東京工業大学 元素戦略MDX研究センター
神谷・片瀬 研究室

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常識を覆す新しい電子機能材料とデバイスを創る

使える新しい機能材料とデバイスの開発

室温で作っても高性能なアモルファス酸化物半導体(AOS)
IGZO  2004年以前は、Si, GaN や ZnO のような結晶でないと「良い半導体」はできないと信じられていました。 それに対して私たちは、 In-Ga-Zn を成分とする酸化物 IGZOが、 アモルファスであるにもかかわらず、 高性能なトランジスタを作れることを実証し、図(上)のような 透明でフレキシブルな高性能トランジスタを発明しました。 この技術は、 iPad, Surface Pro4 や 88型8L有機EL TV などに使われています。 さらに最近では、図(下)のように、世界で初めて無機の発光薄膜の室温形成に成功し、 有機ELを超える新しい発光デバイス・ディスプレイの実現も視野に入ってきました。
[関連論文] K. Nomura et al., Nature (2004), Science (2003)., K. Ide et al., Appl. Phys. Lett. (2022).
紹介記事最近のプレス記事

 

今まではできないと信じられてきた材料を実現

バンドギャップが 4 eV 以上のアモルファス半導体
IGZO  上でも述べたように、アモルファス半導体の特性は良くないと信じられてきました。 私たちはこの迷信を AOS によって覆したわけですが、次には「バンドギャップの大きいアモルファス半導体は作れない」という迷信がありました。 私たちは, アモルファス酸化物におけるドーピング機構と欠陥をきちんと理解することにより、 バンドギャップ 4.12 eVのアモルファス酸化物半導体a-Ga-O(右図)の開発に成功しました。超ワイドバンドギャップAOS薄膜を用いたパワーデバイス応用が期待できます。
[関連論文] J. Kim et al., NPG Asia Mater. (2017).

 

コンピュータを利用して科学者の常識を覆す新しい材料の設計

絶縁体と信じられていた元素から半導体を創る
IGZO  新しい材料を見つけるというのは、大変な仕事です。化学組成を変えてたくさんの物質を合成するというのは有効な研究方法ですが、新材料は、行き当たりばったりに材料合成をしても見つけることはできません。当研究室では、「なぜこの材料がいい特性を示すのか」を理解し、「もっと特性をよくするためにはどうしたらよいのか」を予測(期待)し、「実際に材料を合成して確かめる」というプロセスで研究を進めています。分子動力学法、第一原理量子計算、機械学習やデバイスシミュレーションなどのコンピュータ支援と、材料研究者としてのひらめきを組み合わせ、教科書に書いてあることを超える新しい材料を設計、開発しています。
例えば、酸化Geや酸化Siは 6 eV 以上の大きなバンドギャップを持ち、非常に良い絶縁体として知られています。 しかし、図のような量子計算によって電子構造を正しく理解すると、 立方晶構造の SrGeO3 はバンドギャップが 2.7 eV へ、BaSiO3も4.1 eVへと極端に小さくなり、 良い透明導電体になることが予測されました。前者は実験的にも実現しました。 このように、計算機シミュレーションを援用することにより、物質に関する新しいセンスを身につけ、 画期的な新材料を開発することが可能になります。
[関連論文] H. Mizoguchi et al., Nature Commun. (2011).

 

超精密薄膜化技術と電界変調法を駆使した新しい機能デバイスの開発:超省エネ素子の実現に向けて

天然には無い新しい人工結晶材料と新原理デバイス
IGZO IGZO  原子層で人工的な界面を形成したり、外部電場などで物質中の電位や電子濃度を制御することによって、 天然材料では実現できない、新しい機能が発現します。 原子一層毎に積層できる精密薄膜化技術と巨大電界変調法を駆使して、新しい機能薄膜と光・電気・磁気機能を制御・利用するデバイスの開発を進めています。
例えば、鉄系超伝導体の超高品質薄膜に人工粒界を形成することで、ジョセフソン接合素子と超伝導量子干渉(SQUID)素子を世界で初めて実現しました。従来の銅系材料では結晶粒界において臨界電流密度(Jc)が極端に減少する問題があり、実用化の課題になっていましたが、鉄系超伝導体の母相が金属であることに着目し、鉄系超伝導体ではJcが9oの大傾角粒界まで殆ど減衰しないことを明らかにし、実用レベルを超えるテープ線材の試作に成功しました。これらの発見は、鉄系超伝導体の送電応用に大きく貢献しています。

