D2の片瀬君が発表したBaFe2As2ジョセフソン接合がMRS Symposium LのOral Presentation Awardに選ばれました -06/04/10-

 4月にサンフランシスコでで開催された米国Materials Research Society Spring MeetingのSymposium L (Superconductors)で片瀬君の発表した "Chemical stability of Co-doped AEFe2As2 (AE = Ba and Sr) epitaxial thin films and improvement of crystalline qualities and superconducting properties" が Oral Presentation Award を受賞しました。

 申し込み時にはエピタキシャル膜しかできていなかったのですが、学会までジョセフソン接合を完成させました。最後の追い込みが大きな成果を生んだ例といえます。 

 

米国物理学会で鉄系超伝導のフォーカスセッションが開催されました

 3月16〜20日にピッツバーグで開催された年会で、5日間の全会期に亘って朝8時から夕方6時まで
3つの会場でパラレルで開催され、数百件の論文が発表されました。初日の最初の招待講演の直前には
会場内でドイツ国立ラジオ局によるインタビューがありました(内容はこちらを参照ください)。      

研究室発の鉄系超伝導に論文が引用回数で世界No.1と11位になりました

 昨年、3月に発表されたTc=26Kを報告したJACSの論文が、2008年度に公表された論文で最も引用されました。
また、日大高橋研究室と共同で発表した高圧下でTc=43Kを4月に報告したNatureの論文は11位にランクされました。
9月にAppl.Phys.Expressに発表した超伝導エピタキシャル薄膜の論文、および12月にJ.Phys.Soc.Jpn.に発表された発見に至る経緯とその後の進展を報告した論文は、発表以来もmost downloaded paperになっています。

D2の野村君の論文がSci. Tech. Supercond.誌の2008年のハイライトに選ばれました。

D2の野村尚利君が中心に書いた以下の論文がScience and Technology of Superconductors誌の2008年のハイライトに選ばれ ました。鉄系超伝導体LaFeAsOの150K付近で現れる抵抗異常が、構造相転移によるものであるを初めて報告したものです。

 'Crystallographic phase transition and high-Tc superconductivity in LaFeAsO:F'
 http://herald.iop.org/susthighlights2008/m210/zea/140192/link/2417

D3の小郷君がEMRS Fall MeetingでBest Paper Awardを受賞

 D3の小郷洋一君が、9/15〜19にワルシャワで開催されたEuropean Materials Research Society (EMRS) Fall Meetingでベストポスター賞を受賞しました。

 小郷君は修士学生のころから自分の信念を持って地道に実験をすすめてきました。最初の研究では、鉄系ホモロガス化合物で磁性半導体を狙っていたものの、思ったとおりの結果が得られませんでした。しかしながら、スピングラス状態を確認するところまで粘り強く実験を進め、J. Appl. Phys.誌に論文を発表しました。その後もSn系アモルファス酸化物TFTの研究を進めてきましたが、貴重なデータは得られたものの、特性は悪く、大きなインパクトのある成果には結びつきませんでした。

 ところが、Snにこだわって研究テーマを自力で見つけ、SnOをチャネルとしたTFTで、それまでのpチャネル酸化物TFTよりも2桁高い移動度を持つp型酸化物TFTを作製することに成功しました。この成果は、Appl. Phys. Lett.誌に投稿後わずか1ヶ月で掲載されました。

 今回の受賞は、この成果が海外の会議でも高く評価された結果です。何度もあきらめずに挑戦を続けた結果の栄誉を称えたいと思います。

EMRSでの発表の風景 賞状

 

新系統の高温超伝導物質における超伝導転移温度の上昇を発見
(高温超伝導新材料の探索や超伝導メカニズムの解明に向けて前進)

 JST基礎研究事業の一環として、東京工業大学フロンティア研究センターの細野秀雄教授らは、日本大学文理学部(高圧物性)の高橋博樹教授のグループとの共同研究により、新系統の高温超伝導物質(鉄Feを主成分とするオキシニクタイド化合物LaO1-xFxFeAs)が、超高圧条件下で超伝導転移温度の上昇を示すことを発見しました。この物質は、LaO1-xFx層とFeAs層が交互に積層した層状構造を持つ化合物であり、細野教授らのグループが、絶対温度32度で超伝導転移を示すことを世界に先駆けて発見(平成20年2月18日 JSTおよび東京工業大学の共同発表;米国化学会誌「Journal of American Chemical Society」に速報の論文掲載)しており、定数の最適化などにより転移温度のさらなる上昇が期待されていました。

 本研究グループは今回の研究で、同物質に高い圧力を系統的に加えていったところ、4ギガパスカル(4万気圧)の圧力下で、超伝導転移温度が絶対温度43度まで上昇することを見出しました。この転移温度は、銅酸化物系超伝導体以外では最高です。高い圧力を加えて転移温度が上昇することは、過去に銅酸化物系超伝導物質などでも分かっている現象ですが、今回の物質系での加圧に対する転移温度の上昇は、銅酸化物系のそれに比べて非常に大きく、圧力が物質に与えるメカニズム、ひいては超伝導を引き起こすメカニズムそのものが銅酸化物系とは根本的に異なることが考えられます。

 また今回の発見は、ランタン(La3+)よりもイオン半径が小さい元素を選択すると、転移温度のさらなる上昇を期待できることが強く示唆されたことになります。今後の高温超伝導新物質の探索をはじめとした研究に、新たな展開が期待できるといえます。

 本研究成果は、2008年4月24日(英国時間)の科学雑誌「Nature」のオンライン速報版で公開されます。

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<研究の背景と経緯>

超伝導とは、ある温度(転移温度)以下で電気抵抗がゼロになる現象のことを指します。低電力損失送電や強磁場発生、演算素子などへの応用の期待を踏まえ、より高い転移温度を示す超伝導物質の探索研究が進められています。これまでの研究では、超伝導物質には大きく分けて、金属系超伝導物質MgB2:2ホウ化マグネシウム など)と銅酸化物系超伝導物質(Y-Ba-Cu-O:イットリウム・バリウム・銅酸化物 など)が存在するとされていましたが、細野教授らの研究グループは、2006年7月および2008年2月と続けて、鉄(Fe)を含むオキシニクタイド化合物LaOFePn(La:ランタン、O:酸素、Pn:リンやヒ素)物質系が超伝導を示すことを、世界に先駆けて発見しました。

細野グループが発見した超伝導物質は、磁性元素である鉄を含むにもかかわらずリンやヒ素と組み合わさることで超伝導を示すもので、これまでの物質科学の常識を覆す可能性が指摘されています。そして、金属系、銅酸化物系とは違う「新系統の高温超伝導物質」と考えられるようになっています(図1)。特にLaOFeAs系において超伝導転移温度が絶対温度32度、という同グループの報告(2008年2月18日にJSTおよび東京工業大学の共同プレス発表;米国化学会誌「Journal of American Chemical Society」に速報の論文掲載)以降は、査読前の論文原稿を掲示できるWebサイト・arXivで、細野グループの追試や各種物性測定、理論計算などの報告、構成元素の一部を別の元素で置換することによる超伝導転移温度レコードの更新の報告が次々掲示されており、新タイプの高温超伝導物質を巡る研究は激しさを増してきました。

 LaOFeAs系は、LaO層とFeAs層が交互に積層した層状構造を持つ化合物で、LaO層の酸素イオン(O2-)の一部がフッ素イオン(F-)で置換されることにより、FeAs層に電子が注入され、これが引き金となって超伝導を示すのではないか、と考えられています(図2)。こうした構造的および物理的特徴は銅酸化物系と類似しますが、その詳細な超伝導メカニズムはまだ分かっていません。

 

<研究の内容>

 細野グループは自らの新系統高温超伝導物質発見の直後から、高圧下の超伝導物性を専門とする高橋教授のグループとの共同研究を手がけ、今回、酸素イオンの一部をフッ素イオンで置換したLaO1-xFxFeAsで、超高圧、つまり物質構造を歪ませることによって、超伝導特性にどのような変化が現れるのかを調べる実験を行いました。3ギガパスカル(GPa:1GPa=1万気圧)までの圧力には、ピストン型のシリンダー装置を、それ以上の圧力には、ダイヤモンドアンビルセル注2)と呼ばれる装置を使用しています。図3は、ダイヤモンドアンビルセル測定における試料の写真です。

 今回の成果のポイントを以下に示します。

(1)LaO1-xFxFeAs(x = 0.11)において、外部から圧力を系統的に加えていったところ、4GPaまでは、圧力の上昇とともに超伝導転移温度(Tc)も上昇し(図4)、4GPaを加えた際には、Tcが絶対温度43度を示すことが判明しました。

(2)しかし、4GPaを超えると、その後Tcは圧力の上昇とともに低くなっていきます(図5、図6)。

 

<今後の展開>

 圧力を加えて超伝導転移温度が上昇するという事実は、これまで銅酸化物系でも分かっている現象ですが、今回の物質系での加圧に対する転移温度の上昇は、銅酸化物系のそれに比べて非常に大きく、銅酸化物系とは異なる超伝導メカニズムが支配的であると考えられます。今後、各種物性測定や理論計算に基づくシミュレーションの結果などが組み合わさることによって、メカニズムの理解が深まるものと思われます。

 また今回の実験事実は、LaO1-xFxFeAsにおいて超伝導状態を生じると考えられるFeAs層を挟むLaO1-xFx層のランタンイオン(La3+)を、よりイオン半径が小さい元素に置換すれば、圧力を加えなくとも、転移温度の上昇が期待できることを示唆しています。実際に、中国の研究グループらは、ランタン(La3+)よりもイオン半径の小さいプラセオジム(Pr3+)やサマリウム(Sm3+)が含まれた物質では、超伝導転移温度が絶対温度50度付近まで上昇するという報告を、arXivに掲載しています。

このように圧力効果の研究を進めることは、元素の選択とともに、新物質の探索に重要な役割を果たすのではないかと考えられます。銅酸化物系化合物においても、例えば常圧では半導体であったものが、圧力下で金属となり、さらに超伝導となるものもありますが、同じようなことが今回の鉄オキシニクタイド化合物系にも期待されます。今回の発見を踏まえて、高温超伝導新物質の探索をはじめとした研究が一層進展すると考えられます。

