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ー 水素を活用した環境調和型熱電材料の開発へ ー
(片瀬貴義准教授、神谷利夫教授)
従来の常識を覆す発想で酸化物の熱電変換効率を向上
ー 水素を活用した環境調和型熱電材料の開発へ ー
(片瀬貴義准教授、神谷利夫教授)

東工大プレスリリース 2023年04月20日

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のホ・シンイ博士研究員、片瀬貴義准教授、神谷利夫教授(以上、研究当時。現 元素戦略MDX研究センター)、物質理工学院 材料系の野元聖矢大学院生(研究当時)、元素戦略MDX研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究グループは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の多結晶体に水素を添加し、高性能熱電材料に必要な「低い熱伝導率」と「高い電気出力」を両立させることで、熱電変換の効率を向上させることに成功した。 

廃熱を電気エネルギーとして再利用するための熱電変換材料には、希少で毒性を有することの多い重元素が使われており、より安価で環境に優しい材料の開発が求められていた。一方、SrTiO3に代表される酸化物熱電材料は、無毒で豊富な元素で構成されるメリットがあるものの、熱伝導率が高いために変換効率が低い問題を抱えていた。 

従来、軽元素を用いると熱伝導率を上げてしまうと考えられており、熱伝導率の低減には重元素を取り入れる手法が採られていた。それに対して本研究では、軽元素の水素を添加することでSrTiO3の熱伝導率を半分以下に低減できることを発見し、量子計算によりその仕組みを解明した。SrTiO3の酸素の一部を水素で置き換えたことにより、結合力の強いTi-Oと弱いTi-Hが混在した結果、熱伝導率が低下することが分かった。また、水素を添加したSrTiO3多結晶体では、結晶の粒界で電子伝導が阻害されず、単結晶材料に匹敵する高い電子移動度を示すことも明らかにした。これら2つの効果により、従来は難しかった「低い熱伝導率」と「高い電気出力」が同時に実現され、熱電変換効率が向上することが分かった。 

今後、水素を添加する方法で、希少元素を使わずに優れた環境調和型熱電材料の開拓が可能になり、熱電変換技術の更なる普及が期待される。研究成果は「Advanced Functional Materials」誌に4月18日付(現地時間)で掲載された。 

掲載誌 : Advanced Functional Materials
論文タイトル : Hydride anion substitution boosts thermoelectric performance of polycrystalline SrTiO3 via simultaneous realization of reduced thermal conductivity and high electronic conductivity
(和訳:水素アニオン置換による多結晶SrTiO3の熱電性能向上:熱伝導率低減と高電気伝導度の両立)
著者 :Xinyi He1, Seiya Nomoto1, Takayoshi Katase1,*, Terumasa Tadano2, Suguru Kitani1, Hideto Yoshida3, Takafumi Yamamoto1, Hiroshi Mizoguchi2, Keisuke Ide1, Hidenori Hiramatsu1,4, Hitoshi Kawaji1, Hideo Hosono4, and Toshio Kamiya1,4,*
(ホ・シンイ1、野元聖矢1、小松武人1、片瀬貴義1,*、只野央将2、気谷卓1、吉田秀人3、山本隆文1、溝口拓2、井手啓介1、平松秀典1,4、川路均1、細野秀雄4、神谷利夫1,4,*) 
所属: 1 東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所
    2 物質・材料研究機構
    3 大阪大学 産業科学研究所
    4 東京工業大学 元素戦略研究センター
DOI: 10.1002/adfm.202213144

詳細は東工大ニュースをご覧ください。

 

 

神谷・片瀬研究室



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