IGZO 陽イオンを網目状に整列させる固相エピタキシー法を独自に開発することで、室温強磁性酸化物半導体薄膜を実現し、 全酸化物強磁性接合素子への応用が期待されています。また、電界印加により、電気化学的に遷移金属酸化物の光・電気・磁気特性を自在に制御する多機能結合型デバイスの試作に成功しました。電気信号だけでなく、光・磁気信号を同時に制御することによって、高容量で多機能な情報表示・記憶素子への応用が期待されます。
[関連論文] T. Katase et al., Nature Commun. (2011)., PNAS (2014)., Adv. Electron. Mater. (2015, 2015, 2016)., Sci. Rep. (2016)., Science Adv. (2021).プレスリリース, X. He et al., ACS Appl. Mater. Interfaces (2022).

 

廃熱から電気を作る:新材料設計による熱電変換の革新

廃熱を効率よく電気に変える熱電変換材料
IGZO  私たちの周りには「熱」という無限のエネルギーが至る所に存在しますが、現在は使うことができていません。 化学的に安定で無害な物質で微少な熱を電気に変えてエネルギーを高効率に回収できる新材料を創れば、 身の周りのあらゆる「もの」を、充電しなくても永遠に自律的に動作する電子情報端末へと変貌させるIoT社会が実現できます。 このような高効率・超省電力デバイスを実現するため、強力な電子格子相互作用やフォノン散乱を制御し利用する新しい発想で、室温付近で優れた熱電変換性能を示す材料の開発に挑戦しています。
[関連論文] C. Yamamoto et al., Adv. Funct. Mater. (2020) プレスリリース, T. Katase et al., Adv. Sci. (2021) プレスリリース, M. Kimura et al., Nano Lett. (2021) プレスリリース, X. He et al., Adv. Sci. (2021) プレスリリース, Adv. Funct. Mater. (2023) プレスリリース

 

熱流を自在に制御できる新材料: カーボンニュートラル実現に向けた廃熱エネルギーの削減・有効利用へ

断熱と放熱を自発的に制御する熱制御材料
IGZO  日本における一次供給エネルギーのうち約1/3は電力や動力などに利用されていますが、残りの約2/3は廃熱として環境中に排出されています。このため、廃熱エネルギーの削減と有効利用は、深刻化するエネルギー問題を解決する重要な課題です。物質内を流れる熱量は、物質の両端に発生する温度勾配と熱伝導率(熱の流れやすさ)に比例します。そのため、熱伝導率が低い材料は熱を流さない断熱材に、また、熱伝導率の高い材料は熱を流す放熱材として用いられています。一方、そのように一定の熱伝導率を持つのではなく、一つの材料で熱伝導率を変化させられれば、流れる熱量を制御することができ、断熱・放熱の切り替えといった、今までにない高度な熱制御を実現できる可能性があります。例えば、低温から高温にかけて熱伝導率が急激に増加する材料があれば、低温側では断熱し、高温側では逆に放熱する機能を持たせることができますが、これまで熱伝導率が大きく変化する材料の例は極めて少なく、熱伝導制御材料の開発は難易度の高い課題とされてきました。このような背景のもと、当研究室では、結晶構造の次元性が温度変化によって可逆的に変化し、低温で断熱して高温で放熱する熱伝導制御材料を開発しました。今後、全く新しい材料設計により、さらに熱伝導率を大きく制御できる材料を開発し、温度管理が重要な自動車の触媒やバッテリ等に応用すれば、デバイスの温度が自発的に調整され、効率のよい熱利用が期待できます。
[関連論文] Y. Nishimura et al., Adv. Electron. Mater. (2022).プレスリリース, X. Hu et al., ACS Appl. Energy Mater. (2023).