<参考図>


図1 超伝導転移温度の年度推移


図2 LaOFeAs系の結晶構造 
酸素イオン(O2-)がフッ素イオン(F-)で置換されることで、電子がFeAs層に注入される。


図3 ダイヤモンドアンビルセルの写真 
電気抵抗測定用の4端子電極を測定試料に付けています。


図4 抵抗率・温度特性の圧力依存性 
3ギガパスカルまで加圧した結果を示しています。圧力の上昇とともに、超伝導転移温度が上昇していくことが見て取れます。


図5 抵抗率・温度特性の圧力依存性 
3ギガパスカルから31ギガパスカルまで加圧した結果を示しています。4ギガパスカル以降は、圧力の上昇とともに、超伝導転移温度が低くなっていくことが見て取れます。


図6 超伝導転移温度の圧力依存性

 

新系統(鉄イオンを含む層状化合物)の高温超伝導物質を発見

1.概要

 JST基礎研究事業の一環として、細野 秀雄(東京工業大学 フロンテイア研究センター 教授)らは、新系統の高温超伝導物質(鉄を主成分とするオキシニクタイド化合物LaOFeAs)を発見しました。

2.経緯・意義

(1)超伝導は、ある温度(転移温度)以下で、電気抵抗がゼロになる現象で、超低損失送電、強磁場発生、電子素子内配線などへの応用が期待され、その実現のために転移温度が高い超伝導物質の探索研究が精力的に進められています。

(2)1911年にオンネスが初めて超伝導現象を発見して以来、金属系の超伝導物質として、Nb3Snなどが開発され実用化されてきました。これらの金属系超伝導物質としては、2001年に秋光らによって発見されたMgB2の39Kが最高の転移温度です。これに対して、1986年にベドノルツとミューラーが発見した銅酸化物の系統は、発見当初の転移温度が約30Kで、その後20年間精力的に材料探索が続けられた結果、現在では高圧下で約160Kまで上昇しています。

(3)今回発見された新高温超伝導物質は、上記金属系超伝導物質、銅酸化物系超伝導物質とは異なる第3の新しい超伝導物質系であり、新規超伝導物質としては30Kを越える高い転移温度が特徴です。LaOFeAsは、電気絶縁性であるLaO層と金属的伝導を示すFeAs層が交互に積層された結晶構造を持つ層状化合物です。純粋なLaOFeAsは、低温にしても電気抵抗がゼロとならず、超伝導は示しません。しかし、同化合物にフッ素イオンを添加することで超伝導を示すようになります。転移温度はフッ素イオン添加量に依存し、フッ素イオン濃度が11原子%の時、転移温度は32Kにまで上昇します。この転移温度は、従来見出されていた鉄系超伝導体の転移温度をはるかに凌駕するものです。さらに、ごく最近の予察的な実験データでは、転移温度が50K程度まで上昇することが示唆されています。また、同じ結晶構造を持つ数多くの類型化合物群が存在することから、物質定数の最適化が可能で、更なる高温化が期待されるます。よって、本成果は高温超伝導材料の新鉱脈の発見であると考えられます。

(4)本研究成果は、米国化学会誌「J. American Chemical Society」オンライン版に速報として掲載されます。 3.有識者コメント( 福山秀敏 東京理科大学 理学部教授 ) 遷移金属の鉄が、V属のリンやヒ素という元素と一緒になることで、鉄が関与しているのに磁性体にならず、常圧でこれほど高い温度で超伝導の特性を示したことは初めての現象である。フッ素をキャリアドープしていることで何か違う現象が起こっているかもしれないが、リンやヒ素が共有結合のような形で動ける電子があるのかもしれない。今までの高温超伝導物質とは全く違う新しい物質であると感じている。 

4.今後の対応

 JSTは、今後早急に東京工業大学と連携して、本研究の一層の推進を図るための措置をとっていくこととしています。

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<研究の背景>

 超伝導現象が発見されたのは、1911年のことです。水銀を極低温まで冷やしてゆくと、電気抵抗がゼロになるという現象を発見しました。それ以来、様々な金属材料で、この現象が調べられ、より高い転移温度の材料が発見されました。金属系材料としては、現時点では、2001年に秋光らによって発見されたMgB2(2ホウ化マグネシウム)が39Kと最高の転移温度を示しています。 これに対して、1986年にベドノルツとミューラーが発見した銅酸化物の系統は、発見当初から約30Kという高い転移温度を示したこと、セラミックスという絶縁体が超伝導を示すという驚きにより、超伝導研究フィーバとも呼べる現象を引き起こしました。その結果、短期間に、物質探索が進み、液体窒素温度(77K)を越える物質も発見され、室温超伝導も夢ではないのではないかと思われた時期もありました。しかし、1993年の銅水銀系酸化物での転移温度(130K 常圧力、160K 高圧)を最後に、記録の更新は止まっています。(図1)  超伝導状態では、電気抵抗がなくなるため、強力な電磁石や低損失送電、低損失電子デバイスなどの実現できます。その応用は計り知れないと期待されていますが、動作温度の低さがその実用化を制限しており、より高い転移温度の材料開発が期待されています。

<研究内容と成果>

 本プロジェクトでは、LnOM Pn(Ln=ランタン系列元素、M=遷移金属、Pn=P、As、Sb)系化合物の系統的な機能探索を行ってきました。この層状化合物は、絶縁層であるLnOと半導体層であるMPnが交互に積層した結晶構造であり、興味深い性質の発現が期待されています。  この化合物の結晶構造とX線回折パターンを図2(a)に示します。図2(b)には、この化合物の酸素の一部をフッ素に置換したもの(F-doped)とそうでないもの(undoped)のX線回折パターンを示しました。この図より、フッ素置換をしても基本構造に変化のないことが分かります。図3には、電気抵抗(a)と磁化率(b)の温度変化を示しています。フッ素置換していない材料(undoped)では、温度を下げていっても抵抗や磁化率に急激な変化はなく、超伝導転移を起こしていないことが分かります。これに対して、フッ素置換したものは、30K付近で抵抗が急速に小さくなる現象が観測されました。これに対応して、磁化率も大きく減少し、負の値を示しています(反磁性)。ゼロ抵抗と大きな反磁性が観測されたことから、この温度領域で、超伝導転移が起こったことが確認されました。  図4には、フッ素置換の割合と転移温度との関係をまとめています。フッ素置換されていない材料では、超伝導転移が見られませんが、置換量が3%を越えると、超伝導状態が発現し、11%近辺で、転移温度が最大となっていることが分かります。LaOFFeAs系では、最大32K(Tonset)の転移温度が得られました。

<今後の展開>

 今回の発見に先立ち、同グループは、同系統のLaOFePが超伝導物質であることを一年半前に発見していますが、その転移温度は5K程度でした。その組成を一部変更することで、転移温度が一挙に向上したことから、この系統の高い可能性が示唆されています。本系統の化合物は、Ln[O1-xFx]M Pn(Ln=ランタン系列元素、M=遷移金属、Pn=P、As)と一般式で表すことができますが、元素の入れ替え、フッ素の置換割合の調整、圧力などの物理的条件の調整など、探索すべき条件は多く、まだほんの一部の可能性を探索したに過ぎません。今後、探索が進むにつれ、より高い転移温度が得られると期待されます。

C12A7の研究がNHKのサイエンスゼロで紹介されました

 9月22日にNHK教育で放映されたサイエンスZEROにおいて、最近の研究を紹介する「科学∞」で、「セメントに電気が流れた!:現代の錬金術」として取り上げられました。

 番組では、透明な導電体になった部分だけが紹介されましたが、この物質を金属、そして超電導体に変えることにも成功しています。代表的な絶縁体が半導体、金属、そして超電導にまで変えることができたわけです。また、C12A7からできた金属は、仕事関数が金属のカリウムと同じくらい小さいのに空気中でも安定で素手で触れます。このように高い電気伝導度と透明性、そして仕事関数が小さく、しかも空気中で安定な性質をもつ物質がこれまでありませんでした。有機ELのカソード材料(J. Phy. Chem. 2007)や水中でも使える還元剤(Organic Lett.2007)として期待されています。

 

金起範君、応物の講演奨励賞受賞

 D3の金 起範君が、この春の応物学会で発表した論文「C12A7:e-/Alq3界面の電子注入特性と閾値電圧の低電圧化」で、講演奨励賞を受賞しました。

 このテーマは、3年前からはじめたもので、研究室としては、無機半導体から有機エレクトニクスに迫っていこうという狙いで開始したものです。

 C12A7エレクトライド(仕事関数2.4eVで通常の雰囲気でも安定)というオリジナルな透明電極材料をカソードとして使って、N型有機半導体への電子注入の低減を実現しました。

 UPSで界面の電子状態を測定しつつ、デバイス特性の改善をおこなうというオーソドックスなアプローチで、何とか最初の目標を実現しました。装置の立ち上げからですので、時間がかかりましたが、その甲斐がありました。共同で頑張った菊池さんも含め、おめでとう。

 

研究室OB(現在博士研究員)の戸田喜丈さんが先端技術大賞(特別賞)を受賞!

