実力問われる新科学技術計画 【日経新聞社説】
日本経済新聞 2011年08月13日 朝刊2面
政府の総合科学技術会議は、今年度から5年間の科学技術政策の方向を決める第4期科学技術基本計画案をまとめた。
政府はこれまで、情報通信や生命科学などの重点分野を決めて研究費を配分してきたが、第4期は東日本大震災からの復興や産業競争力の強化など、国民や企業が直面する課題の解決につながる研究開発に力を入れる。
課題解決型の研究重視への「転換」は評価できるが、問題となるのは「実行力」だ。社会的課題に科学技術を役立てるには、多様な分野の知識や人材を組み合わせ、実践的な技術や組織を素早く作り出す必要がある。また、これを実行するには、省庁や研究所の垣根を越えて優れた研究者を終結させる指導力や非効率な研究を打ち切り、予算を組み替える見識も必要だが、今の総合科学技術会議では全く力不足だ。科学技術政策の司令塔として、機能強化が求めらてきたが、改革は実現していない。
先ごろ、東京工業大学の細野教授らが開発した半導体技術の特許が韓国企業に先行供与されたり、京都大学の山中教授らが開発した新型万能細胞技術の実用化を欧米企業が先行すると見られているなど、世界に誇る日本の優れた研究成果が企業の競争力に直結していない。これまでも指摘されてきた、国の研究開発と企業の連携不足を密にしなければ、産業競争力を高めるイノベーションを生み出せない。
計画案は5年間で、第3期と同額の25兆円を研究開発に投じるとしたが、額に見合った実効性がなくては困る。
細野・神谷・平松研究室