第36回井上学術賞を受賞(笹川 崇男准教授)
笹川 崇男准教授が、公益財団法人井上科学振興財団の第36回(2019年度)井上学術賞を受賞しました。井上学術賞は、井上財団により自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対して授与されるものです。第36回の同賞では、関係38学会及び本財団の元選考委員、井上学術賞既受賞者など155人に候補者の推薦を依頼32件の推薦を受け、選考委員会における選考を経て5件が採択されました。贈呈式は2020年2月4日に開催される予定です。
研究題目:「トポロジカル物質科学の開拓」
受賞理由:
半導体ヘテロ構造における2次元電子系では、純良・極低温・強磁場 の条件がそろうと材料の種類や素子の大きさには関係なく、電流と垂直方向のホール抵抗が基本物理定数のみで決まる値に量子化される。 この量子ホール効果現象が数学のトポロジー(位相幾何学)を用いて 理論的に説明され、物理分野において「トポロジカル物質科学」の研究が急速に進展している。 さらに物質本来の電子構造に起因する普遍 的物性を発現する物質群として、トポロジカル絶縁体に始まりトポロジカル半金属、トポロジカル超電導体へと広がり、物質科学の新たな一分野が形成されている。
笹川氏は、純良単結晶合成を基軸に、初期から現在までの10年余りに渡ってトポロジカル電子系の新物質や新現象の発見を連発し、この潮流をリードしてきた。2009年春のトポロジカル絶縁体の実験報告は日本初であり、2010年のスタンフォード大学との共同研究のScience 誌論文は、被引用数が900回を超えている。ビスマスやアンチモンのカルコゲン化合物のバルク絶縁性を桁違いに改善した高品質の単結晶試料の開発などを背景に、トポロジカル絶縁体表面にはディラック電子状態が存在することの実験検証、トポロジカル・ナノメモリ機能、トポロジカル・スピン磁性ナノ空間制御法、トポロジカル磁気モーメント評価法、極性トポロジカル絶縁体、特定結晶面にしか表面状態をもたない弱いトポロジカル絶縁体などのトポロジカル絶縁体の研究を開拓してきた。さらに、トポロジカル絶縁体で鍛えられた電子状態判定を半金属物質にも拡張して展開したトポロジカル半金属という新概念の提案、トポロジカル超伝導体におけるマヨナラ準粒子の検出などの ブレークスルーを続けている。
以上のように、笹川氏は、トポロジカル物質科学の最先端を切り拓き、 物理学における新たな学問領域の構築に寄与している。これらの研究成果は世界中が認めるものであり、井上学術賞にふさわしいと判断される。
関連する記事が、東工大ニュースに掲載されました。