 この春に博士課程を修了した戸田喜丈君が、本年度の標記の賞を授与されました(写真参照)。
 戸田君の論文タイトルは
    「低い仕事関数と化学的安定性を併せもつ物質(C12A7 エレクトライド)とその電子放出素子への応用」
で、カルシウムとアルミニウムの混合酸 化物である12CaO・7Al2O3(C12A7)が、仕事関数が金属カリウムと同程度の2.4eVと極めて小さく、しかも化学的に安定であるをことを見出し、電子露光装置の高性能化、FED など次世代表示素子の実現に有望な電子放出材料であることを示したものです。
 おめでとうございます。

 

セメント(C12A7)を超伝導体にすることに成功しました

プレスリリース記事 「セメントが超電導体化」 (2007/6/11)

 国立大学法人東京工業大学(学長 相澤益男)は、独立行政法人理化学研究所(理事長 野依良治)と共同で、石灰とアルミナから構成される化合物12CaO・7Al2O3(C12A7)が、超電導を示すことを発見した。

 石灰(カルシウムと酸素の化合物。化学式CaO)と酸化アルミニウム(アルミニウムと酸素の化合物。Al2O3)は、教科書類にも記載されているように、電気を流さない代表的な絶縁体である。これらの複合酸化物である12CaO・7Al2O3(以下C12A7)も良質な絶縁体であり、また、アルミナセメントの構成成分として広く使用されている。C12A7結晶はナノポーラス構造をとり(図1)、直径0.5nmの籠の中に、酸素イオンが包接されている。研究グループでは、これまでに、籠中の酸素イオンをすべて電子で置き換えることにより、室温・大気中で安定な、C12A7エレクトライド(エレクトライド:電子が負イオンとして振舞うエキゾチックな化合物)を実現し、室温付近では、金属的な電気伝導を示すことを見出してきた。今回、C12A7エレクトライドが、低温(約0.4K)において、電気抵抗がゼロとなる超電導状態に転移することを発見した。

 今回の発見は、ありふれた元素からできた、電気を全く通さないと信じられてきた物質でも、ナノの構造をうまく利用すれば、超電導体に変えることが出来ることを示したものである。同時に、エレクトライド化合物では、初めての超電導の発見であり、新規な超伝導体化合物の探索に、新しい化合物群を提示したと言えよう。

 C12A7エレクトライドでは、電子は、籠の電子状態から作られる伝導帯(電子の通り道)を流れている。すなわち、従来の超電導金属とは異なり、結晶中のナノ空間を流れるs電子(球状電荷分布をもつ電子)による超電導であり、今回の発見が、超電導発生機構の解明に新たな知見を与えるものと期待される。

 本研究成果は、国立大学法人 東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの細野秀雄教授、同大学応用セラミック研究所の川路均准教授、独立行政法人理化学研究所の河野低温物理研究室 河野公俊主任研究員の共同研究によるもので、米国化学会誌(J.American Chemical Society)に速報として掲載(6月13日)される予定である。

 

《研究の背景》

地殻の99%は、酸素、ケイ素、アルミニウム、カルシウムなど8つの元素から構成されている(図2)。これらの元素は酸素と結びついて(典型金属)酸化物として存在している。それらの酸化物は、ガラス、セメント、陶磁器などの原料として広く使用されているが、電気を通さないことは、世間一般の常識である。

東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの細野秀雄教授らのグループは、絶縁体としてよく知られている上記の軽金属酸化物を、ナノの構造を利用し、半導体や金属に変えることを目標に研究を進めてきた。その究極の目標として、これらの化合物を用いての超電導の実現があげられる。

同グループは、2002年にカルシヤとアルミナの複合酸化物であるC12A7にマイナスの水素イオンを添加し、紫外線を照射することで電気伝導が生じることを示した(Natureに掲載)。2003年には、C12A7の籠中の酸素イオンを電子に置き換え、室温・大気中で安定な無機エレクトライドの合成に成功し、半導体電気伝導を実現した(Science)。2007年4月には、酸素イオンを電子で、ほぼ完全に置換して、金属伝導を示すことを実証した(Nano Letter)。

こうした経緯から、次の課題として、C12A7エレクトライドが、超電導を示すか否かが衆目の関心を集めることとなった。そこには、次の二つの観点があるように思われる。その第一は、1911年に水銀で、最初の超電導現象が見出されて以来、金属(鉛、ニオブ、ビスマスなど)、金属間化合物(NbGe,MgBなど)、遷移金属酸化物(ペロブスカイト型銅酸化物、SrTiOなど)、元素半導体(シリコン、ダイヤモンドなど)、有機化合物(BEDT−TTFXなど)など、ほとんどの化合物群で超電導化合物が見出されており、典型金属酸化物が、超電導が実現していない、ほとんど唯一の化合物群となっていることである。このことは、コンクリート材料が、超電導になることが見出されたら、私は研究生活をリタイヤーする。」との冗談とも本音ともつかない、米国のこの分野の著名な研究者のコメントが、「Nature誌」(2006年11月)に掲載されたことに、典型的に示されている。

第二の要因は、エレクトライドが超電導を示すか否かである。C12A7エレクトライドの電子は、アルカリ金属と同じ、球状の分布を持つ電子から構成されており、電気伝導特性もアルカリ金属それと類似している。(仕事関数が小さいことも、アルカリ金属に酷似している。しかし、化学的および熱的安定性が高いことは、エレクトライドの材料としての応用には、際立って優れた特性となっている。)これまで、純粋な電子を伝導電子とするアルカリ金属では超電導は見出されておらず、従って、電子を伝導電子とするエレクトライドで、超電導が実現するかは、科学的な関心を集めている。一方で、エレクトライド中の電子は、結晶中のナノ空間を伝導するが、金属中の電子は原子の位置を移動する。こうした伝導パスの相違が、超電導の出現にどう反映されるかも興味深い。

 

《今回の研究と成果》

C12A7は、図1(右)のようなナノサイズのカゴが、お互いに結びついて結晶をつくっており、一部の籠(6個に1個)に酸素イオン(O2-)が包接されている。この酸素イオンは、籠の壁を構成する原子との結合が弱く、言わば、ふわっと籠の中に入っており、500C以上になると、籠間を移動し、結晶の中をよく動き回ることに着目した。この動きやすい酸素イオンと化学的に反応して安定な化合物をつくる一方で、C12A7の籠とは反応しない(反応するとカゴが壊れてしまう)、還元性の材料(本研究では、こうした条件を満たす材料として、バルク結晶の場合はTi金属、薄膜の場合は酸素含有量の少ないアモルファスC12A7を用いた。)を用いることにより、籠の中の酸素イオンをほぼ100%電子で置き換えることが可能になった。その結果、金属電導性を示すC12A7エレクトライド(図3)を合成することができた。具体的には、結晶試料と、薄膜試料は以下のように作成した。

(結晶試料)

フローティングゾーン法で作製したC12A7単結晶とTi金属の破片を石英管中に、真空封止する。石英管を1100Cに加熱し、24時間維持する。ケージ中の酸素イオンがTi金属と結晶表面で反応してTiOx膜を形成し、結晶全体の電気的な中性を保つために、酸素イオンに代わって、ケージ中に電子が入る。700C以上では、籠中の酸素イオンは、結晶中をイオン伝導して、やがて表面出てくるために、すべての籠中の酸素イオンが電子で置換され、C12A7エレクトライド単結晶が合成される。

 (薄膜試料)

パルスレーザー堆積法により、YAl12基板上にC12A7膜をエピタキシャル成長させる。(基板と薄膜の結晶方位が揃った場合をエピタキシャル成長と言う。)次に、パルスレーザー堆積法により、C12A7エピタキシャル膜上に、還元雰囲気中、700Cで、アモルファスC12A7薄膜を堆積させる。堆積されたアモルファス膜は、化学当量組成に比べて、酸素不足になっている。このために、エピタキシャル膜の籠中の酸素イオンがアモルファス膜に移動し、代わりに籠内には、電子が入り込み、C12A7エレクトライドエピタキシャル膜が形成される。

 

得られたC12A7エレクトライド単結晶およびエピタキシャル薄膜試料の電気伝導度及び磁化率を、0.1K〜室温の温度範囲で測定した。(0.5K以下の低温を得るために、He/Heの希釈冷凍機を用いた。)単結晶(試料A、B)および薄膜試料(試料C,D)とも、0.2K〜0.4Kの範囲で、電気抵抗が急激に減少し、ゼロの値に到達する(図4)。(薄膜試料Dでは、三段階での抵抗低下が見られる。これは、転移温度の異なる3つの領域があるためと考えられる。)また、外部磁場を印加すると、抵抗が急激に低下する温度は、低温側に移動し、30mT以上の磁場では、消失する。さらに、試料Aに関して、抵抗が急激に低下する温度領域で、帯磁率が急激に減少し、完全反磁性の値となる(図5)。(マイスナー効果)こうした実験結果は、C12A7エレクトライドが超電導体に転移することを、明確に示している。

 すなわち、C12A7エレクトライドが、超電導体に転移したことが、以下の3つの実験結果から明確に示すことができた。

a)特定温度(超電導転移温度:T)で、電気抵抗が急激に減少し、T以下の温度で、ゼロ抵抗が見られる。

b)Tは、外部磁場を加えると低温側に移動し、やがて消滅する。

c)T付近で帯磁率が急激に減少してマイナスの値となり、完全反磁性の値となる。(1/4π)(マイスナー効果)

 

この成果は、コンクリート材料(セメント材料)のひとつであるC12A7という典型金属酸化物を用い、そのナノ構造を利用して、はじめて超電導体を実現したものである。また、エレクトライドとしてもはじめての超電導体であり、新規超電導体の探索の範囲を大幅に広げる成果であるといえよう。

超電導転移温度は、伝導に関与する電子数と電子と結晶格子間の相互作用の積が大きいほど高温になる。C12A7エレクトライドでは、アルカリ金属に比べ、電子の数は1桁以上少ないが、電子と結晶格子(籠の壁)との相互作用が大きいために、超電導状態が実現したものと考えられる。-電子超電導体は、BCS理論が最も適用されやすい系と考えられ、超電導発機構の解明に新たな知見を与えるものと期待される。

 

ここで紹介した研究は、文部科学省科学研究費 学術創成研究費の補助を受け、東京工業大学フロンテイア創造共同研究センター細野研究室 同応用セラミックス研究所 阿竹研究室、理化学研究所 河野低温物理研究室の共同研究として実施された。 

 

 

《掲載論文》

題名:"Superconductivity in an inorganic Electride 12CaO・7Al2O3:e-"

日本語訳:無機エレクトライド12CaO・7Al:eの超電導

著者:Masashi Miyakawa, Sung Wng Kim, Masahiro Hirano, Yoshimitsu Kohama, Hitoshi Kawaji, Tooru Atake, Hiroki Ikegami, Kimitoshi Kono, and Hideo Hosono

ジャーナル名:Journal of American Chemical Society (米国化学会誌速報) 
  米国化学会発行  発行日:6月13日

 

研究室が日経BPムック「変革する大学」東京工業大学に紹介されました

 東工大を紹介する標記の本が5月に発行され、「常識が変わる”電気を通すセラミックス”」というタイトルで   4ページに亘って研究室のことが紹介されています。詳しくはこのPDFファイルをご覧ください。

 

C12A7エレクトライドが2位に選ばれる!

