有機薄膜製膜装置

著者: 金 起範、博士課程1年生 (2005年度)

1. どんな装置ですか?

 

 本設備は、様々な種類の有機材料と金属材料を蒸発させて薄膜を作り、これを積層することにより有機発光ダイオードや有機トランジスターなどのデバイスを作製することが可能な装置です。電気伝導性、半導性を持つ有機材料の薄膜を、膜厚計で烝着速度を精密に制御しながら製膜します。

 今までの一般的な常識では、有機材料は絶縁体、即ち電気を通さない材料でした。最近、様々な有機材料での電気伝導性が見つかり、フレキシブルで透明なデバイスを低価格で製造できる可能性に大きな関心が集められています。有機電子材料には低分子と高分子があります。薄膜の作り方も、材料によって異なり、低分子材料は真空蒸着法で、高分子材料はspin coating法やink jet printing法が使われています。

 本研究室では、低分子材料で研究をやっています。 本研究室ではこのような機能性有機材料と透明導電性酸化物材料との界面の電子構造を解明する事に関心を持って研究を遂行しています。


図 1. 有機発光ダイオードの概念図

 

2. どんな原理ですか?

 本来分子量が小さな有機材料は、熱を受ければすぐに傷ついてしまいますが、10-5 Pa程度の高真空中で熱を加えれば、より低い温度でも蒸発が起こります。たとえば、常圧では水は100℃で沸騰することが知られていますが、高い山に上れば(圧力が下がれば)100℃以下でも沸騰するようになります。同じように高真空中では、より低い温度で有機材料を飛ばして烝着する事ができるわけです。また、有機材料は無機物質と異なり、酸素や水があると容易に酸化される恐れがあるため、特に水分までも吸着して低分圧を実現できるクライオポンプ(cryogenic pump)を使うのが一般的です。

 膜厚計は、圧電性を持つ水晶振動子の上に薄膜を堆積させ、共振周波数の変化によって堆積した薄膜の厚さを精確に測る装置です。高い膜厚精度が必要とされ、様々な物質の多層膜を作る必要のある電子デバイスでは、必ず必要な装備です。 但し、無機材料の場合は膜の密度が分かりますから重さ(共振周波数の変化で一次的にわかるのは薄膜の質量です)で厚さを換算する事ができます。一方、有機材料の場合は、バルク状態が存在しないため、最初にellipsometer等の装置で膜厚を測ってキャリブレーションを行い、設定値を入力する必要があります。

 この製膜装置で使用が可能な材料には、Alq3、NPD、CuPc、pentaceneなどの有機材料や、Al、 Mg-Ag、Au等の金属材料などあgあります。これらをマスクでパターニングしながら積層することで、様々な有機電子デバイスの制作が可能です。

 また、本装置には、UPS/XPS及びGlove Boxが接続されており、高真空環境を破らずに、試料の表面状態を分析したり、清浄状態を維持したまま試料を封止したりできるようになっています。

図 3. 本装置の平面図