl). Their new TI is inversion asymmetric, meaning it has different electronic states, and therefore different polarities, on each crystal surface. As a result, it exhibits many topological effects that have not been seen experimentally before.
 "The metallic surface state of a TI is similar to graphene in that the electron mobility is remarkably high due to zero-mass electrons, or Dirac fermions," explains Sasagawa. "The Dirac fermions have a characteristic spin and in this context they can host a wide range of exotic quantum phenomena. Symmetry-breaking is the best way of inducing these fascinating topological effects."
 Sasagawa and his team optimised their laboratory growing conditions to produce single crystals of BiTeCl. They then split each single crystal to obtain two different surfaces - one Te and one Cl - and observed their electronic structures using spectroscopy. The composition of the TI's top and bottom crystal surfaces are such that their charge carriers are opposite, leading to polarization. The TI can therefore be used as a diode, allowing current flow in only one direction. It also exhibits pyroelectric capabilities, meaning that it can generate a temporary voltage when heated or cooled.
 BiTeCl shows promise as a platform for other topological phenomena, and may have applications at high temperatures. The discovery could also have significant implications for the development of quantum-based technologies in future, as Sasagawa explains: "We would like to discover a topological superconductor whose surface can host Majorana fermions - particles which are their own antiparticles, and could be used for the development of topological quantum computing."

日刊工業新聞(21面)
2013年10月16日




グラフェンを超える電子材発見
極性持つトポロジカル絶縁体

 東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授、英オックスフォード大学、米スタンフォード大学などの研究チームは、次世代電子材料として期待される「グラフェン」を超える性質をもつ新しい種類の素材を見つけた。同様の性質を持つ物質を電子デバイスなどに応用するには複雑な構造が必要だったが、今回の素材なら単純な構造でできる。超高速・低消費電力のCPUなどの用途が見込める
 新たに発見したのは、内部が絶縁体で表面だけ電子が高速で動き回る「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる物質。ビスマス、テルル、塩素が交互に積層した結晶構造をとる。結晶の上面と下面の物質が異なるため表と裏が存在し、そのため層の上面と下面の両端に電荷の偏りができ、磁石のNS極のような極性を持つ。極性を持つトポロジカル絶縁体を見つけたのは今回が初めて。
 従来のトポロジカル絶縁体は極性がないため、スピンの流れや磁場が上下の面で打ち消し合ってしまい、磁場をかけるための余分な装置が必要だった。そのためデバイス構造が複雑になってしまうという課題があった。
 成果は英科学誌ネイチャー・フィジックスに掲載された。
 この国際共同研究には、博士2年の加納学君が参画しました。

東京工業大学
プレスリリース
2013年10月10日


   http://www.titech.ac.jp/news/


グラフェンを超越する新電子機能物質を創製
−極性トポロジカル絶縁体を世界で初めて発見−

 Oxford 大学 Chen 准教授や Stanford 大学 Shen 教授のグループとの共同研究により、革新的電子デバイス向けの新物質「"極性"トポロジカル絶縁体」を世界で初めて発見しました。
 内部は絶縁体で表面だけがグラフェンに似た特殊な金属状態となるトポロジカル絶縁体と呼ばれる物質の新種で、これを用いることにより、従来材料では難しかった新原理の電子デバイスを、単純な構造で開発できるようになります。
 これは、博士2年の加納学君も参画した国際共同研究の成果であり、英国の科学誌「Nature Physics (ネイチャーフィジックス)」においてオンラインで先行出版(10月6日発行:日本時間10月7日)されました。
[論文情報] "Discovery of a Single Topological Dirac Fermion in a Strong Inversion Asymmetric Compound BiTeCl(反転の非対称性が強いBiTeCl化合物における単一でトポロジカルなディラックフェルミ粒子の発見)", Y. L. Chen, M. Kanou, Z. K. Liu, H. J. Zhang, J. A. Sobota, D. Leuenberger, S. K. Mo, B. Zhou, S.-L. Yang, P. S. Kirchmann, D. H. Lu, R. G. Moore, Z. Hussain, Z. X. Shen, X. L. Qi, and T. Sasagawa, Nature Physics, Published Online (6 Oct. 2013); doi:10.1038/nphys2768.
応用セラミックス研究所
ニュースレター(No.30 p.6)
2013年 5月10日



応セラ研・所長賞:研究業績部門
新しい固体電子状態をもつ物質の開拓

 エレクトロニクスの革新的(不連続)な進化には、従来とは本質的に異なる電子状態をもつ 物質の登場が不可欠です。現在の半導体エレクトロニクスには、あまり個性のない (弱相関で気体的な)フェルミ粒子としての電子が利用されています。 実用化に至っている全く違う技術は超伝導エレクトロニクスで、対になって ボーズ粒子として振る舞う電子が機能の担い手です。電子の内部自由度であるスピンの運動や、 複雑で強い相互作用で液晶的になった電子集団状態が次世代に向けて注目され、 スピンエレクトロニクスや強相関エレクトロニクスへの発展が期待されています。これまでに私も、 高温超伝導体、ハーフメタル、電荷・スピン秩序物質などの研究に携わってきました。
 では、更に新奇な電子状態はないでしょうか? 近年、私が特に注目しているのは、電子状態への相対論効果や位相幾何学効果です。 極性をもつ結晶と強い相対論効果の組合せは、結晶全体にヘリカルスピン偏極する 3次元ラシュバ物質や、磁場に強い非従来なパリティ混合超伝導体などを出現させます。 これらはまだ従来の延長線上だと言われるかもしれませんが、スピン偏極し質量もなくなった ディラック電子状態をもつトポロジカル絶縁体ではどうでしょうか。 更に、ディラック電子の質量を復活させた磁性トポロジカル絶縁体ではアクシオン、 トポロジカル超伝導体ではマヨラナと呼ばれる素粒子が出現し、新奇な電気磁気相関を 利用したデバイスや、外乱に強い新原理の量子計算が実現できると言われています。
 勝手に命名中の“強相対論”あるいは“トポロジカル”エレクトロニクスの未来について 妄想を膨らませながら、これらの新奇電子状態をもつ物質探索・単結晶化・電子状態検証に 挑戦しているところです。

IPO Sicence
J. Phys.: Condens. Matter.
Lab Talk

2013年 3月18日


   http://iopscience.iop.org/

IOP (Institute of Physics Publishing; 英国物理学会出版局) 発行の学術論文誌 Journal of Physics: Condensed Matter の Web サイトで、同誌の中から選んだ注目論文を紹介・解説する News 記事 (Lab Talk 欄) に、博士課程・加納学君の主著論文が取り上げられました。
※該当する論文は、全てのIOP発行論文誌の中から注目論文を選出する IOPselect にも選ばれ、12か月間オープンアクセスになりました。

Rashba crystals from metallic to insulating states

Well-prepared BiTeI provides a playground for studying spin-involved novel phenomena (unconventional superconductivity, spin Hall effects, topological insulating states).
Spin-orbit coupling (SOC) in solid-state materials is at the heart of next-generation spintronics technology. Here electronic spins are manipulated not by magnetic but by electric fields. Even without 'external' electric fields, broken space inversion symmetry together with strong SOC can induce spontaneous spin polarization. A two-dimensional spin-momentum locked electronic state on the surface of heavy metals is a familiar example and known as the Rashba effect. The 3D extension of the Rashba effect will be possible in a polar crystal consisting of heavy elements, and a promising candidate material is a noncentrosymmetric layered compound of BiTeI. In J. Phys.: Condens. Matter 25 135801, we report progress in both the preparation of BiTeI crystals and the understanding of their electronic structures.
(read the complete story:
http://iopscience.iop.org/0953-8984/labtalk-article/52708)

[論文情報] "Crystal Growth and Electronic Properties of a 3D Rashba Material, BiTeI, with Adjusted Carrier Concentrations (3次元ラシュバ物質 BiTeI のキャリア濃度制御した単結晶育成と電子物性)", M. Kanou and T. Sasagawa, J. Phys.: Condens. Matter 25, 135801 (2013).