 フラットパネルディスプレイ専門誌「Eエキスプレス」が選んだ平成18年度のプロダクトベスト5において、 C12A7エレクトライドがデバイス技術部門の2位にランクされました。

(E Express 4月号より)
 「2位は東工大 細野研究室が発見したC17A7エレクトライド。電子を内包したナノサイズのカゴをもつでセラミックスで、電子がアニオンとして機能するという特異な 特性からここにきてFPD業界で第注目の存在だ。 最大の特徴は仕事関数が極めて小さいことで、このためFEDのエミッター、PDPのバリア保護膜、有機ELのカソードなどの 応用が、内外の民間企業でも活発化。また、透明導電膜としても使用可能で、そのポテンシャルは無限といっても過言ではないであろう」

セメントを金属に変身させることに成功

プレスリリース資料:

 国立大学法人東京工業大学(学長 相澤益男)は、公立大学法人大阪府立大学(学長 南努)、独立行政法人理化学研究所(理事長 野依良治)及び財団法人高輝度光科学研究センター(理事長 吉良爽)と共同で、石灰とアルミナから構成される化合物12CaO・7Al2O3(C12A7)を、黒鉛と同程度の高い電気伝導を示す金属状態に変えることに成功した。元来、石灰(カルシウムと酸素の化合物。化学式CaO)と酸化アルミニウム(アルミニウムと酸素の化合物。Al2O3)は、教科書類に載っている電気を流さない代表的な絶縁体である。今回、これらからできている12CaO・7Al2O3(以下C12A7)というセメントの構成成分として使われている物質(図1.参照)が持つ、直径0.5ナノメートルのカゴの中に、多数の電子を入れ、電気を全く通さない状態から金属と同じように電気をよく通すように変えることに成功した。 このことは、電気を全く通さないと信じられてきた元素からできた物質でも、ナノの構造をうまく利用すれば、金属のようによく電気を流すように変えることが出来ることを明らかにした。この成果は、現在問題になっている液晶ディスプレイやテレビなどに不可欠になっている希少な金属であるインジウムを使った透明金属が、ナノの構造を工夫することによって、希少な金属を全く使用せず、身の回りにある、ごくありふれた元素を使って実現できる有望な道筋となることが期待される。 本研究成果は、東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの細野秀雄教授、大阪府立大学の久保田佳基准教授、独立行政法人理化学研究所の高田昌樹主任研究員(JASRI主席研究員兼務)らのグループの共同研究によるもので、米国科学雑誌 Nano Lettersに掲載(4月11日)される予定である。

《研究の背景》
地殻の99%は、酸素、ケイ素、アルミニウム、カルシウムなど8つの元素から構成されている。これらの元素は 酸素と結びついて(軽金属)酸化物として存在している。それらの酸化物は、ガラス、セメント、陶磁器などに原料として広く使用されているが、電気を通さないことは常識である。
東京工業大学フロンティア創造共同研究センターの細野秀雄教授らのグループは、絶縁体としてよく知られている上記の軽金属酸化物を、ナノの構造を利用し、半導体や金属に変えることを研究してきた。
同グループは、2003年にC12A7を半導体に変えることに成功したが、金属にまで変えることが出来なかった。シリコンなどの半導体は、電子をドープしていくと、電気の流れやすさがどんどん増大していって、ある閾値の濃度を超えると金属状態に変わることがよく知られている。しかしながら、C12A7のような典型的な絶縁体が、金属状態にまで変えられるかどうか興味が持たれていたが、これまで実現していなかった。

《今回の研究と成果》
C12A7は、図2のようなナノサイズのカゴが、お互いに結びついて結晶をつくっており、その中に酸素イオン(O2-)が入っている。この酸素イオンが、ふわっと入っており、摂氏700度以上になると、結晶の中をよく動き回ることに着目した。そして、この動きまわる酸素イオンを捕まえ安定な結合をつくるが、C12A7のカゴとは反応しない(反応するとカゴが壊れてしまう)、金属チタンと一緒にガラス管の中に封入して、摂氏1100度で加熱することで、カゴの中の酸素イオンをほぼ100%電子で置き換えることが可能になった。その結果、絶縁体から半導体、そして金属にまで変えることに成功した(図3参照)。
金属になったことが、以下の2つのことで確認された。
(a)温度が下がると電気抵抗が小さくなる(半導体は逆)
(b)磁性をもった不純物を少量加えると、電気抵抗が温度ともに単調に変化せず、ある温度で最低値をとるという非磁性金属に共通に見られる「近藤効果」が、明瞭に観察される。
 室温での電気抵抗は、6x10-4Ωcmで金属マンガン(2x10-4Ωcm)と同程度で黒鉛(1.3x10-3Ωcm)より一桁低い。薄膜(厚み100ナノメートル)にすると、肉眼に感じる可視の領域の光は70%以上透過するので、金属や黒鉛のように不透明ではなく、向こうが透けてみえる。
シリコンなどの半導体が金属に変わるときは、電子の数は増えるが、電子一個あたりの動きやすさ(移動度)は減少する。しかしながら今回の研究において、C12A7の場合は、これとは逆で、金属化すると、半導体の状態よりも数十倍も大きくなることがわかった(図4左参照)。この原因を調べるため、大型放射光施設(SPring-8)の粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)の高輝度放射光を用いて測定した回折データを、マキシマムエントロピー法(MEM)/リートベルト解析と呼ばれる、電子密度イメージングと粉末回折パターンフィッティングとを組み合わせた方法で解析した。
ナノのカゴの中に酸素イオンが入っている絶縁体の状態では、カゴの形が歪んでいるが、酸素イオンを電子で置き換えていくと、どんどんその歪みがなくなっていき、ある濃度まで電子が増える(酸素イオンが減る)と、一気に全部のカゴの形が綺麗な、歪んでいない状態に至る。このとき、電子は急によく動けるようになり、その結果として、半導体が金属に変わることがわかった(図4右参照)。今回、SPring-8の高輝度X線ビームを用いて測定した高精度回折データを使って解析したことが、このような金属状態と絶縁体状態の精密な構造変化の解明に結びついた。

《今後の発展》
希少元素に依存せず、ありふれた元素のみを使って、ナノの構造の工夫次第で、新しい機能を発現できる可能性を明快に示した結果といえる。
この成果は、現在問題になっている液晶ディスプレイやテレビなどに不可欠になっている希少な金属であるインジウムを使った透明金属が、ナノの構造を工夫することによって、希少な金属を全く使用せず、身の回りにある、ごくありふれた元素を使って実現できる有望な道筋となることが期待される。
今度の課題としては、典型的な絶縁体として知られていた、このセメント物質C12A7を、2003年に半導体に変えることに成功し、今回は金属化に成功した。次の挑戦としては、超伝導が実現できるかどうかである。「セメント超伝導体」はこれからの目標である。

ここで紹介した研究は、文部科学省科学研究費 学術創成研究費の補助を受け、SPring-8の利用研究課題2004A0778-NSa-npで行われた。


図.2 C12A7の結晶構造。ナノのカゴ(O2-入りとなし)から構成されている。立方体が単位格子(繰り返しの最小単位)。単位格子には12個のカゴがあり、そのうちの2個のみに酸素イオン(赤丸)が入っている。

図3.C12A7の電子ドープによる金属化。

 

ありふれた酸化物を使って巨大な熱起電力を発見

 名古屋大学工学研究科の太田裕道助教授(研究室OB)、河本邦仁名古屋大学教授、東京大学の幾原雄一教授らとの共同研究で、人工宝石として知られるありふれた酸化物チタン酸ストロ ンチウムを使って高い効率を示す熱電変換材料の開発に世界で初めて成功しました。 本成果は、英国科学誌「ネイチャー・マテリアルズ」に掲載されました。

神谷先生がH19年度文部科学大臣賞若手科学者賞に選ばれました

 本賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象したもので、「酸化物半導体の電子構造を活かした光電子デバイスの研究」が受賞題目です。 おめでとうございます。

OBの井上振一郎さんが九州大の助教に就任しました

 当研究室を卒業した井上振一郎さんが、4月1日付けで、九州大学先導物質化学研究所の助教に就任しました。

PDの梶原浩一さんが首都大の准教授に就任しました

 ERATOーSORST「透明電子活性プロジェクト」の博士研究員の梶原浩一さんが、 4月1日付けで、首都大学東京の材料化学専攻の准教授に就任しました。
 プロジェクトで、シリカガラスの光学物性の研究で、PRL,APL,JAP、JCPなどに数多くの論文を発表し、4つの国際会議で招待講演を行うなど優れた成果を挙げてきました。おめでとうございます。更なる活躍を期待しています。
  このプロジェクトからは、太田裕道さん(名古屋大)、林 克郎さん(東工大)に続き3人目の准教授が誕生したことになります。

M2の菊池麻衣子さんが「学問のすすめ賞」を受賞しました

 M2の菊池麻衣子さんが、材料物理科学専攻の修士論文「ITOおよびLaCuOSe/NPB界面のその場光電子分光測定」で、「学問のすすめ賞」を受賞しました。有機薄膜製膜/光電子分光複合装置の立ち上げから、p型酸化物半導体LaCuOSe:Mgと有機半導体NPBの界面電子構造の測定までを修士課程の2年間で行った努力と成果が評価されました。おめでとうございます。

