ー 熱電変換材料の性能向上に向けた新たな指針 ー
(片瀬貴義准教授、神谷利夫教授)
金属と絶縁体を重ねて熱電変換電圧を10倍に増大
ー 熱電変換材料の性能向上に向けた新たな指針 ー
(片瀬貴義准教授、神谷利夫教授)
東工大プレスリリース 2021年12月03日
東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の片瀬貴義准教授、神谷利夫教授、元素戦略研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究グループは、電気を良く通す酸化物のLaNiO3(ニッケル酸ランタン)を、電気を通さない酸化物のLaAlO3(アルミン酸ランタン)で人工的に挟み込むことによって、熱を電気に変える熱電変換の起電力を10倍に増大させることに成功した。
熱電変換材料は、温度差を与えると発電し、逆に電気を流すと温度差を発生するという性質を持つことから、電子機器の発電素子や小型冷蔵庫などの冷却機器への利用が期待されている。ただし、実用化には小さな温度差から大きな電圧を発生させる性質を持つ熱電変換材料が必要であり、これまで高温で高い性能を出す熱電変換材料は数多く開発されてきたものの、室温に近い低温で高い性能を示す熱電変換材料は例が少なかった。
本研究では、1 nmまで薄くしたLaNiO3の極薄膜を、電気を通さない絶縁体のLaAlO3で挟み込んだ人工構造を作製した。上下に接するLaAlO3のフォノンがLaNiO3の電子を引っ張る「フォノンドラッグ効果」によって、1℃あたりの温度差で得られる熱起電力が10倍に増加することを発見した。さらに、このフォノンドラッグ効果はこれまで-240℃など極低温でしか発現しないとされてきたが、-53℃と比較的室温に近い温度でも働き、室温に近い低温で高い変換性能を示す材料の作製に役立つことも明らかになった。
異なる物質を重ねた構造を設計することで熱電変換材料の性能を大きく向上させたこの発見は、熱電変換技術の普及に向けた材料開発の新たな指針となることが期待される。
本研究成果は米国科学雑誌「Nano Letters」に、10月28日付(現地時間)でオンライン掲載された。
掲載誌 : Nano Letters
論文タイトル :Large phonon drag thermopower boosted by massive electrons and phonon leaking in LaAlO3/LaNiO3/LaAlO3 heterostructure
(和訳:LaAlO3 / LaNiO3 / LaAlO3ヘテロ構造における重い電子とフォノンの染み出しにより増強された巨大なフォノンドラッグ熱電能)
著者 : Masatoshi Kimura1, Xinyi He1, Takayoshi Katase1,2,*, Terumasa Tadano3, Jan M. Tomczak4, Makoto Minohara5, Ryotaro Aso6, Hideto Yoshida7, Keisuke Ide1, Shigenori Ueda3, Hidenori Hiramatsu1,8, Hiroshi Kumigashira9, Hideo Hosono8, and Toshio Kamiya1,8,* (木村公俊1、ホー・シンイ1、片瀬 貴義1,2,*、只野央将3、トムザック・ジャン4、簑原誠人5、麻生亮太郎6、吉田秀人7、井手啓介1、上田茂典3、平松秀典1,8、組頭広志9、細野秀雄8、神谷利夫1,8,*)
DOI: 10.1021/acs.nanolett.1c03143
詳細は東工大ニュースをご覧ください。
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