日経サイエンス
2012年10月号(p.22)
第42巻第10号 通巻496号




NEWS SCAN
国内ウォッチ:研究開発

 当研究室の研究成果が、日本経済新聞社の実施した「技術トレンド調査」において総合評価の第3位を獲得し、7月31日の日経産業新聞で報道されました。今回、より詳しい評価内容が日経サイエンス誌の記事になりました。
 「技術トレンド調査」では、大学や企業など国内の研究機関が2012年3月〜5月に公表した主な技術開発成果を、日本経済新聞社が組織した外部の専門家と科学技術移転プランナーが評価しました。5項目について、評価の高い順に3、2、1点と採点して平均点を算出し、各平均点を合計して順位を決めています。
 3位に入った我々の研究成果は、エックス線自由電子レーザーを使い、物質の中で電子が集団運動する様子をリアルタイムで観測した研究です。
 基礎研究のため、実用性と市場性は1.75点と1.25点と低評価ですが、一方で話題性は2.00点、新規性と学術性は共に2.75点の高評価となりました。
日経産業新聞(11面)
2012年 9月 7日



次世代電子素子向け化合物
ビスマスを削減

 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、次世代の電子素子として期待されているビスマス系化合物の低コスト化技術を開発した。ビスマスの含有量を減らし、豊富にあるゲルマニウムの量を増やした。
(以下、省略)

[解説]
 表面だけ電子が動き回る特殊な絶縁体「トポロジカル絶縁体」は、グラフェンを凌駕する電子機能をもつことから、次世代電子素子への利用が期待されています。この電子状態の発現には相対論効果が必須なため、周期表の後半に位置する重元素が欠かせませんが、一般に元素番号が大きい重元素になるほど希少性が高くなります。
 代表的なトポロジカル絶縁体には、元素番号が83のビスマス(Bi)が主要成分として含まれています。Biは、非鉛の圧電材料用や室温付近の高効率熱電変換材料、そして銅酸化物高温超伝導材料の主成分として、その需要が今後増大してゆくことが見込まれています。しかしBiは、地殻に 0.01-0.05 ppm ほどしか存在せず、可採年数も30〜80年と見積られている希少元素です。それに加えて、生産国や埋蔵資源国が偏在しており、主要資源国の寡占化も進んでいるレアメタルであるため、タングステン、パラジウム、プラチナとともに日本で進めている元素戦略の対象になっている元素です。
 今回、機能を司る元素と結晶構造との相関を解明し、ナノレベルでの物質設計を行うことにより、元素番号が32のゲルマニウム(Ge)を利用して、元素番号が83のBiの割合を60%減らしたトポロジカル絶縁体の実現に成功しました。基本となるビスマス・テルルの層状ブロック構造に、ゲルマニウム・テルルのブロック層を挿入することで、新たな周期的結晶構造を持つ化合物群(ホモロガス相)が出来ることに注目し、これら物質群を単結晶として合成しました。そして合成できた化合物について、理論計算で電子構造を明らかにしました。 Biを33%減らしてもトポロジカル絶縁体状態は維持され、また60%減らしても圧力を加えることで、トポロジカル絶縁体になることを確認しました。
 まだ黎明期のトポロジカル絶縁体研究において、数年先をリードする元素戦略の方向性を示すことができたことは重要な意義をもつと考えています。もう一つの主要成分であるテルルやセレンも希少元素であることから、これらへの元素戦略も進めているところです。

 これらは、浅川瑞生君が修士論文で取り組んでいる研究の成果です。
日経産業新聞(9面)
2012年 7月31日



技術トレンド調査
基礎研究で成果目立つ

 英国科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」で5月16日に発表した研究成果(5月18日:東京工業大学プレスリリース、5月23日:日経産業新聞記事掲載)が、日本経済新聞社の実施した「技術トレンド調査」において総合評価の第3位を獲得しました。
 日本経済新聞社は主な技術開発成果を評価する「技術トレンド調査」 (対象期間2012年3月〜5月)をまとめた。 エレクトロニクスと医療・バイオの分野が上位に並び、特に基礎研究の成果が目立った。
(中略)
 3位に入った東京工業大学と米スタンフォード大学などの成果は、エックス線自由電子レーザーを使い、 物質の中で電子が集団運動する様子をリアルタイムで撮影した研究だ。
 強相関電子系物質のランタン・ストロンチウム・ニッケルの酸化物に光パルスを当てて 電子の秩序状態を乱し、元に戻る様子を数兆分の1秒刻みで観測。 その過程を詳細に明らかにした。 「新材料開発の点で有効」(科学技術振興機構の技術移転プランナー)とみられている。
(中略)
 今回の調査は、先端的な基礎研究から活発な応用開発まで日本の科学技術の力強さを 感じさせる結果となった。

日経産業新聞(7面)
2012年 5月23日




物質の電子、動き撮影
X線自由電子レーザーで

 東京工業大学の笹川崇男准教授ら国際共同研究チームは、物質の中で電子が 集団運動する様子をリアルタイムで撮影した。 共同研究する米スタンフォード大学のエックス線自由電子レーザーを使った。 電子の振幅と位相の時間がずれる現象を見つけた。 自由電子レーザーは主に生命科学の研究で注目されるが、材料の研究にも役立ちそうだ。
 日米のほか、スイスとドイツの研究機関も参加した。成果は英科学誌 ネイチャー・コミュニケーションズに掲載した。
 通常は絶縁体で光が当たった時に金属に変わるランタン・ストロンチウム・ニッケル酸化物で 実験した
 この物質に赤色のパルスレーザー光を50フェムト(フェムトは1千兆分の1)秒当てて、 電子の振る舞いを乱す。次に70フェムト秒のX線のパルスレーザー光をストロボとして当てながら 乱れの回復を観察した。
 電子の波には振幅、位相、周期がある。光を当てると周期は変わらないが振幅と位相が変化した。 元に戻る時間は振幅の数ピコ(ピコは1兆分の1)秒に対して位相は数十ピコ秒かかった。
 X線自由電子レーザーは日本でも「SACRA」の名称で兵庫県佐用町に完成している。 3月から基礎研究への利用が始まった。
東京工業大学
プレスリリース
2012年 5月18日