研究室OBの鈴木健伸氏が、豊田工大の助教授に就任しました

 平成13年度に課程博士を修了した鈴木さんが、この1月から上記の職に就任しました。  一層の活躍を期待します。

透明酸化物の本がソフトバンククリエイティブ社から出版されました

 11月中旬〜下旬に、「透明金属が拓く驚異の世界 〜不可能に挑むナノテクノロジーの錬金術〜」が出版されます。透明で電気が流れて機能を持つ新材料をいかにして創るか、それらがどのような可能性を持つのか、中高生でもわかるように解説した本です。税込み945円です。出版社の説明はこちらで読めます。

 

林さんが 1st International Symposium on Transparent Conducting OxidesにてYoung Sicentist Award を受賞しました

 10/23-25にギリシャ・クレタ島にて開催された第一回透明酸化物伝導体に関する国際シンポジウムにおいて発表した K. Hayashi, Y. Toda, T. Kamiya, M. Hirano, H. Hosono, "Direct writing of transparent conductive patterns: Electron-beam-induced insulator-conductor conversion in H--doped 12CaO・7Al2O3"についてYoung Scientist Award (優秀プレゼンテーション賞)を受賞しました。

  

林さんが 日本化学会 進歩賞を受賞しました

 フロンティア創造研究センター助手の林克郎さんが、「活性陰イオンを利用したナノポーラス結晶12CaO・7Al2O3の機能化に関する研究」で日本化学会 進歩賞を受賞しました。

D1の松崎君が慶応大×東工大 2006 若手フォーラムでCOE奨励賞賞を受賞しました

 D1の松崎功佑君が、2006/10/30に慶應義塾大学矢上キャンパス 創想館で開催された「慶応大×東工大 2006 若手フォーラム」でCOE奨励賞を受賞しました。修士で行っていた「深紫外透明半導体Ga2O3を用いた電界効果型トランジスタ 」の研究が評価されたものです。lおめでとうございます。

細野先生が第76回服部報公賞を受賞しました

 報公賞は、服部報公会(服部時計店、現セイコーの創始者 服部金太郎氏が創設)が、工学の進歩に著しく貢献する研究を対象に行うもので、独創性と発展性の見地から工学の進歩への貢献度が特に顕著であると認められる研究業績を挙げた研究者1名に対して毎年授与されます(過去の受賞者は服部報公会HPを参照)。

 今年は昭和5年以来、第76回にあたり、細野秀雄教授が受賞者に選ばれ、10月6日に表彰式と受賞講演が日本工業倶楽部で開催されました。  受賞となった業績は「透明酸化物電子活性材料に関する研究」で、新領域「透明酸化物絵エレクトロニクス」の開拓など、分野横断型の研究成果が評価されています。C12A7に象徴されるユビキタス元素を使った新機能発現に試みにも大きな期待がなされています。

神谷先生が東工大挑戦的研究賞を受賞しました

 この賞は、東工大の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開又は解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰するとともに、研究費の支援を行うものです。 

 神谷先生がこの程、「酸化物半導体特有の電子構造を利用した光電子デバイスの開発」という一連の研究成果により受賞が決まりました。応用セラミックス研究所では初めての受賞になります。アモルファスシリコンや単電子トランジスタなど、半導体デバイスの領域での研究遍歴を経て、古巣の酸化物の分野に戻り、酸化物半導体の特徴を活かした光電子デバイスの開発というテーマに取り組み、透明酸化物半導体で冷電子エミッターなどを実現した業績が評価されたものです。 おめでとうございます。

D2 金君の秋の応用物理学会の発表がE-Express誌で紹介されました

 参照:「東工大細野研究室 有機ELのカソードにC12A7:e-を提案」 E-Express, 2006年10月1日号、p.46-47

平松氏の研究がPhys.Stat.Sol.(a)の表紙とEditor's Choiceに選ばれる

 博士研究員 平松秀典氏の論文
        "Opto-electronic properties and light-emitting device application of widegap layered oxychalcogenides: 
                LaCuOCh (Ch = chalcogen) and La2CdO2Se2"
が、固体物理の国際論文誌 Physica Status Solidii (a) のカバーならびにEditorが毎号一件取り上げる注目論文に選ばれました。 

 この論文は、同博士ならびに植田和茂博士(現 九州工大助教授、前当研究室助手)が集中して開拓してきた、2次元層状構造を有するオキシカルコゲナイド結晶の電子状態に注目して、良質のエピタキシャル薄膜を作成し、 電子状態の会計、透明P型伝導、室温安定な励起子の発見、透明P型金属の実現、そして、ついに青色LEDの作成に成功した一連の研究をまとめたものです。

 なお、この構造と同じ層状構造を有するLaFeOPが、鉄系でありながら超電導転移を4〜6Kで示すことが最近 当研究グループの神原研究員らによって報告されました (J. Amer. Chem. Soc. Commun. July 14 ).

新しい構造の酸化物超伝導化合物を発見しました

 鉄イオンを含んだ新たな層状構造の酸化物 LaOFeP が超伝導体になることを見出しました。これは、従来の銅イオンを含む層状ペロブスカイト構造をとる酸化物高温超伝導体とは異なる結晶構造を持つ、新しい超伝導体です。

 超伝導は、ある温度(転移温度)以下で、電気抵抗がゼロになる現象で、超低損失送電、強磁場発生、電子素子内配線などへの応用が期待され、その実現のために転移温度の高い超伝導化合物の探索研究が精力的に進められています。特に、液体窒素温度(-196℃)を越える転移温度を有する超伝導化合物が見出されたことで室温超伝導の実現可能性が期待されています。

 これまで発見された液体窒素温度を超える高温超伝導体は全て、銅イオンを含む特定の形状(層状ペブロスカイト化合物)をした化合物でした。遷移金属イオンの電子状態が転位温度に大きな影響を及ぼすことから、銅と異なる遷移金属イオンを含む新しい化合物の探索が、超伝導への転移温度を向上させる有力な手段のひとつと考えられています。

 今回、プロジェクトが発見した鉄イオンを含む超伝導化合物は、これまで見出された酸化物超伝導化合物とは異なる結晶構造を有し、一般式LnOMPnLn: 希土類イオン、M: 遷移金属イオン、Pn: P,As, Sbなど)で表される化合物群の一つです。

 今回見出されたLaOFeP自身の超伝導転移温度は、まだ4K程度と低温ですが、Ln, M及びPnイオンの組み合わせを最適化することにより、電気的・磁気的特性を大きく変化させることが可能なため、超伝導転移温度を飛躍的に向上できる可能性があります。また、銅以外の遷移金属イオンを含む新しい超伝導体の発見は、酸化物における超伝導出現機構の解明にも役立つものと期待されます。

 本研究成果は、米国化学学会誌「J. American Chemical Society」オンライン版に7月17日(米国東部時間)に公開されました。

細野先生が本多フロンティア賞を受賞しました

 本多フロンティア賞は、金属およびその周辺材料に関する研究を行い、学術面あるいは技術面において画期的な発見又は発明を行った研究者1〜2名に与えられます。東北大学総長を務め、KS鋼などを発明し「金属の父」と呼ばれる本多光太郎博士を記念する本多記念会が主催。

 第1回の受賞者は カーボンナノチューブを発見した飯島澄夫博士で、今回の細野先生の受賞は第3回目にあたります。

 細野先生の受賞は、「ナノ構造を制御・活用した電子活性透明酸化物材料の機能開拓」によるもので、透明酸化物半導体の領域の創成とナノポーラス結晶C12A7の電子機能発現に関する一連の研究成果が評価されました。 この賞は、選考委員会が依頼による推薦をもとに選考しているとのことで、本人には全く「寝耳に水」の知らせでした。

 対象になったテーマは、研究室、およびJST−ERATO「細野透明電子活性プロジェクト」で推進してきたもので、多くの共同研究者の貢献によるものです。引き続き、この分野のフロンティアの開拓に邁進していきたいとのことです。

林克郎氏、日本化学会の進歩賞を受賞

  研究室の林克郎博士(フロンティア創造研究センター助手)が、平成17年度 日本化学会の進歩賞を受賞しました。

  受賞業績は、ERATO「透明電子活性プロジェクト」研究員のときから従事しているC12A7の機能開拓に関するものです(資料)。

  東工大の無機材料関係では、初めての受賞でしょう。 おめでとう ございます。尚、受賞講演は27日に化学会年会にて行なわれました。

研究室OB 松石聡氏、井上研究奨励賞と手島記念博士論文賞を受賞

 昨年度 博士課程を修了した松石君が、優れた博士論文を提出した者に与えられる上記の賞をダブルで受賞しました。特に井上賞は、自然科学の基礎的分野で30名に対して与えられるもので、受賞者からは現在活躍中の優れた科学者が数多くいます。

 松石君は、電子がアニオンとして働くイオン結晶であるエレクトライドと呼ばれる物質で、初めて室温・空気中で安定な物質を実現し、その成果が 米科学誌「Science」に掲載されました。また、CWとパルスESRを駆使してC12A7単結晶中の活性酸素ラジカルの運動状態を明らかにするなど、解析においても成果を挙げています。

      写真は井上奨励賞の受賞者。

 

 

研究室OB 野村研二氏、第2回薄膜材料デバイス研究会 ベストペーパーアワードを受賞

 11/4-5に京都市龍谷大学大宮学舎で開催された第2回薄膜材料デバイス研究会において、「アモルファス酸化物半導体の材料探索と高性能透明フレキシブルTFTの室温作製」を発表し、ベストペーパーアワードを受賞しました。

 

フレキシブル透明トランジスタがニュートン9月号などに紹介されました

 昨年11月にNature誌に掲載された、アモルファス酸化物半導体を能動層に用いPET基板上に形成した透明トランジスタは、有機半導体やアモルファスシリコンを用いたものよりも、一桁高い移動度を示します。また、既存技術であるフィルム上にITOを製膜するプロセスで形成が可能です。このため、有機ELや電子ペーパーなどへの応用に大きな期待を集めています。

 科学啓蒙誌ニュートン 9月号には、「ディスプレイはこう進化する:ぺらぺらの紙がテレビになる?!」として、このトランジスタの話が紹介されています(2003年 10月号には、本研究グループの研究成果が「コンピュターが視界から消える!?:透明な電子回路の実現が射程距離に入った」として特集されました)。

 この他、Laser Focus World, IEEE Spectrum, Science Magazine など海外の多くの科学技術誌に取り上げられました。

 

今年4月掲載の総説のダウンロード数が500回を超えました

 T. Kamiya and H. Hosono, "Creation of new functions in transparent oxides utilizing nanostructures embedded in crystal and artificially encoded by laser pulses", Semiconductor Science and Technology, Vol 20, S92-102 (2005).

