東京工業大学 フロンティア材料研究所

東・山本 研究室

ナノテクノロジーを支えるー負の熱膨張物質

 半導体製造装置や光通信などの精密な位置決めが要求される分野では、材料の熱膨張が問題になります。昇温に伴って縮む、「負の熱膨張」を持つ材料は、部材の熱膨張を補償するために使われます。我々のグループではBi0.95La0.05NiO3が、室温から約100℃の温度範囲で、既存材料の3倍もの大きさの負の熱膨張を示す材料であることを発見しました。この発見は、母物質であるBiNiO3(これも私たちが見つけた新物質です)の、圧力印加による電子状態と結晶構造の変化を調べる研究から生まれました。基礎研究が特許性を持つ材料開発につながる好例です。


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加熱によってBiNiの間で電荷移動が起こる

Bi0.95La0.05NiO3Ni2+からNi3+への酸化に伴い、金属化と、既存材料の3倍もの負の熱膨張を示します。

環境問題解決へ向けてー非鉛圧電体

 電気と運動を変換する圧電材料は、インクジェットプリンターやディーゼル燃料インジェクターのアクチュエーターとして、また、超音波診断装置等のセンサーとして広く使われ,私たちの生活を支えています。現在主流の材料であるPbZrO3-PbTiO3固溶体(PZT)は環境に有害な鉛を重量にして64%も含んでいるため、代替材料の探索が急務です。PZTは菱面体晶と正方晶のペロブスカイト物質の固溶体です。我々は、同様の結晶構造を持つBiFeO3とBiCoO3の固溶体がPZTの代替材料になるのでは、と注目して、研究を行っています。このうち、BiCoO3は我々が高圧合成法で発見した新物質で、特許も有しています。高圧での材料探索から薄膜作製へと進み、良好な圧電特性を示すことを確認しています。

非鉛圧電材料BiFe1-xCoxO3薄膜の逆格子マッピングと、結晶構造変化、そして圧電定数。 電気分極の回転が起こる結晶構造相で、圧電性が増大します。

次世代メモリ材料ー強磁性強誘電体

 磁石(磁性)とコンデンサー(強誘電性)の性質を併せ持つ物質は、強磁性強誘電体、又はマルチフェロイクスと呼ばれ、次世代のメモリーやセンサー材料として注目されています。独自の物質設計指針で合成したBi2NiMnO6は強磁性強誘電体の代表的な物質です。また、巨大な電気分極を持つ事で注目されるBiFeO3のFeを一部Coで置換してスピン構造を変化させ、強磁性を持たせることにも成功しました。


BiFe1-xCoxO3のスピン構造変化と、強誘電・強磁性ヒステリシスカーブ。Co置換によりスピン構造が変化して、室温で強磁性と強誘電性が共存します。

トポケミカル合成によって合成されるSrVO2H。酸化物イオン(O2-)とヒドリド(H-)が層状に秩序化しており、ヒドリドがバナジウムイオンとのπ結合をブロックするとこにより擬二次元的な電子構造を実現しています。

酸化物を超える機能性材料ー複合アニオン化合物

 酸化物セラミックスはチタバリ(BaTiO3)のような強誘電体やリチウムイオン電池に使われるリチウム酸コバルト(LiCoO2)、銅酸化物のような高温超伝導体など多種多様な機能を有します。これまでの長い無機材料の研究の中で多くの酸化物が合成されてきましたが、アニオンに窒素(N3)やフッ素(F) 、ヒドリド(H)などを複合化させた複合アニオン化合物はその合成や構造の制御が難しかったことから探索の余地を残してきました。我々のグループでは高圧を使ったハードな反応やトポケミカル反応のようなソフトな反応を駆使して酸化物の機能を超える新規材料の開発を行っています。



エネルギー変換材料有機-無機ハイブリッド化合物

エネルギー問題の解決は人類の永遠のテーマの一つです。近年有機物と無機物を組み合わせた有機-無機ハイブリッド化合物が安価で高効率な太陽電池材料として注目を集めています。我々のグループでは固体無機化学の観点から無機化学の枠にとらわれない新規有機-無機ハイブリッド化合物を探索し、太陽電池や光触媒、発光材料への応用を目指し機能開拓を行います。



有機物と無機物を組み合わせた有機-無機ハイブリッド化合物。太陽電池、LEDの材料として注目を集めています。


四重ペロブスカイト構造の結晶成長。下地の基板を適切に設計することで、新しい薄膜材料を作り出すことができます。



新たな機能性薄膜を求めて四重ペロブスカイト磁性体

 既存の物質でも合成方法が変われば有用な機能を示すことがあります。我々は、レーザーを使って原子をバラバラにしてから基板上で原子を積み上げる手法によって新しい機能性薄膜を創り出します。例えば、原子が特殊な規則配列をする四重ペロブスカイト構造はこれまで高圧合成法でしか得られませんでしたが、私達は下地の基板と原子の積み上げ方をコントロールすることによってはじめて薄膜化に成功し、結晶格子の歪みに由来するユニークな磁性を発見しました。


全固体電池を目指してー酸化物固体電解質

2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池の発明に対して贈られました。安全性とエネルギー密度の向上のために世界中で研究が進められているのが、固体電解質を用いた全固体電池です。第一原理計算による材料予測と、レーザーアブレーション法による薄膜育成で、酸化物固体電解質の開発に取り組んで言います。




第一原理計算で予測した固体電解質、LiCuTaO9の結晶構造


スピン3/2がハニカム(蜂の巣)状に並んだBi3Mn4O12(NO3)。フラストレーションのために反強磁性秩序が阻害されていますが、磁場を印加すると秩序化します。

不思議な磁性を探る

ー低次元・フラストレート反強磁性体

 遷移金属イオンが持つ小さな磁石である「スピン」は、化合物の中で、互いに同じ方向を向く(強磁性)、または反対を向こうとする(反強磁性)性質を持ちます。強磁性は磁石に利用されますが、一方鎖状、梯子状、そして三角格子等にスピンを配した反強磁性体は、直感では予想できない特異な磁性を示すため、理論的にも実験的にも非常に興味深い研究対象となります。


超伝導メカニズムの解明へ向けてー高温超伝導体

 銅酸化物における高温超伝導の発見から20年以上が過ぎましたが、そのメカニズムは未だ明らかになっていません。我々は洗練された高圧合成技術を駆使して、オキシクロライドと呼ばれる一連の高温超伝導体の単結晶試料を育成しています。この物質は劈開製が高く、超伝導の舞台であるCuO2面の電子状態を探るのに適しています。我々の結晶を用いた研究成果が、Nature, Scienceなどの雑誌に多数報告されました。

高圧下で育成したCa2-xNaxCuO2Cl2単結晶。高温超伝導の発現機構に迫ります。