   http://www.titech.ac.jp/pr/news/

「電子の集団運動」をリアルタイム観測
− 夢の光(X線自由電子レーザー)を用いた材料研究の新展開 −

 Stanford 大学 Shen 教授のグループとの共同研究により、強相関電子系物質における高温超伝導や巨大磁気抵抗などの発現メカニズムのカギを握る「電子の集団運動」を、X線自由電子レーザーを用いてリアルタイム観測することに成功しました。 近年、秩序状態にある電子を光パルスなどで励起し、過渡的に集団運動する新しい電子状態を創造して電子機能につなげようという研究が盛んになっており、今回の観測結果はそうした研究も大きく前進させると期待されます
 X線自由電子レーザーはナノの世界における超高速現象をストロボ撮影できる“夢の光”。今回はこれを固体材料研究に用いた新しい試みとしても注目されます。ナノレベルで超高速の極限現象を観測できることが実証され、今春から運用が始まった理化学研究所のSACRA施設(兵庫県佐用町)におけるX線自由電子レーザーの利用促進にも大きな刺激を与える結果といえます。
 この成果は5月15日発行の英国の科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載されました。
[論文情報] "Phase Fluctuations and the Absence of Topological Defects in Photo-excited Charge Ordered Nickelate (光励起した電荷秩序をもつニッケル酸化物における位相欠陥のない相ゆらぎ)", W.S. Lee, Y.D. Chuang, R.G. Moore, Y. Zhu, L. Patthey, M. Trigo, D.H. Lu, P.S. Kirchmann, O. Krupin, M. Yi, M. Langner, N. Huse, J.S. Robinson, Y. Chen, S.Y. Zhou, G. Coslovich, B. Huber, D.A. Reis, R.A. Kaindl, R.W. Schoenlein, D. Doering, P. Denes, W.F. Schlotter, J.J. Turner, S.L. Johnson, M. Forst, T. Sasagawa, Y.F. Kung, A.P. Sorini, A.F. Kemper, B. Moritz, T.P. Devereaux, D.-H. Lee, Z.X. Shen, Z. Hussain, Nature Communications 3, 839 (2012).
応用セラミックス研究所
ニュースレター(No.28 p.4)
2012年 4月20日



グラフェンを凌ぐ電子機能をもつトポロジカル絶縁体

 外因的な効果(例えば酸化、吸着、歪)によって、表面にバルク(中身)と異なった電子状態や 物性が現れることは珍しくありません。 一方で最近、物質固有の内因的な効果によって特殊な表面電子状態が必ず現れる、 という驚くべき物質が発見されて研究競争が激化しています。電子波動関数の集合がもつ 偶奇性による絶縁体物質の分類によって発見されたという経緯から、 これらの新物質群は「トポロジカル絶縁体」と呼ばれています。
 絶縁体のバルク表面に、今話題のグラフェンと同様な「質量ゼロの2次元電子 (ディラック電子)状態」をもつことが、その特徴の一つです。 加えて、グラフェンがマネできない性質として、単層原子シートである必要がない、 電子スピンも方向を揃えて伝導する、伝導状態が不純物で乱されない、 磁性や超伝導との相互作用で新たな量子状態が出現する、などの特筆すべき点が多々あります。 我々は、理化学研究所(花栗哲郎主任研究員)や東北大学(佐々木孝彦教授)、 スタンフォード大学(Zhi-xun Shen 教授)などとの共同研究により、 トポロジカル絶縁体がもつ種々の特異な電子状態について実験検証を進めています [Science 329, 659 (2010), Phys. Rev. B 82, 081305(R) (2010)]。
セラミックス Vol.47
トピックス(p.298)
2012年 4月 1日



ダイヤ分子の結晶から蛍光

 ダイヤモンドを小さくしていくと、その特徴を保てる最小の構造として C10 のカゴ型クラスターにたどり着く。 炭素の余った結合に水素がついた C10H16は、 アダマンタンとして知られる高対称分子である。 同様に、2番目に小さなダイヤモンドはカゴ構造を2つ持つ C14、 3番目はC18であり、これらカゴ型炭素骨格から構成される一連の化合物を 「ダイヤモンドイド」や「ダイヤ分子」と呼ぶ。 合成の困難なブロック数の多いダイヤ分子も、極微量含まれている石油中から 単離精製できるようになり、炭素系ナノテク新素材としての注目が集まりつつある。 全てのダイヤ分子は室温で固体である。これに着目し、孤立分子系としてではなく、 凝集結晶系としてのダイヤ分子の電子機能開拓に取り組んでいるのが 東工大・スタンフォード大・シェブロン社の日米共同研究チームである。
 研究チームは最近、ダイヤ分子の高純度な精製と大型な単結晶育成とを 同時にできる手法を確立した[Crystal Growth and Design 10, 870 (2010)]。 また、実験に先立った理論計算から、ダイヤ分子の結晶が、光の吸放出に適した 直接遷移型のバンドギャップをもつ電子構造になることも明らかにしている [J. Appl. Phys. 104, 073704 (2008)]。 今回,作製した純良大型単結晶を用いて光学特性を評価したところ、230 nm よりも 短い波長領域の光をわずかに吸収して、300 nm 付近で紫外発光(蛍光)することが分かった [J. Appl. Phys. 110, 093512 (2011)]。
 フォトルミネッセンスが確認されたことで、その延長線上にある LED などの エレクトロルミネッセンスの実現に向けた研究にも弾みのつくことが期待される。 ダイヤ分子は、無機 EL 材料と異なって高温での成膜プロセスを必要としないので、 プラスティックなどのフレキシブルな基板上へのデバイス実現の可能性がある。 また、既存の有機 EL 材料と異なって反応性の高い炭素2重結合などを含まないため、 湿気や酸素で劣化する心配がない。 つまり、ダイヤ分子を発光層に用いることで、無機材料と有機材料の両方の欠点を 克服したフレキシブルで高寿命の発光素子を作れる可能性があるといえる。

 この国際共同研究には、修士2年の岩佐昭夫君が参画しました。
日経産業新聞(10面)
2011年12月 6日



ダイヤ分子の発光

 石油から抽出できる炭素系ナノテク新素材である「ダイヤ分子」について、 私たちは最近、高度に精製しつつ大型で純良な単結晶に育成する手法を確立しました。 また、実験に先立った理論計算から、ダイヤ分子が形成する結晶では、 光を吸収したり放出したりするのに適した直接遷移型のバンドギャップをもつ 電子構造になることも明らかにしています。 そこで、作製した純良大型単結晶を用いて、光学特性の評価を行いました。
 今回、ダイヤ分子の単結晶において、波長が 230 nm 以下の光をわずかに吸収し、 これによる電子励起によって、吸収波長よりも長い波長 (〜300 nm) の紫外領域で 発光(蛍光)することを見出しました。フォトルミネッセンスが確認できたことにより、 その延長線上にある LED などのエレクトロルミネッセンスの実現に向けた研究にも 弾みがつきそうです。
 ダイヤ分子は、無機 EL 材料と異なって高温での成膜プロセスを必要としないので、 プラスティックなどのフレキシブルな基板上にもデバイス作製ができそうです。 また、既存の有機 EL 材料と異なって反応性の高い炭素2重結合などを含まないため、 湿気や酸素で劣化する心配がありません。 つまり、ダイヤ分子を発光層に用いると、無機材料と有機材料の両方の欠点を克服した フレキシブルで高寿命の発光素子を作れる可能性があります。
 以上は、米スタンフォード大および米シェブロン社との国際共同研究の成果であり、 米国応用物理の専門誌「ジャーナル・オブ・アップライド・フィジックス」に掲載されました。
[論文情報] "Photoluminescence of Diamondoid Crystals(ダイヤ分子結晶の蛍光)"  W. A. Clay, T. Sasagawa, A. Iwasa, Z. Liu, J. E. Dahl, R. M. K. Carlson, M. Kelly, N. Melosh, and Z.-X. Shen, J. Appl. Phys. 110, 093512 (2011).
日経産業新聞(9面)
2011年11月29日