 欧州物理学会によると同学会発行の全論文誌に掲載されたもののうち3%が500回を超えたそうです。  

 論文の詳細はURL http://stacks.iop.org/0268-1242/20/S92 をご覧ください。 

D3 斉藤全君 応用物理学会 講演奨励賞に決定

 春の学会の「共添加したSiO2ガラス中のCe3+の溶媒和構造」が講演奨励賞に決定しました。更なる研究の飛躍が期待できます

神谷先生ら「第19回(2005年度)独創性を拓く 先端技術大賞」 特別賞に決定!

  今年の先端技術大賞の企業・産学連携部門の特別賞に神谷先生が書かれた以下の論文が特別賞に決まりました。詳しくはhttp://www.business-i.jp/sentan/index.html をごらんください なお、昨年は松石君が学生部門で材料部門最優秀賞を受賞しています。

 企業・産学部門 ■特別賞
   神谷利夫氏、野村研二氏、細野秀雄氏 (東京工業大学 応用セラミックス研究所)
   雲見 日出也氏(キヤノン 先端融合研究所)
    「アモルファス酸化物半導体の設計と高性能フレキシブル薄膜トランジスタの室温形成」 

研究室OB 太田裕道氏 日本セラミックス協会賞 進歩賞受賞

 研究室OBの太田裕道君(現 名古屋大学助教授)が、「透明酸化物半導体オプトエレクトロニクスデバイスの開発」で平成16年度の標記の受賞しました。世界初の透明酸化物半導体のPN接合による電流注入型紫外発光ダイオードの開発(Appl.Phys.Lett.2000)と反応性固相エピタキシャル成長法という新しい薄膜合成法の考案(Adv.Fuct.Mater.2003)という明快な業績が評価されました。この他に、太田君は東工大有機材料の竹添グループと共同して、超平坦ITO薄膜状に有機分子のエピタキシャル成長させ、従来よりも桁違いに高い性能のFETの作製に成功しています(Adv.Mater.2002,2003).

細野先生が文部科学大臣表彰(研究部門)を受賞

 細野が、JST ERATO「細野透明電子活性プロジェクト」の研究業績によって、平成17年度の文部科学大臣表彰(科学技術賞研究部門)を受けました。プロジェクトに研究員をはじめ関係者のお陰です。厚く感謝いたします。本プロジェクトは、さらに5年の延長が認められ(ERATO-SORST)、研究場所をKSPから東工大フロンティア創造共同研究センターに移して、活動を続けています。 新たな視点で切り口で明快なブレークスルーを目指しています。

プロジェクト研究員の梶原浩一氏の論文が J. Ceram. Soc. Jpn. 優秀論文賞を受賞

受賞論文題目 SiO2 ガラスにおける酸素分子の表面溶解と拡散(英文)
          "Surface Dissolution and Diffusion of Oxgen Molecules in SiO2 Glass"
  J. Ceram. Soc. Jpn. 112, 559-562 (2004).
著者 梶原浩一、三浦泰祐、上岡隼人、平野正浩、Linards Skuja、細野秀雄

【推薦理由】 本論文は,SiO2ガラス中のO2の表面溶解と拡散に関するものである.著者らは,O2分子の発光を利用すると言う従来法に比べて極めて簡便な方法でO2濃度を定量化することに成功し,理論に基づき溶解・拡散のメカニズムを明らかにした.SiO2中の酸素の溶解・拡散挙動を明らかにすることは,現在,科学的観点からだけでなく,フォトニクスやエレクトロニクスの分野で工業的にも極めて重要である.よって,本論文を優秀論文賞に推薦する.

M2の松崎君がTOEO-4の最優秀ポスター賞を受賞

受賞論文題目 Field-effect transistor using extremely wide bandgap oxide semiconductor Ga2O3
会議名 4th International Symposium on Transparent Oxide Thin Films for Electronics and Optics (TOEO-4)

                  

無機エレクトライドの大量合成法を開発

−透明なメルト・ガラスから一挙に合成−

背景:

イオン結晶は陽イオンと陰イオンが静電引力で結合して構成されている。電子はマイナスの電荷をもつため、究極の陰イオンともみなすことができる。実際に電子が結晶中で陰イオンのように振舞うことがあり、こうした電子を含む結晶を「エレクトライド(電子化化合物)」と称している。

1983 年に米国ミシガン州立大学のJames Dye 教授によってクラウンエーテルとアルカリ金属を反応させることで、エレクトライドが初めて合成された。電子が陰イオンとして働く結晶というエキゾチックな物質なため、多くの興味を引いたが、熱的(最も安定なものでも-40℃)、化学的(空気中では分解してしまう)に不安定なため、材料としての応用の道は閉ざされていた。

 本研究グループは2003 5 月に、セメントの構成成分の一つである12CaO・7Al2O3C12A7)というありふれた物質を化学的に処理することで、室温・空気中で(500℃まで問題なし)安定なエレクトライドの合成に成功した(2003 Science 誌掲載)。これによって初めて、エレクトライドに関する詳しい物性の研究が可能となり、その結果、極めて低い仕事関数(0.5eV 程度)をもち、電場を印加することで容易に電子を取り出すことができ、電界放射型デバイスに応用できることなどを報告してきた(2004 Advanced Materials 掲載)。

 しかしながら、エレクトライドの合成にはC12A7 単結晶を金属カルシウムで長時間(0.5 ミリの厚みの試料で10 日を要す)熱処理するプロセスが必要であった。単結晶を使わずに、簡便な、しかも短時間で合成できるプロセスの開発が、エレクトライドの応用に向けての大きな課題であった。

今回の成果:

 通常の炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの粉末を、炭素の坩堝中で加熱・融解し、単に、ゆっくりと冷却する、あるいは 一旦急冷してC12A7と同じ組成のガラスをつくり、これを真空中で再加熱して多結晶化するだけで、エレクトライドが合成できることを見出した。

 今回開発したエレクトライドの製法は、出発物として単結晶が不要で、処理時間も2 時間程度と大幅に短縮できる。かつ メルトやガラスから、エレクトライドを直接的に作製できるため、自在な形状の試料を簡便、かつ大量に合成することが可能である。

 水飴のように透明なメルトやガラスを単に高温から冷やす、あるいは、室温から再加熱するだけで、絶縁体が電気のよく流れる物質であるエレクトライドに変換する。構成成分は生石灰とアルミナという典型的な絶縁体で、これからできたガラスももちろん透明な絶縁体である。こうした典型的な絶縁体に、電気の流れる成分をまったく添加することなく、上記のような単純な処理のみで、試料の塊全体を電気のよく流れる状態に変えることができるのである。

 2003 年のScience 誌に掲載した成果は、20 年来の課題であった室温・空気中で安定なエレクトライドを実現したという学術面でのブレークスルーであった。今回の成果は、エレクトライドを材料としての応用を図る上で大きなネックなっていた効率的な大量合成法を、メルトやガラスというありふれた状態を経由することで実現したもので、実用面での画期的なブレークスルーであると考えている。

 本研究成果は、米国化学会「Journal of American Chemical Society」の速報として2 月9日発行号に掲載される。

図1 室温・空気中で安定なエレクトライドの構造。
ナノサイズのケージの中に陰イオンの代わりの包接されているのが電子(図では球)。この電子のため、これまで典型的な絶縁体であった
C12A7 が電気の良導体に豹変する。さらに、この電子は容易に外部に取り出すことができ、C12A7エレクトライドは、冷電子放出源として機能する。

図2.透明で電気が全く通らないガラス(左)を、真空中で単に加熱するだけで、エレクトライド()に変わり、電気がよく流れるようになる。

平松氏が井上研究奨励賞を受賞

 本研究室で博士課程を2004年3月に修了した平松氏の学位論文が認められ、井上科学振興財団の研究奨励賞をいただきました。

透明で曲げられる高性能トランジスタを実現

−フレキシブルなディスプレイへのブレークスルー

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)戦略的創造研究推進事業継続研究(ERATO-SORST)の「透明酸化物のナノ構造を利用した機能開拓と応用展開プロジェクト」(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター&応用セラミックス研究所 教授)は、独自に見出した「In−Ga−Zn−O系アモルファス酸化物半導体」を活性層に用いることで、ポリエチレンテレフタラート(PET)など軽量で曲げられるプラスチックフィルムの上に、高性能透明薄膜トランジスタ(TFT)を作製する事に成功した。活性層に用いたアモルファス酸化物半導体は、アモルファスシリコン、有機半導体に比べて、10倍以上の電子移動度[〜10cm/(V・秒)]を有し、飽和電流、スィッチング速度などのトランジスタ特性が10倍以上に向上する。

 今回の成果は、室温形成と高性能という相反する要求を満足する初めての材料の実現であり、現在関心を集めているフレキシブルなディスプレイ実用化に向けての、大きなブレークスルーとなる可能性が高い。この研究成果は、11月25日発行の英科学誌「Nature」に掲載された。

 透明アモルファス酸化物半導体の研究は、1995年に細野が本格的にテーマとして取り上げた。物質探索指針の確立(‘96)と実例の発見(96〜98)、そして従来のアモルファス半導体とは大きく異なる電子輸送特性をもつことを見出し、電子状態の解析からこれらを解明してきました(鳴島 博士論文、’02)。また、懸案であったp型物質も昨年見出していました(鳴島Adv.Mater.)。アモルファス酸化物のTFTの応用については1年ほど前から取り組み始め、神谷によるFETへの応用への発案、太田(OB。現名古屋大学助教授)による系の提案、そして野村(OB.現JST研究員。昨年のScienceのFET論文)によるプロセスの最適化などが巧く結集し、今回の成果につながった。

[背景]

