圧電顕微鏡によるチタン酸バリウムナノ粒子の強誘電性の直接観測に成功
 我々のグループは、酸化物強誘電体ナノ粒子の強誘電性を直接電気的に測定することに、世界で初めて成功しました。
 数年前までは、強誘電性酸化物はその粒子サイズを小さくしてゆくと、数十ナノメートル以下になると強誘電性が消失すると考えられ、これが磁性体粒子の挙動と異なる特異な性質であると信じられてきました。これが酸化物強誘電体の本質であれば、特定のサイズ以下の粒子を使ったデバイスやコンデンサーが作製不能となるため、強誘電体の応用に関する1つの問題点となっていました。この問題点を解明するために、過去20年間以上世界中の研究者により様々な研究がくり返し行われてきました。我々の研究室のJSPS外国人特別研究員Sugata Ray博士は、応用セラミックス研究所吉村昌弘教授らのグループのJSPS外国人特別研究員Yury V. Kolen'ko博士と共同でチタン酸バリウム(BaTiO3)の良質なナノ粒子を作製し、この粒子を走査型プローブ顕微鏡で電気測定が可能となるようできるだけ単分散に近くなるように基板上に分布させる方法を考案しました。従来は、PFMの観測には、主に白金等の金属を蒸着した基板の上に被測定物を固定して電気測定を行うのが一般的でしたが、本研究のように、ナノ粒子を導電性酸化物上に置いて測定するという試みは、あまり行われていません。Sugata Ray博士は数ヶ月にわたる試行錯誤の結果、最も適切な酸化物基板と、その上に電気的な信号が取れる程度の適度な粒子の固着のための熱処理条件を最適化した結果、最終的に、圧電信号を得ることに成功しました。この測定には、JST研究員符徳勝博士が組み立てた圧電顕微鏡(PFM)を用いています。市販のPFMではおそらくこの観測に成功しなかったと考えています。従来のこの分野の研究では、ナノ粒子を適度に焼結したバルク体で観測を行っています。しかし、焼結体では各粒子は周りの粒子によってクランプされており、このような状態で強誘電性を測定しても、それが粒子単体の性質を測定しているか疑問がありました。
 本研究結果の重要な点は、強誘電体が強磁性体粒子と同様に臨界サイズ(数ナノメートル程度)まで自発分極を持ち得ることを電気的に初めて直接観察したことにあります。数ナノメートル程度の大きさの単一粒子の強誘電性を直接確かめることができれば、物理の基礎データとして重要であるばかりでなく、従来よりも更に小さなコンデンサーや高密度メモリへの展開が可能となります・
図1

図1は粒子サイズが平均で25nm(A)と35nm(B)のBaTiO3粒子の粉末X線パターンを示します。これは粒径の差に起因しています。線幅からシェラーの式を使って粒径を見積もると27nmと37nmとなりました。これは透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡で調べた平均粒径とほぼ一致します。またラマンスペクトルはバルクのBaTiO3と同じパターンであることを確認しました。つまり、本実験で使用したナノ粒子は光学的には強誘電相の正方晶をとっていることを示しています。
図2 

図2は透過型電子顕微鏡によって粒子の形を調べた結果を示します。本研究で使用した粒子はごく表面を除いて良好な結晶性を持つことが分かります。また、各粒子は四角い形状で、また各面は(100)面であることが分かります。これは強誘電体の分極方向が紙面に垂直あるいは平行であることを示します。
図3 

図3は基板上に分布させたナノ粒子の様子と高さのスキャン結果を示します。粒子は積み重ならず単分散に近い形で分布していることが分かります。
図4 

図4はPFMでナノ粒子の強誘電性に伴う圧電ループを示しています。それぞれの粒子とも強誘電性がはっきりと観測されました。これ以下の大きさの粒子の強誘電性を調べましたが、今のところ明確な信号をとらえることはできていません。これが装置の限界なのか、ナノ粒子の基板への固定の方法が悪いのかは現在までの所、明らかになっていません。いずれにしても装置の更なる改良や、測定方法の改善により、さらに小さなナノ粒子の電気特性についても定量的に情報を取り出すことができると考えられます。
 本研究成果は、"Direct Observation of Ferroelectricity in Quasi Zero Dimensional BaTiO3 Nano Particles"の題目でWileyの学術論文誌"Small"のvol.2, No.12 (2006), p1427に掲載されました。