日経産業新聞の先端技術欄において、2日に渡って応用セラミックス研究所が取り上げられました。 初日の記事中で、研究室の研究内容が紹介されるとともに、研究風景の写真も掲載されました。
先端技術 フロンティア・知恵を絞る
東京工業大学 応用セラミックス研究所(上)

絶縁体・強誘電体究める

 横浜市に酸化物などセラミックの先進的な研究開発で世界から注目される拠点、東京工業大学応用セラミックス研究所がある。
(中略)
 「大学時代から15年間も酸化物の高温超電導一筋だったが、ここに来てテーマを『超電子機能』に変え、研究対象を広げた」と着任5年目の若手准教授、笹川崇男はこう話す。金属を冷却すると電気抵抗が徐々に下がり、ある温度で急にゼロになるのが超電導。このように通常状態とは異なる電子の動きを超電子機能と名付け、超電導以外でも探索を始めた。
 昨年から特に注目しているのは、物質の大半は電子が全く動かない絶縁体で、表面だけシリコン内より10倍速く動く「トポロジカル絶縁体」。5年ほど前に絶縁体の研究で偶然見つかった。物理学や電子科学という領域でこの物質はホットな話題になっている。
 笹川らは、昨年、米スタンフォード大学と共同で、それまで難しかったセレンとビスマスの化合物であるトポロジカル絶縁体の大型で良質の単結晶を作ることにいち早く成功した。単結晶がなければ物質の正確な特性を測れないうえ、電子素子にも応用できなかった。
 単結晶が合成できたことで、国内外でトポロジカル絶縁体の研究が増えている。笹川の強みは海外の共同研究相手の多さだ。スタンフォード大学で延べ3年の研究経験から国際的な感覚をつかんだ。現在は欧米アジアを合わせて20の大学や研究機関と超電子機能の共同研究を進めている
(後略)

2日目掲載記事より [記者の目] 世界的な研究者・地道な研究守る(黒川卓)
 テレビや携帯電話など華々しく見える最終製品と違いセラミックスなどの材料は極めて地味だ。 しかし製品の性能を左右する重要な役割を担う。 東工大の応セラ研には材料分野で国内外から注目されるスター研究者が勢ぞろいし、周りの見方など気にせず黙々と研究に取り組んでいる。
 日本の材料研究は歴史が長く層が厚い。 今のところ世界で優位に立っているが、今後おろそかにすれば資源もない日本の未来は暗い。 材料研究は10年や20年では成果が出ない地味な作業。 いかに守り育てるかが将来のために重要な課題になる。

SciTech PAP
(Lab Profiles)
April, 2011



http://www.scitechpap.com


アジア・太平洋地域の大学・研究施設・研究室の研究成果や取組みを世界に紹介する Web サイト「SciTech Profiles Asia Pacific (SciTechPAP)」の Lab Profiles において、研究室が紹介されました。
Sasagawa Lab

Scope/Areas of the Research
Our goal is to understand, to utilize, and to create "super-functions" in innovative materials. Materials and phenomena of our interest include high-temperature superconductors, halfmetals, thermoelectrics, multiferroics, topological insulators, diamond molecules, and so on.
Message
Our expertise extends to full aspects of materials science as follows, and we are promoting win-win collaborations (join us!). (1) Syntheses: samples with precisely controlled compositions, large high-quality single crystals, (2) Measurements: bulk-property evaluations under extreme conditions (low temperature, high magnetic field, high pressure), quantum-state observations (electronic structures by ARPES and STM/STS, phonons by IXS), (3) Theoretical analyses/predictions: quantum simulations based on first principles calculations.


Science 日本版特別号
2011年 4月


   

Science 日本版特別号「サイエンス誌に載った日本人研究者 (Japanese Scientists in Science 2010)」で、研究内容と研究室が紹介されました。



東京工業大学 応用セラミックス研究所
笹川崇男研究室



 物質のもつ“超”電子機能を追求しています。金属としては、抵抗がゼロになる超伝導や、電流中のスピンを揃える機能をもつハーフメタルなど。絶縁体では、強誘電と強磁性を兼ね備えたマルチフェロイック物質や、紫外発光するかもしれないダイヤ分子などが対象です。そして、金属・絶縁体などの既存の枠に入りきらないものとして、新奇量子相であるトポロジカル絶縁体の研究を精力的に推進中です。
Tokyo Tech International Vol.14
(Topics)
2010年 Autumun


   http://www.titech.ac.jp/newsletter/e/index.html

Topological insulators: Keeping constant

 Experiments by research teams including Tokyo Tech scientists have confirmed a special state of matter that exhibits precise quantization.
 Many branches of science depend on the notion that some quantities, for example the mass and charge of fundamental particles, remain exactly the same under all possible conditions. In solid state physics, however, such constant quantities are more elusive because the theories describe very complex systems of interacting particles.
 Even so, there are a few well-known cases in which large numbers of particles act in a way that causes some precise behaviour on the macroscopic scale of the system. For example the magnetic flux within superconductors is measured in precise blocks - or quanta - of hc/2e, where h is Planck's constant, c is the speed of light, and e is the charge of an electron.
 Now, Takao Sasagawa and Kyushiro Igarashi from the Materials and Structures Laboratory at Tokyo Institute of Technology have worked in collaboration with scientists at Stanford University in the US and researchers at RIKEN in Japan to verify another precise system called a topological insulator [1,2].
(download the complete story: TokyoTechInter14_p4.pdf)

Reference:
[1] “Massive Dirac Fermion on the Surface of Magnetically Doped Topological Insulator” Y.L. Chen, K. Igarashi*, T. Sasagawa*, Z.-X. Shen et al., Science 329, 659-662 (2010). [2] “Momentum-Resolved Landau-Level Spectroscopy of Dirac Surface State in Bi2Se3” T. Hanaguri, K. Igarashi*, T. Sasagawa* et al., Phys. Rev. B 82, 081305(R)/1-4 (2010).
* Materials and Structures Laboratory & Dept. of Innovative and Engineered Materials

The Nikkei Weekly(20面)
2011年 1月17日




Technology
New materials rival graphene as contenders
for post-silicon throne


 Silicon's days as the go-to raw material for semiconductor makers could be numbered. Never, more conductive materials have already been developed, and scientists around the world are now busy trying to take them out of the lab and into the factory.