電界効果型トランジスタ(FET)は、マイクロエレクトロニクスの最も基本的な構成要素で、中でも、ガラス基板上などに成膜された半導体膜を活性層として用いる薄膜トランジスタ(TFT)は、液晶や有機半導体発光ダイオード(有機EL)などの平面ディスプレイ類を駆動するスイッチ素子として不可欠なデバイスである。液晶平面ディスプレイなどの応用には、大型の基板の上にTFTを形成することが必要なため、活性層として、単結晶のシリコンに代わって、ガラス板の上に比較的高温プロセスで形成されたアモルファスや微結晶のシリコン膜が、専ら使われている。

しかしながら、最近では軽量でかつ曲げられるディスプレイなどを可能とするフレキシブル電子デバイスに対する要求が社会的に強く求められるようになっている。この要求を満たすには、ガラスではなくプラスチックの上に半導体の薄膜を形成しなければならない。シリコンを用いた場合、最も低温で薄膜を作製できるアモルファスシリコンでも220℃程度の高温が必要なので、150oC以下でしか使用できないPETなど廉価なプラスチックフィルム上へTFTを作製することは困難である。このため、有機物半導体が専らその候補として世界中で精力的に研究されており、アモルファスシリコン並みの性能を有するTFTも報告されるようになった。しかしながら、その性能は、高精細LCDあるいは有機ELを用いた高性能表示デバイスを駆動するには不十分であり、より高い性能を持つTFTの実現が求められている。また、有機物半導体は、熱的・化学的な安定性が十分ではなく、デバイスの信頼性向上が課題となっている。

[今回の成果]

 本研究プロジェクトは、透明酸化物の機能材料としての可能性を探索したERATO「透明電子活性プロジェクト」の継続研究として推進しているものであり、透明酸化物の機能開拓と並行して、これまでの探索研究の成果をベースとした応用を睨んだ展開をおこなうことになっている。ERATOではInGaO(ZnO)4という透明酸化物半導体の単結晶薄膜を容易に合成できるプロセスを考案して、その薄膜を用いてTFTを作製することで、透明なトランジスタとして、従来よりも1〜2桁高い性能を実現した(Science,2003)。しかしながら、このプロセスでは1000 oCという高温を必要とするため、透明酸化物半導体のポテンシャルを初めて実証することはできたが、プラスチック上に高い性能のTFTをつくるという実用上の課題に応えることはできなかった。

 そこで本継続研究では、新たな発想でこの実用的な課題に取り組み、アモルファス透明酸化物半導体という、これまでTFTの活性層として全く注目されていなかった物質を採用することで、PETなどのプラスチックフィルム上に薄膜を容易に形成でき、かつ アモルファスシリコンや有機トランジスタを活性層に用いたTFTよりも約10倍優れた高性能を実現することに成功した。開発したアモルファスIn−Ga−Zn−O材料系は、無機物半導体であるため、熱的・化学的な安定性に優れた環境にやさしい材料である。また、本アモルファス半導体材料は透明であるため、ディスプレイ類へ応用したときにバックライト光を有効に利用して省電力化する、窓/フロントガラス上に情報を表示するヘッドアップディスプレイを実現する、といったことも期待できる。

 

  図1 透明TFTの構造。PETフィルム上のアモルファス酸化物半導体膜(aーInGaZnO)が活性層として機能するその上に、左から、ソース電極、ゲート絶縁膜(Y)を介したゲート電極、およびソース電極が配置されている。電極材には、透明酸化物伝導体ITOが用いられており、TFTは透明である。

図2 フレキシブルTFTシートの写真。PETフィルム上に作製したTFT。光の入射角度により、反射光でTFTが観測できる。

図3 曲げた状態でTFT特性を測定している写真

  

図4 曲げる前(左)と曲げた後(右)のTFT特性。ゲート電極に電圧VGSを印加すると、ソース・ドレイン電極間に電子が注入され、トランジスタがオン状態となる。ソース・ドレイン電極間の電圧VDSが増加するとソース・ドレイン間電流IDSが増加するが、やがて飽和する典型的なトランジスタ特性を示す。また、PETフィルムを曲げても、トランジスタ特性は、ほとんど変化しない。

 

[なぜアモルファス透明酸化物半導体か]

 シリコンなどの典型的な半導体は、方向性の強い結合から構成されているために、

原子の配列が乱れたアモルファス状態になると、電子の動きやすさ(電子移動度)は極端に低下してしまう。(例:シリコンでは、アモルファス状態での電子移動度は、結晶状態に比べて、1000分の1以下)。これに対して、酸化物半導体の中には、アモルファス状態になっても殆ど電子の移動度が低下しない一群の物質があることを、本研究グループは10年ほど前に見出していた。この特徴は、電子の通路となる電子伝導帯が、空間的広がりが大きく、かつ球対称性の金属イオンのs軌道から主に構成されるために、アモルファスでの原子の配列が不規則状態になっても、これらs軌道間の重なりの大きさは、結晶状態に比べて、殆ど低下しないことに起因すると解釈している。今回、TFTの活性層に用いたIn−Ga−Zn−O系アモルファス材料も、そのうちの一つで、成膜した状態では電気絶縁体であるが、電子移動度が大きいという特徴を有している。また、ゲート電極に電場を印加すると活性層に電子が注入させるが、注入量が多いほど電子が移動しやすくなるという性質をもっている。従来は、酸化物半導体の特性はシリコンやGaAsなどには到底及ばないと考えられていたが、アモルファス状態では、結晶状態とは逆に、酸化物半導体の特性の方が優れている。

 これらのアモルファス薄膜は室温で作製しても良好な特性が得られるため、湾曲可能なプラスチックフィルム上にTFTを作ることができ、しかも従来実現されているアモルファスシリコン、有機半導体などの電子移動度に比べ、1桁大きな値を実現することができた。

[今後の展開]

   「曲がるディスプレイ」や「電子ペーパー」、さらには「ウエラブルなコンピュタ」の実現を可能とする「フレキシブルエレクトロニクス」は、これまで有機半導体が専ら研究対象とされてきた。本研究成果によって、有機半導体よりも一桁性能が高く、かつ安定性に優れた透明アモルファス酸化物半導体がこの分野に応用可能であることが初めて明らかになった。本トランジスタの活性層に用いたアモルファス酸化物半導体は、N型伝導体であるが、同研究プロジェクトはN型だけでなく、既にP型のアモルファス酸化物半導体も見出しており、これらの成果を契機に、今後、具体的なデバイス応用に向けた研究が大きく加速するものと期待される。 

 

松石 聡君(D2) 「独創性を拓く 先端技術大賞 ニッポン放送賞」 受賞 !

 当研究室D3の松石君が、フジサンケイビジネスアイ主催の「独創性を拓く 先端技術大賞」で、材料部門の最優秀論文賞を受賞しました。下の写真は去る6月30日に東京プリンスホテルに於いて、高円宮妃妃殿下臨席のもと 表彰式の記念写真です。 

 同君の論文題目は「ナノポーラス結晶中の高濃度電子アニオン:[Ca24Al28O64]4+(e-)4 〜絶縁体12CaO・7Al2O3から電子伝導性「無機エレクトライド」へ〜」です。この論文のオリジナル研究は昨年8月に米科学誌「サイエンス」に同君がトップネームで発表したものです。おめでとう。

「エレクトライドを用いた高輝度冷電子エミッターを実現」 
=セメントをナノテク加工して冷電子放出銃へ=

(科学技術振興機構 プレス発表資料 27/4/2004)

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)創造科学技術推進事業(ERATO)細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)と東京工業大学応用セラミックス研究所の神谷利夫助教授らは、同研究グループが独自に開発した室温で安定なエレクトライド化合物を用いて、低電場での高輝度冷電子ビームを世界で初めて実現した。 開発したエレクトライド(注1)は、12CaO・7Al2O3 (C12A7)というセメントの原料になっている物質の構造が、C60と類似のケージ(籠)構造を有し、その中に酸素イオンを包接することに着目し、これらの酸素イオンの全てを化学処理によって電子に置き換えることにより得たもの。C12A7は、そもそも環境低負荷の安価な材料であり、さらにC12A7エレクトライドを先端の尖った形状に微細加工することにより、より低電場で高輝度冷電子ビームを得る事が可能なため、電界放出型平面ディスプレイの電子銃材料としての実用化が期待される。 本研究成果は、同プロジェクトが昨年8月に室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に成功した際に期待した、ディスプレイ等の冷電子放出銃(注2)、赤外線検出素子、還元試薬などの興味深い応用のひとつであり、更なる展開を期待したい。 本研究成果は4月29日出版の国際学術誌「Advanced Materials」(Wiley-VCH社)に掲載され、同日付けドイツ時間午前9時に同社のホームページに公開される。

注1)プレスバックナンバー  
 @ 科学技術振興事業団報 第340号 「室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に成功」  
 A 科学技術振興事業団報 第261号 「絶縁体セラミックスを半導体に変えることに成功」 

注2)用語解説 「冷電子放出銃」 テレビのブラウン管に使われている電子銃は、高温に加熱して、かつ電界を印加することで電子を真空中に放出している(熱電子放出)。これに対して、試料を加熱することなく、室温で電場をかけるだけで電子を放出できる物質をいう。熱電子放出に比べ、エネルギー消費が少ないため、ディスプレイなどいろいろな応用が期待されている。このためには、電子を放出し易く安定な物質が不可欠。

 エレクトライドは、イオン結晶での陰イオンの役割を電子が担うユニークな化合物で、これまでに、特殊な有機化合物でのみ知られていたが、いずれの化合物も室温では不安定で、実用には適さなかった。 昨年8月、当研究グループは、アルミナセメントの一種類であるC12A7のケージ内に存在するフリー酸素イオンを全て電子で置換する事により、室温で安定なエレクトライドの合成に成功した。(図1参照)この具体的な応用として、C12A7中に取り込んだ電子を室温で外部に取出す「冷電子放出銃」、電子の光吸収を利用した「赤外線検出素子」、電子の化学反応性を利用した「還元試薬」などへの展開を期待した。