[解説]
この記事は、2010年12月3日に日経産業新聞(10面)に掲載された記事の内容を膨らませて、英文で紹介しています。
日経産業新聞(10面)
2010年12月 3日



テクノトレンド
電子材「グラフェン」に対抗馬
実用化へ課題解決急ぐ

 現在主流の半導体材料であるシリコンの性能を上回る電子素子用の新素材が登場している。 国内の研究者が開発を手がける超電導物質や酸化物などで、今年のノーベル物理学賞の対象となった炭素シート材料「グラフェン」の対抗馬として急浮上している。 シリコンの次の世代を担う「ポストシリコン」として実用に向けた競争が激しくなっている。
 11月初めに茨城県つくば市で開いた国際超電導シンポジウムISSの会場。 「我々のポスターの前で大学院生[注:五十嵐九四郎君]が次々訪れる国内外の研究者への説明に追われていた」と 東京工業大学の笹川崇男准教授は言う。 発表したのは、新しい超電導物質のビスマス・セレン化合物。 今年2月に米国プリンストン大学のロバート・キャバ教授らが銅を添加して極低温で超電導現象を確認したと論文発表した。 しかし誰も追試に成功していなかった。
 この物質はビスマスとセレンの原子で構成するシートが積み重なった構造。 笹川准教授らは銅を添加した時の結晶構造の変化と電子特性の関係を徹底的に調べ、超電導を示すのはシートとシートの間に銅が挟まり、シート内のセレンの一部が欠損している時だと突き止めた。
 超電導の確認と併せて、この化合物の表面にはシリコン内部より約10倍の速さで電子が動くことが日米で確認されている。 電子の動きが速いほど性能の高い半導体材料になり、この速さはグラフェンに迫る。 「我々はすでに大型単結晶を作る技術を開発済み。電子素子への応用ではグラフェンより有利」(笹川准教授)と自信を示す。

(中略:グラフェン、酸化亜鉛、カーボンナノチューブの話題)

 いくつもの新材料が登場しているが、最大の課題は実用化だ。 実験室レベルでは従来より特性が優れていても、産業に結びつかなければ研究で終わる。 シリコンは一大産業を築き、生産システムは確立している。 シーズで終わらせない本気の産学連携研究が必要になる。(記者:黒川卓)
日本経済新聞(11面)
2010年11月 8日



新種の絶縁体
超電導を確認

 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、新種の絶縁体が超電導物質の性質をもつことを確認したと発表した。 同物質は今年2月に米プリンストン大学が超電導を確認したと発表して注目されたが、追試に成功した例はなかった。 超電導になる結晶の骨格も原子レベルで明らかにした。
(以下、省略)

[解説]
 最近このページに良く登場する「トポロジカル絶縁体」のBi2Se3 ですが、 この物質に Cu をドープすると、Tc = 3.8 K の超伝導になることが プリンストン大の Cava 教授らによって報告されて注目を集めていました。 しかし、これまでに同グループ以外で超伝導を確認したという報告はありませんでした。 我々は、超伝導の追試に成功するとともに、超伝導を示す試料を再現性良く作製するための条件を突き止めました。
 トポロジカル絶縁体は、物質の中身は絶縁体で、表面だけに特殊な状態の電子 (スピン偏極したディラック・フェルミ粒子)が高速に動きまわっている新しい種類の絶縁体です。 そのため、この物質における超伝導は、従来の超伝導とは異なることが予想されています。 今回、超伝導試料を良質単結晶として合成できるようになったことから、 この物質の超伝導状態の解明に拍車がかかることが期待されます。
 また、今回の超伝導体はトポロジカル絶縁体が母物質であることから、 トポロジカル絶縁体との接合構造を実現することが容易であると考えられます。 超伝導体とトポロジカル絶縁体の接合では、 マヨラーナ・フェルミ粒子という理論予測されてはいるが未発見の素粒子の出現や、 量子コンピューティングを実現させる新しい量子現象の発現などが期待されているため、 これら分野の研究も大きく進展する可能性がでてきました。
 これらの成果は、最近つくばで行われた国際超伝導シンポジウムにおいて、 修士2年・五十嵐九四郎君が発表したものです。
日経産業新聞(5面)
2010年10月11日



次世代素子向け新素材
電子移動、シリコンの10倍 - グラフェンより加工容易

 東京工業大学の笹川崇男准教授らは、従来の半導体よりも高速・低消費電力で動く 次世代電子素子向けの新素材を開発した。 データの運び手となる電子や電子の穴(ホール)が現在主流のシリコンよりも10倍の速さで動く。 ノーベル物理学賞で話題の炭素シート材料「グラフェン」よりも製造や加工が簡単。 新たに磁気の性質を備えている点も産業利用で優位という。 究極の省エネ半導体が視野に入る。
(以下、省略)

[解説]
 最近発見された「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる新しい電子状態をもつ物質では、 固体内部は電流を流すことができないにも関わらず、固体表面では電子が動き回っています。 しかも、光と同じように、この動き回る電子からは質量がなくなることが分かっています。 「ディラック・フェルミ粒子」と呼ばれる、質量がなくなって高速に移動できる このような電子の振る舞いは、2010年度のノーベル物理学賞の受賞対象となった、 グラフェン(単層グラファイト・シート)の中の電子が持っている性質と同じで、 省電力で超高速なコンピュータへの応用が期待されています。
 今回、ビスマスとセレンの化合物を精密に組成制御することで、 トポロジカル絶縁体の純良大型単結晶の開発に成功しました。 新聞に写真で紹介された単結晶は、修士2年・五十嵐九四郎君の自信作です。
 グラフェンは、黒鉛から粘着テープで剥がす方法で取りだされて、 ノーベル物理学賞の受賞者により性質が調べられました。 単層で大型の試料を作ることは大変困難なのですが、 炭素原子がきれいな1層に並んでいないと、「ディラック・フェルミ粒子」の 優れた性質が失われてしまうことも分かっています。 一方で、今回のトポロジカル絶縁体は、凸凹や不純物があっても表面があれば 「ディラック・フェルミ粒子」の優れた性質が現れます。 トポロジカル絶縁体も粘着テープで層状のシートに剥がすことができますが、 単層にする必要はまったくありません。 更に、トポロジカル絶縁体表面の電子は、スピンの方向も揃えながら運動していて、 その状態が乱れにくいことも分かっていることから、 電子の電荷だけでなくスピンも情報処理に利用しようとする 次世代のスピントロニクス技術用の材料としても大きな可能性をもっています。
Tokyo Tech Bulletin No.18
(Topics)
2010年10月


   http://www.titech.ac.jp/bulletin/

Topological insulators: Keeping constant
 Experiments by research teams including Tokyo Tech scientists have confirmed a special state of matter that exhibits precise quantization

 Many branches of science depend on the notion that some quantities, for example the mass and charge of fundamental particles, remain exactly the same under all possible conditions. In solid state physics, however, such constant quantities are more elusive because the theories describe very complex systems of interacting particles.
 Even so, there are a few well-known cases in which large numbers of particles act in a way that causes some precise behaviour on the macroscopic scale of the system. For example the magnetic flux within superconductors is measured in precise blocks - or quanta - of hc/2e, where h is Planck's constant, c is the speed of light, and e is the charge of an electron.
 Now, Takao Sasagawa and Kyushiro Igarashi from the Materials and Structures Laboratory at Tokyo Institute of Technology have worked in collaboration with scientists at Stanford University in the US and researchers at RIKEN in Japan to verify another precise system called a topological insulator [1,2].
(read the rest of the story at http://www.titech.ac.jp/bulletin/)

Reference:
[1] “Massive Dirac Fermion on the Surface of Magnetically Doped Topological Insulator” Y.L. Chen, K. Igarashi*, T. Sasagawa*, Z.-X. Shen et al., Science 329, 659-662 (2010). [2] “Momentum-Resolved Landau-Level Spectroscopy of Dirac Surface State in Bi2Se3” T. Hanaguri, K. Igarashi*, T. Sasagawa* et al., Phys. Rev. B 82, 081305(R)/1-4 (2010).
* Materials and Structures Laboratory & Dept. of Innovative and Engineered Materials

科学新聞(4面)
2010年 8月13日



新しい物質の状態を固体表面に創造
宇宙論や素粒子研究、卓上で実験が可能に

 東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授とスタンフォード大学などの共同研究チームは、金属や半導体、絶縁体など従来の物質の状態と全く異なる新しい物質の状態を固体表面に創造し、これを直接観察することに成功した。理論的に予測されていた、質量をもったディラック・フェルミ粒子を実現したことで、 ダークマター候補である未発見のアキシオン素粒子の研究や、この粒子の特性を活用した電子デバイスの研究にもつながるものと期待される。サイエンスに6日、掲載された。
(以下、省略)

[論文情報] "Massive Dirac Fermion on the Surface of Magnetically Doped Topological Insulator (磁性元素をドープしたトポロジカル絶縁体の表面における質量をもったディラック・フェルミ粒子)", Y. L. Chen, J.-H. Chu, J. G. Analytis, Z. K. Liu, K. Igarashi, H.-H. Kuo, X. L. Qi, S. K. Mo, R. G. Moore, D. H. Lu, M. Hashimoto, T. Sasagawa, S. C. Zhang, I. R. Fisher, Z. Hussain, and Z.-X. Shen, Science 329, 659 (2010).

Physics 3, 66 (2010)
(Viewpoints)
2010年 8月 9日


   http://physics.aps.org/

アメリカ物理学会発行の学術論文誌(Physical Review Letters, Physical Review, and Review of Modern Physics)の中から注目記事を紹介・解説するPhysics誌に、理化学研究所の花栗博士との共同研究の成果が取り上げられました。

Quantized topological surface states promise
a quantum Hall state in topological insulators


 The first experimental observation of Landau levels in the surface states of a three-dimensional topological insulator confirms the levels obey unconventional quantization rules.


[論文情報] "Momentum-Resolved Landau-Level Spectroscopy of Dirac Surface State in Bi2Se3 (Bi2Se3 におけるディラック表面状態の運動量空間分解したランダウ準位分光)", T. Hanaguri, K. Igarashi, M. Kawamura, H. Takagi, and T. Sasagawa, Phys. Rev. B 82, 081305(R) (2010).

Science 329, 639 (2010).
(Perspective)
2010年 8月 6日


   http://www.sciencemag.org/

サイエンス誌に掲載された論文の中から注目記事を紹介・解説する Perspective 欄で、スタンフォード大学 Shen 教授グループとの国際共同研究の成果が取り上げられました。

In Praise of Exact Quantization


Magnetic impurities in a topological insulator provide a route to control its electronic properties.

[論文情報] "Massive Dirac Fermion on the Surface of Magnetically Doped Topological Insulator (磁性元素をドープしたトポロジカル絶縁体の表面における質量をもったディラック・フェルミ粒子)", Y. L. Chen, J.-H. Chu, J. G. Analytis, Z. K. Liu, K. Igarashi, H.-H. Kuo, X. L. Qi, S. K. Mo, R. G. Moore, D. H. Lu, M. Hashimoto, T. Sasagawa, S. C. Zhang, I. R. Fisher, Z. Hussain, and Z.-X. Shen, Science 329, 659 (2010).
東京工業大学
プレスリリース
2010年 8月 6日


   http://www.titech.ac.jp/pr/news/

卓上で宇宙論の実験も可能に
− 素粒子研究・電子デバイス応用につながる新量子状態を実現 −

 Stanford 大学 Shen 教授のグループとの共同研究により、金属や半導体、絶縁体など従来の物質の状態と全く異なる新しい物質の状態を固体表面に創造し、これを直接観察することに成功しました。
 最近、表面を質量ゼロの粒子(ディラック・フェルミ粒子)が動き回っている「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる物質が発見されて話題になってなっています。今回、トポロジカル絶縁体に磁性をもつ元素を添加し、電荷キャリア量も精密に調整することにより、理論で存在が期待されていた「質量をもったディラック・フェルミ粒子」を実現しました。この量子力学的粒子の振る舞いは、宇宙論の暗黒物質(ダークマター)の候補である未発見のアキシオン素粒子と密接な関連があるため、宇宙論や素粒子論の研究を卓上で行える可能性がでてきました。更に、この新量子状態の電気磁気応答には、分数量子ホール効果や、磁気単極子(モノポール)の出現など、数々の驚異的な現象を観測できる可能性が指摘されており、これらを利用した新しい電子デバイスへと、応用研究にも貢献することが期待されます。
 以上は、修士2年の五十嵐九四郎君も参画した国際共同研究の成果であり、米国の科学誌「サイエンス」(8月6日発行)に掲載されました。
[論文情報] "Massive Dirac Fermion on the Surface of Magnetically Doped Topological Insulator (磁性元素をドープしたトポロジカル絶縁体の表面における質量をもったディラック・フェルミ粒子)", Y. L. Chen, J.-H. Chu, J. G. Analytis, Z. K. Liu, K. Igarashi, H.-H. Kuo, X. L. Qi, S. K. Mo, R. G. Moore, D. H. Lu, M. Hashimoto, T. Sasagawa, S. C. Zhang, I. R. Fisher, Z. Hussain, and Z.-X. Shen, Science 329, 659 (2010).
Tokyo Tech Bulletin No.16
(Recent Reserch)
2010年 5月