図1.C12A7エレクトライド
  単位結晶格子あたり12個のケージがあり、そのうちの4個に電子(緑の丸)が緩く束縛されている。

 室温で電場印加により電子を放出する「冷電子エミッター」は、「電界放出型平面ディスプレイ(FED、Field Emission Display)」の平面電子銃として有望視されている。このために、円錐状シリコン(スピント素子)、カーボンナノチューブなどを電子放出部とした平面電子銃の開発が活発に行われている。(図2参照)

図2.スピント平面冷電子銃を用いた電界放出型ディスプレイの模式図

 現在世の中で開発中の材料は、電子を外部に引き出すために高いエネルギー(カーボンナノチューブでは3.7eV)が必要であるが、当グループで開発したエレクトライドは、ナノケージに緩く束縛された電子を高濃度に含んでいるため、より小さなエネルギー(0.6eV)で電子を外部に引き出すことができる。 今回、真空中に設置した平板単結晶エレクトライドに、外部電圧(電極間距離50μm)を印加していくと、1600V付近から引き出し電流が観測され、その値は、電圧の増加とともに急激に増加し、20μA/cm2を超える電流密度が得られた。(図3参照) この測定では材料の基礎物性を調べるために、平面形状で、しかも50μmという大きな電極間距離を用いている。そのため、デバイスとしては一番不利な測定条件となっており、放出電圧が1600V以上と高い。しかし、今後、エレクトライドに微細加工を施し、円錐状シリコンのような先端の尖った形状に加工することにより、印加電圧の更なる低電圧化が期待できる。

図3.冷電子電流の印加電圧依存性    室温では、1600V付近から電子放出が見られる。

 実際に引き出された電子を蛍光体に照射すると、青、緑の発光が見られ、FEDの平面冷電子銃として機能することが示された。(図4参照)

図4.エレクトライドから引き出された冷電子を蛍光体に照射して得られる発光

[論文名] Field Emission of Electron Anions Clathrated in Subnanometer-Sized Cages in [Ca24Al28O64]4+(4e-) ([Ca24Al28O64]4+(4e-)が有するナノ籠構造に包接されている電子陰イオンの電界放出特性)

 

野村研二君、MRS Student Award (Gold)を受賞 !

 去る413日にサンフランシスコで開催されたMRS Spring Meetingこの春 博士課程を修了した野村研二君が Student Awardの金賞を受賞しました。

 透明酸化物半導体 InGaO3(ZnO)mのエピタキシャル薄膜を作製し、その電子輸送特性を詳細に調べたもので、電子キャリア濃度が大きくなると、一般的な半導体と逆に、移動度が増大するという特異的な現象を発見し、アンダーソン局在でそれを説明したものです。この結果は、先にこの物質で高性能透明トランジスタができることを報告したScience (2003年) 論文の詳報にあたります。

 MRSStudent Awardで日本人が金賞に選ばれることはこれまで殆どなかったことで、快挙といえるでしょう。おめでとう(尚、銀賞は当研究室の柳さんが学生の時に受賞しています)。

JST-ERATO 細野プロジェクト作製のビデオが科学映画祭グランプリを受賞 !

 科学技術振興機構 創造科学技術推進事業 細野透明電子活性プロジェクトの研究成果をまとめたビデオ「コンピュータが透明になる?!」−セラミックス・ルネサンス−」 (日本テレビビデオ製作)が、第14TEPIA ハイテクビデオコンテストで140件の作品の中でトップの評価を受け、グランプリを受賞いたしました。

 若い人たちに科学研究の感動を与える内容との講評を頂きました。思ってもみなかった受賞で、関係者一同びっくりしています。

受賞式の様子@TEPIA ホール

   その他の受賞作品一覧などは、以下のサイトをご覧ください。

http://lib.tepia.jp/contest/14hitech/hyousho04/index.html

 

春の学会などで4件の受賞 !
1. D3  平松秀典君 第15回応用物理学会 講演奨励賞
「自然超格子を有するオキシカルコゲナイドLnCuOChエピタキシャル薄膜のワイドギャップP型縮退伝導と室温励起子発光」
 GaNでも実現していない透明でP型縮退伝導を示すエピ膜を初めて実現した。

2. D2 松石 聡君 第15回応用物理学会 講演奨励賞
「電子が陰イオンとなる安定な無機結晶:[Ca24Al28O64]4+(4e-)」
 電子がアニオンとして働くイオン結晶であるエレクトライドで、20年来の課題であった室温・空気中で安定な物質を合成した。

3. 細野秀雄 平成15年度 日本化学会 学術賞
「ナノ構造を利用した透明酸化物の機能開拓」
 研究室+ERATO透明電子プロジェクトで行った過去5年間の研究成果が評価された。

4.細野秀雄、大登正敬(昭和電線),菊川信也(旭硝子) 手島賞(発明賞)
「深紫外用光ファイバーの開発」
 ArFエキシマレーザ(発信波長193nm)のパワー伝送に耐えられる光ファイバーを開発した。

5.細野秀雄
 セラミックス・アカデミー学術会員(2004)


塩に光で集積型微小レーザの書き込みに成功 (動画はこちら
 科学技術振興機構 創造科学技術推進事業 細野透明電子活性プロジェクト(総括責任者 細野秀雄 東京工業大学応用セラミックス研究所教授)の河村賢一研究員(研究室OB)+大学院生(M2)高水大樹君は、金沢大学 黒堀利夫教授との共同研究により、500フェムト秒程度の超短時間パルス幅を持つパルスレーザを用いて、塩の一種である弗化リチウムの結晶中に、発光センター、光導波路、および光反射用回折格子を集積した「分布帰還型レーザ(DFBレーザ)」共振器構造を形成し、室温で、赤色レーザ発振させることに成功した。   DFBレーザは、光反射板として回折格子を用いた共振器から構成されるレーザで、発振波長の単色性および高速変調特性に優れていることに加え、小型、集積化が可能であるという特徴を有し、広い分野での用途が期待されている。しかし、現状では、DFBレーザの共振器、特に、回折格子は、複雑なリゾグラフィープロセスにより作成されているため、光通信用光源など限られた用途で実用化されているに過ぎない。   細野プロジェクトでは、フェムト秒パルスレーザ光を用いた独自の「フェムト秒レーザ干渉露光法」を開発し、透明固体材料内部に微小回折格子を記録することに成功しているが、今回は、その技術を弗化リチウムのDFBカラーセンター作成に適用したもの。開発されたレーザは、簡単なプロセスで、固体内部に形成された非常に小型であり、光集積回路の光源としての用途が期待される。また、同露光法を用いれば、ほとんど全ての透明材料内部に回折格子を形成することができるので、GaNなどの半導体レーザ用回折格子形成プロセスへの展開が可能であると期待される。 この研究成果は1月19日発行の米国「Applied Physics Letters」にトピックス論文として掲載された。 

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 レーザは、発 光媒体一対の反射板で挟んだ光共振器で構造される。反射板は、光学鏡、結晶のへき開面が用いられることが多いが、回折格子を用いることもできる。こうしたレーザ構造を分布帰還型レーザ(DFBレーザ)と呼ぶ。DFBレーザは、発振波長の単色性および高速変調特性に優れていることに加え、一つの固体中に作り込む事ができ、小型、集積化が可能であるという特徴を有し、広い分野での用途が期待されている。しかし、現状では、DFBレーザの共振器、時に回折格子は、複雑なリゾグラフィープロセスにより作成されているため、光通信用光源など限られた用途で実用化されているに過ぎない。簡単なプロセスでDFBレーザを作成することができれば、光デスク用光源、光集積回路用光源など多くの分野で実用化が進むと期待される。 細野プロジェクトは、フェムト秒パルスレーザ光を用いた独自の「フェムト秒レーザ干渉露光法」を開発し、その手法を用いて微小回折格子を透明結晶内部に記録することにて成功している。さらに、こうして作成した回折格子を利用したDFBレーザの開発を進めてきた。今回DFBレーザの開発に成功したのは、塩の一種であるフッ化リチウムの結晶である。LiF結晶に、X線を照射すると、イオンの一部が本来の位置から抜けた欠陥(FおよびF+センター)が生成し、この欠陥を用いたカラーセンターレーザが知られていた。同プロジェクトでは、LiF結晶にフェムト秒パルスレーザーを照射すると、X線と同様に高濃度の欠陥が生成する事、また、欠陥が生成された領域の光屈折率はレーザ非照射領域より大きくなることを見出した。すなわち、フェムト秒レーザーにより、弗化リチウム結晶中に発光センターを含む光導路を形成できることを見出した。さらに「フェムト秒レーザーシングルパルス干渉露光法」で、多数の微小な回折格子を、隣接させて帯状に書きこむことで、微小なDFBレーザ構造を作成した。 具体的には、まず、一発の干渉させた超短時間パルスレーザを弗化リチウム結晶に照射し、結晶内部に、直径50ミクロン程度の微小回折格子を記録した。次に結晶を平行移動させて、二つ目の回折格子を隣接して記録し、さらにこの手順を繰り返して、帯状に並んだ回折格子群を形成した。こうした回折格子は、そのフリンジの間隔で決まる特定の波長を反射する鏡として機能する。また、回折格子を記録した領域には、発光センターが形成され、同時に光屈折率が増加する。この結果、帯状の回折格子は、レーザ発光媒体および光導波路としても機能する。すなわち、干渉した長短時間パルスを位置をずらして照射するだけで、弗化リチウム結晶中に、BFBレーザ構造を作り込む事ができる。 こうして作成したDFBレーザ共振器に450nmのレーザ光を照射すると、707nmの鋭い波長ピークを有するレーザ発振光が得られた。なお、発振波長は、回折格子のフリンジ間隔で決まっており、パルスレーザの干渉パターンを制御することで、変化させる事ができる。    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

図1  弗化リチウムカラーセンターレーザの発振スペクトル      DFBレーザ発振では、707nmの鋭い発振スペクトルである。      回折格子がない領域では、ブルードな発光スペクトルが見られる。


図2  DFBレーザ構造の模式図と実際に作成されたレーザの顕微鏡写真

図3  DFBモードで発振している写真


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