   http://www.titech.ac.jp/bulletin/

Diamond delights

 "Diamond molecules" is the name given to a unique family of hydrocarbon molecules which consist of diamond-like structures known as diamondoids. These structures have attracted a great deal of attention lately as a novel nanotech material, since they are now isolated in sufficient quantities from crude oil.
 Now, Takao Sasagawa of the Materials and Structures Laboratory at Tokyo Tech and co-workers have unveiled several noticeable properties of the diamond molecules which could prove useful for future applications.
 Firstly, the researchers calculated that crystals of the diamond molecules have a direct band-gap electronic structure, just like the light-emitting semiconductors widely used in electronic devices. Moreover, the size of the band gap can be tuned within ultraviolet wavelength. This behavior could have significant potential for optoelectronic applications [1].
 The researchers also managed to grow single diamond molecule crystals up to one cubic centimeter in size, using a home-made transparent furnace [2]. This process also proved to be an environmentally friendly means of refining the samples. The obtained high-purity single crystals will accelerate fundamental and applied research in this area.
 Finally, Sasagawa and co-workers used first principles calculations, followed by laboratory experiments, to show that the crystalline diamond molecules have dielectric constants less than half of that of bulk diamond [3]. Their results indicate that the diamond molecules are excellent candidates for low-permittivity materials to be used in the next generation of microelectronic devices.
Reference:
[1] “A route to tunable direct band-gap diamond devices: Electronic structures of nanodiamond crystals” T. Sasagawa* and Z.-X. Shen, J. Appl. Phys. 104, 073704 (2008). [DOI: 10.1063/1.2986637]
[2] “Environmentally friendly refining of diamond-molecules via the growth of large single crystals” A. Iwasa*, T. Sasagawa* et al., Crystal Growth and Design 10, 870 (2010). [DOI: 10.1021/cg901218t]
[3] “Diamondoids as low-k dielectric materials” W. A. Clay, T. Sasagawa* et al., Appl. Phys. Lett. 93, 172901 (2008). [DOI: 10.1063/1.3010379]
* Materials and Structures Laboratory & Dept. of Innovative and Engineered Materials
日経産業新聞(12面)
2009年12月 7日



大型単結晶育成による環境に優しいダイヤ分子の精製

 石油から抽出できるナノテク新素材「ダイヤ分子」には、 ダイヤモンドのもつ優れた性質に加えて、ナノのサイズ、特徴的な形状、 キラリティー(構造の右手・左手の関係)などから生ずる新たな機能が 期待されています。 例えば、電子放出素子に応用できる負の電子親和力や、 紫外領域の光検出・発光素子への応用に有利なギャップサイズが可変で 直接遷移型の電子バンド構造などが挙げられます。 しかしながら、入手可能なダイヤ分子試料は、特に光学的な応用などには 致命的な量の不純物を含んでおり、その精製にはエネルギー消費が多いことや、 環境負荷の大きな有機溶媒を大量に使うという問題がありました。 いうまでもなく、光学応用に欠かせない大型単結晶は入手できませんでした。 今回、これら問題点を全て解決できる手段を開発しました。
 着目したのは、ダイヤ分子のもつ昇華特性で、気相輸送法による 単結晶育成を行いました。単結晶が育つときに示す異質を排除する メカニズムにより、試料純度が飛躍的に向上することが確認できました。 加熱空間が観察できて温度分布も結晶成長に適切なものに 調整できる専用の電気炉を設計し製作することにより、 単一核で結晶を成長させることも可能になり、 一片の長さが1cmを超えるような単結晶の合成にも成功しています。 これにより、今後の光学応用に向けた研究への道が拓けました。
 以上は、研究室の岩佐昭生君が修士論文の課題として取り組んだ研究の成果であり、 米国化学会の専門誌「クリスタル・グロース・アンド・デザイン」(電子版速報)で、 2009年12月1日(米国時間)に公開されました。
[論文情報] "Environment-friendly Refining of Diamond-Molecules via the Growth of Large Single Crystals (大型単結晶育成による環境に優しいダイヤ分子の精製)", A. Iwasa, W.A. Clay, J.E. Dahl, R.M.K. Carlson, Z.-X. Shen, and T. Sasagawa, Crystal Growth and Design 10, 870 (2009).
セラミックス Vol.44
トピックス(p.941)
2009年12月 1日



高温超伝導体でもTcが低い原因

 高温超伝導体は、化学組成や結晶構造は多様で複雑に見えるものの、 共通して銅−酸素の2次元正方格子ネットワーク(CuO2面)を 持つ層状化合物であって、そのCuO2面において電荷キャリアが クーパー対を組むことによって超伝導が生じている点においては、 意外に単純な物質系とも言える。 単純でないのは、同じCuO2面の超伝導にもかかわらず、 超伝導転移温度Tcが物質に大きく依存している理由である。 これは、層状銅酸化物で「なぜTcは高いのか?」 「どうしたらTcを更に向上できるのか?」という、 高温超伝導メカニズムの核心に触れる問い掛けと表裏一体であり、 現在も完全には解明されていない。
 最近、東京工業大学とスタンフォード大学などの日米共同研究チームによって、 この謎に迫る有力な実験結果が相次いで報告された[Nature Physics 5, 718 (2009), Nature Physics 5, 119 (2009)]。 電子の運動方向と運動エネルギーの関係を直接観察できる“角度分解光電子分光法”と 呼ばれる最先端技術を駆使して、CuO2面の電子状態を詳しく調べることにより、 運動量空間において、(1) どの場所にクーパー対の密度が多いか、 (2) どの場所にいるクーパー対の結合力が強いか、の2点を明らかにした。
 クーパー対の結合力は、銅−酸素の結合方向と同じ方向に運動する電子間が最大で、 銅−酸素結合方向から角度を増すにつれて減少し、45度方向ではゼロになる。 一方で、クーパー対の密度は、45度〜15度の範囲ではクーパー対の結合力に 比例して増大するものの、15度〜0度の範囲では物質に大きく依存し、 Tcが低い物質においては大幅に減少していることがわかった。
 クーパー対の減少は、電荷キャリアが2つずつペアを組む状態よりも、 更に安定で別な秩序状態を形成することに原因があると考えられる。 これを効果的に阻止できれば最適なTcを実現できるはずであり、 その1つの試みとして、様々な方向から高温超伝導体に圧力をかける実験が進行中である。
日経産業新聞(11面)
2009年 9月 4日



高温超伝導体の電子構造の謎に迫る。
− 超伝導メカニズム解明にまた一歩前進 −

 Stanford 大学 Shen 教授のグループとの共同研究により、銅酸化物高温超伝導体において、 運動量空間の、どの場所にいる電子が高温超伝導に寄与しているのかを詳細に解明しました。
 超伝導は、電子が2つで一組の運動状態(クーパー対)になることで実現します。
 そこで、運動量空間において、
  1. どの場所にクーパー対の密度が多いか?
  2. どの場所にいるクーパー対の結合力(エネルギーギャップ)が強いか?
の2点を明らかにすることが、メカニズムを解明するカギと考えられています。
 これらに答えを与えるものとして期待されている最先端の実験観測手法が、 角度分解光電子分光(ARPES)法と電子波干渉利用の走査型電子顕微分光(QPI-STS)法です。 しかしながら、これまでの観測では、特定の運動方向(銅-酸素結合方向)の電子について、 ARPES と QPI-STS は相容れない結果を報告していました。
 今回、より詳細なARPES 実験に加えて、理論計算も行うことによって、2つの手法が 異なる結果を与えていた原因を突き止めることに成功しました。  この成果は、高温超伝導メカニズム解明への大きな弾みになるものとして注目されています。
 本研究成果は、英国科学会誌「Nature Physics」(先行オンライン出版版)で、 2009年8月30日(英国時間)に公開されました。
[論文情報] "A Momentum-Dependent Perspective on Quasiparticle Interference in Bi2212 (Bi2212高温超伝導体における準粒子干渉の運動量空間依存性に関する全体像)", I. M. Vishik, E.A. Nowadnick, W. S. Lee, Z.-X. Shen, B. Moritz, T.P. Devereaux, K. Tanaka, T. Sasagawa, and T. Fujii, Nature Physics 5, 718 (2009).
応用セラミックス研究所
ニュースレター(p.4)
2009年 4月30日



銅系の高温超伝導研究も元気です

 最近、鉄とヒ素を含む物質群の超伝導研究が盛り上がっている。 本研究所の細野教授グループによる発見が契機となり、転移温度が50Kを超えたこともあって、 高温超伝導フィーバーの再来とも目されている。 では、“元祖”高温超伝導体である層状銅酸化物での研究はすっかり冷えきってしまったのかというと、 そんなことはない。発見から20数年の時を経ても、試料の高品質化と測定手法の高度な発展、 そして何よりも高温超伝導の物理の深遠さを背景に、未だにホットな話題に事欠かない。
 大型純良単結晶の育成を得意とする我々のグループと、精密な角度分解光電子分光測定を 得意とするスタンフォード大学のShen教授グループがタッグを組むことで、 超伝導体のDNA解明とでも言うべき研究に取り組んでいる。 実験では、シンクロトロン放射などで得られる非常に強力な単色光を結晶表面に照射し、 真空中に電子を叩き出して、その運動方向とエネルギーを分析する。 これにより、高温超伝導メカニズムの鍵を握る電子構造の詳細が浮かびあがってきた。 特に、超伝導ギャップの微細構造観察に成功したこと [Nature 450, 81 (2007), Nature Physics 5, 119 (2009)] は、どのように超伝導電子対ができて高い転移温度を実現しているのか? という問いの核心に迫るものとして、熱い議論を巻き起こしている。
日本経済新聞(12面)
2008年12月22日



高温超伝導の落第生からメカニズム解明の本質に迫る
− 擬ギャップに2成分あることを発見 −

 Stanford 大学 Shen 教授のグループとの共同研究により、 銅酸化物高温超伝導体のメカニズム解明への有力な実験観測に成功しました。今回の成果を例えるならば、「超伝導の落第生のDNA観察から、優等生になるためのヒントが見えてきた」ということになります。
 本研究では、似たような化学組成で同じ結晶構造と電子濃度を持つにも関わらず、高温超伝導になる物質とならない物質があることに着目しました。その両者の電子状態を、電子の運動方向と運動エネルギーの関係を直接観察できる角度分解光電子分光法と呼ばれる最先端技術を駆使して調べたところ、次のことがわかりました。
  1. 超伝導にならない物質も、エネルギーギャップを持つ。 これは、超伝導にならない物質でも通常の金属とは異なる電子状態が安定化されていること を示す結果で、超伝導になる物質の超伝導転移温度以上で観測されている「擬ギャップ」の 生成と同じ現象です。
  2. この擬ギャップには、電子の運動方向によって、生成原因の異なる2成分が存在する ことを発見しました。
    • 1つの成分は、銅−酸素の結合方向に対して斜めに近い方向に運動する電子が作る 電子状態によって生ずる擬ギャップで、超伝導になる物質の擬ギャップと全く同じ大きさ と運動方向依存性をもっていることが分かりました。 これは、超伝導が完全に消失した 状態でも、ミクロには電子対が形成されている可能性が高いことを示す結果であり、超 伝導になれないのは、電子対の足並みが揃わないことが原因だと考えています。
    • もう一つの成分は、銅−酸素の結合と同じ方向に運動する電子が、電子対に代わる 他の電子集団状態をつくることでエネルギーを安定化させて生じているギャップのよう です。このギャップに関わる電子集団状態が、電子対の足並みを乱す原因となっている 可能性が高いことも分かりました。
 今後の研究により、第2の成分のエネルギーギャップの正体を明らかにし、電子対の足並みが乱されている原因を究明することによって、なぜ超伝導の落第生になってしまったのか、ひいては、どうすれば優等生になれるのかというヒントが得られるものと期待しています。
 本研究成果は、英国科学会誌「Nature Physics」(先行オンライン出版版)で、2008年12月21日(英国時間)に公開されました。
[論文情報] "Energy gaps in the failed high-Tc superconductor La1.875Ba0.125CuO4 (高温超伝導の落第生 La1.875Ba0.125CuO4 におけるエネルギーギャップ)", R.H. He, K. Tanaka, S.-K. Mo, T. Sasagawa, M. Fujita, T. Adachi, N. Mannella, K. Yamada, Y. Koike, Z. Hussain, Z.-X. Shen, Nature Physics 5, 119 (2009).
日経産業新聞(11面)
2008年10月 9日



− ナノテクによりダイヤモンドを光らせる秘策 −

 ダイヤモンドを発光素子(LED)や光検出器として利用するための画期的な方法を、 理論計算をもとに提唱し、10月1日発行の米科学誌「ジャーナル・オブ・アップライド・フィジックス」で 論文発表しました。
 青色ダイオードよりも波長の短い紫外線LEDを実現するために、 ダイヤモンドを材料候補とした研究が活発におこなわれていますが、 ダイヤモンドをそのまま用いても原理的に効率の良い発光素子は作れません。 この理由は、発光効率が悪いことで知られるシリコンと同様に、 ダイヤモンドは間接遷移型と呼ばれる電子構造を持つためです。
 私たちは、大きさの揃ったナノメーター(10億分の1メーター)の ダイヤモンドが規則的に並んで結晶になると、青色LEDの材料である ガリウム砒素と同様な直接遷移型の電子構造を持つようになって、 発光の効率を飛躍的に改善できることを確認しました。  更に、従来の半導体材料にはない魅力的な性質として、 ナノダイヤモンドの大きさを変えることにより、発光する光の波長を 幅広い範囲で設計できることも報告しました。
 紫外線発光素子には、ブルーレイ・ディスクを凌ぐ超高密度情報記録用の 書込みや読出し光源としての利用や、医療用などの殺菌灯、 あるいは蛍光剤との組合せで水銀フリーでフラットパネル形状の 蛍光灯などへと、様々な応用が期待されます。
 大きさの揃ったナノダイヤモンドは石油中に極微量含まれており、 これを精製する技術と特許は米シェブロン社が独占しています。  今回の成果をもとに、東京工業大学産学連携推進本部が仲立ちとなり、 我々のグループと米シェブロン社、および米スタンフォード大学との 国際共同研究プロジェクトが始まっています。
[論文情報] "A route to tunable direct band-gap diamond devices: Electronic structures of nanodiamond crystals(調節可能な直接遷移型バンドギャップを持つダイヤモンド素子への道:ナノダイヤモンド結晶の電子構造)", Takao Sasagawa and Zhi-xun Shen, Journal of Applied Physics 104, 073704 (2008).

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